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夏休みの過ごし方【6】

夏休みすぎてるけど夏休みの続き。









 夏休みが終わり、新学級が始まったころ、リーヌスとヴィルギーニアの結婚式が行われた。夏休みの初めに動き出したことを考えれば、驚くべき速さである。

 ただ、式を行うにあたって少し問題があった。新郎新婦側ではない。参列者側の問題だ。

 リーヌスもヴィルギーニアも監査室、討伐師に深く関わりがある。そのため、招待客は監査官や討伐師が多くなるのが必然だ。だが、まさか監査官も討伐師も全くいなくなるわけにはいかない。

 そのため、初めから動員する人間を決めておくことにした。さくっとヴァルプルギスを倒して帰ってくることができる人間を、実力の順に動員して行く。まずミカル、その後にスティナ、ニルス、オルヴァー、と言う風に。


 何気にヴィルギーニアが「絶対に来てね!」と言っている人物ほど動員される可能性が高くなっているが、仕方がない。ここでへたにアニタなどを出すと逆に長引く。


 そして、そう言う日に限ってヴァルプルギスと言うものは出没するものである。スティナは横ざまに剣を振りぬき、ヴァルプルギスを両断した。その場に両足をついて仁王立ちした。


「さすがスティナちゃん。間に合いそうだね」

「行かなかったらそれはそれで文句を言われるからな」


 スティナはそう言いながら剣を鞘に納めた。ヴァルプルギスの遺体を回収して供養するまで保管しなければならない。

 ヴィルギーニアはスティナに「絶対来てね!」と言っていた。彼女も討伐師のことをわかっているから、たとえヴァルプルギスと戦っていて行けなくてもむくれるくらいですむと思う。しかし、たぶん、いつまでも根に持つだろう。彼女は。

「というか、女の人は準備に時間かかるでしょ。大丈夫なの?」

「花嫁より目立つな、と言われたからな。そんなに派手な格好をしていくわけじゃないし」

 むしろ化粧とかしないで行ってもいいかな、と思っている。ただでさえ、スティナの銀髪は目立つのだ。ヴィルギーニアも美人であるが、参列者であるスティナが目立たないようにするに越したことはないと思う。


 監査室に戻り、ヴァルプルギスを安置すると、少し遅れたが予約していた美容室に向かった。髪はアップにした方が良い、と言われたので。

 時間がないので簡単に結い上げてもらう。『ヴァルプルギスの宴』事件の際に短くなった髪だが、その後、それなりに伸びている。最近はセミロング程の長さになってきたので、ポニーテールにしていることが多かった。単純に、その方が涼しいと言うのもある。ちなみに、オルヴァーには首が焼けるからやめろと言われている。

 髪を結ってもらい、さすがに軽く化粧はした。そして、ドレス着用である。濃い紫のロングドレスだ。袖がないタイプなのでショールを羽織る。どこぞの夜会に行ってもおかしくはない恰好であるが、今から行くのは結婚式である。


「相変わらずそう言うドレス似合うね」


 待ってくれていたイデオンがスティナを見て微笑んだ。スティナは「破いてしまいそうだ」と顔をしかめる。足元も高くはないがヒールがあるので少し安定が悪い。

 式場に着くと、スティナたちが最後だったようだ。先にヴァルプルギスの討伐に出ていたミカルもすでに到着していた。

 今日は式だけだ。披露宴は行わないらしい。披露宴まで行うと、マスコミを排除しきれないから、と言うのがヴィルギーニアの言だ。

