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戦場のプロポーズ【2】

イデオン視点。










 討伐師を取りまとめる総帥となったスティナは、この国のあちこちを飛び回るようになった。そのため、会える時間は減ったがそれでも、互いを思う気持ちは変わっていない。スティナを思う気持ちなら誰にも負けない自負がある。

 スティナが『変わらない』と言ったその対象がイデオンの性格のことであるのはわかっている。イデオンはあえてボケたのだ。こういうことをするから天然かわからない、などと言われるのである。

 イデオンはあまり変わらないが、スティナはだいぶ性格が穏やかになった。表情が柔らかくなったし、昔に比べると言葉も柔らかい気がする。彼女曰く、『あの口調は子供だからこそ許された』らしい。確かに、大学を卒業するころにはあまり見られなくなったか。


 スティナもイデオンも絶対に口にしないが、この年になると結婚を意識しだす。というか、五年も付き合っている時点で考えるだろう。特に、イデオンはすでに三十に届こうとしている。

 今一つ踏み切れていないのは、別にイデオンがヘタレだからではない。どちらかと言うと、スティナの方がヘタレだ。いや、これはヘタレと言うのか?

 おそらく、スティナは自分が討伐師の総帥であることに責任を感じている。おそらくと言うか、絶対だ。

 自分は先に死んでしまうかもしれない。そう思うから、スティナはイデオンに結婚をほのめかされてもうなずけない。うなずかない。


 それがスティナらしいと思うが、同時に少しさみしくもある。

「どうしようか。映画でも見に行く?」

「いや……とくに見たいものはないな」

 意外にスティナはミステリーやサスペンスを好む。いや、意外ではないのか? いわく、恋愛映画などはいまいち理解できないし、アクション映画だと動きの不自然さに目が行ってしまうらしい。というか、彼女とイデオンは恋人同士ではなかっただろうか。

 とりあえず、消去法としてミステリーやサスペンスが残るのだ。あとは、結構時代物も好きらしい。

 と言ったものが、今やっている映画のラインナップにはない。あるにはあるが、スティナの興味が惹かれないらしい。

 ならちょっと買い物でもして帰ろうか、と言うことになり、百貨店をのぞきに行った。イデオンはふと思って尋ねる。


「スティナちゃん、次はどこに行くんだっけ」

「西南部の海洋都市リドホルムだ。三日後に出発する」

「海かぁ。日焼けに気を付けてね」

「わかってる」


 スティナは肌が弱い。色白の人間には多いらしいが、日に当たりすぎると肌が真っ赤になりやけどのようになるのだ。一度、真夏の炎天下の中ヴァルプルギスの討伐を行ったとき、首筋が焼けて真っ赤になったことがあった。本当にやけどだった。まあそもそも、日焼けは軽度のやけどだとも言うけれど。

 イデオンはサングラスを手に取る。

「ほら、サングラスとかどう?」

「意味ないだろ」

 スパッと一刀両断された。イデオンはサングラスを元に戻す。

「まあ、単純に日焼け止めとかのほうが効果がありそうだけど」

「上着とか着ていても、戦うとなるとあまり意味がないからな」

 全国各地を飛び回っている総帥スティナであるが、ヴァルプルギスとの戦いから遠ざかっているわけではない。出先でヴァルプルギスと遭遇することも多く、そう言う時は戦わなければならない。当然であるが。


 総帥一行が行っているのは調査だ。ヴァルプルギスが現れた場所の地形や気候、人口などを調べ、ヴァルプルギスについて研究している。いわば研究員なのだ。相手に迫ると言うことは、相手から狙われると言うことであり、何気に危険な仕事である。そのため、腕に自信がある討伐師が研究を行うのだが、いつしかその人物が討伐師を取りまとめる立場になったらしい。過程が不明だけど。

 もともと発達学の分野からヴァルプルギスについて調べていたスティナだ。この仕事が性に合っているらしく、四年間、根をあげたことはなかった。

「日焼けしてもその後のスキンケアで多少ましになるって聞いたことあるけど」

「私の場合はやけどに近いから、治療した方がいいんだと」

「なるほど……」

 医者でもあるオルヴァーの言うことなら確かだろう。イデオンはあっさりと引き下がった。


 たとえ日焼けしようが何だろうが、イデオンとしてはスティナが無事に帰ってきてくれればそれでよい。まあ、イデオンがあっさりと彼女を送り出せるのは、彼女がミカルに次ぐ実力者で判断能力にも優れていると知っているからだ。彼女に対する信頼が、イデオンに快く見送りをさせている。

「資料持ったか」

「持った」

「身分証は?」

「持ったよしつこい!」

 スティナにしつこいと言われているのはミカルだ。ただ、ぎりぎりまで監査室本部でバタバタしているスティナも悪い。

「行ってくる」

「うん。行ってらっしゃい」

 ひらひらとイデオンは手を振った。ミカルも「気をつけろよ!」と親ばかである。親ばかと言うか、心配性と言うか。


 あわただしくスティナと三名の調査員が出ていく。討伐師がもう一名合流するはずだ。


 スティナが出発して一時間ほどたったころ、監査室に通報が入った。監査に行っていた監査官から緊急要請である。要するに救援要請だ。

 ヴァルプルギスの大量発生と聞けば、五年前からいる監査官たちは『ヴァルプルギスの宴』事件を思い出さずにはいられない。

「とにかく、救援に迎える討伐師を連れてすぐに現場に行ってくれ」

「わかりました」

 室長に命じられたリーヌスがすぐに返事をし、イデオンに目くばせした。わかっている、とばかりに彼も立ち上がる。ミカルも同時に立ち上がった。

「私も行ってきます」

「あ、ああ、そうだな」

 室長は不意を突かれた様子でうなずいた。ちなみに、現在の討伐師の最高指揮権は総帥であるスティナにある。だが、彼女がいない今、ミカルに指揮権がある。と言うか、スティナもまだ若い女性だ。事実上の指揮官は今もミカルになるだろう。


 と言う話は置いておき、現場に直行したのだが……。

「……なんですかこれ」

「俺も初めて見たな……」

 イデオンもリーヌスも呆然とそれを見上げた。いや、ヴァルプルギスだと思うのだが、何と言うか、でかい。


 獣型のヴァルプルギスにはあったことがあるが、大きさが人間以上のヴァルプルギスは初めて見た。


 体長は人間の二倍近く。おそらく三メートルくらいか。皮膚が硬くなっているヴァルプルギスが多いが、こいつは普通の人間の皮膚のようだ。ただ、歯が鋭く、足元の草木は腐っていた。


「……嫌な予感」


 巨大ヴァルプルギスのほかにもヴァルプルギスがいる。討伐師は七名、監査官は十二名。『ヴァルプルギスの宴』事件ほどの大量発生ではないし、彼の場所とは違い、ここは首都郊外の湖の近くである。そのため、人が少ない。避暑地なので、時期的に人が居ないのだ。なので、討伐師たちも思いっきり暴れている。

 連れてきた討伐師はミカルをはじめ、ニルスやアニタ、ケヴィンなど手練ればかりだ。ニルスとアニタが指導中の討伐師にもともとここに派遣されていた討伐師も加え、計七名。

「もう少し討伐師が欲しいな……連絡を取ってくれ。それと、スティナを呼び出せるようならあいつも」

「わかりました」

 監査官がミカルの指示に従う。ここは平地なので、イデオンの狙撃があまり効果を発揮できない。高所がないと狙撃は意味がない。


 初めから平地戦になることはわかっていたので、イデオンは熱線銃ブラスターを持ってきていた。それを取り出す。

「俺は周囲を調べるから、お前は討伐師たちの援護」

「了解です」

 そう言われることはわかっていたので、苦笑してイデオンはブラスターを構えた。ニルスを狙っていたヴァルプルギスの肩を打ちぬいたが、皮膚の表面を焦げさせただけだった。

 さらにミカルに請われて巨大ヴァルプルギスの目を撃ちぬこうとするが、外してしまった。


「イデオン!」


 リーヌスに名を呼ばれた。イデオンは振り返る。と。

「!?」

 まずい、と思ったが、討伐師ほどの反射神経のないイデオンは別方向から向かってきたヴァルプルギスの襲撃を受けたのだ。


 ……ちなみに、あとで言われたのだが、ブラスターで撃てばよかっただろうと。確かにその通りだと思った。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


イデオン、打とうとすると、うち損ねて遺伝になることがよくあります。


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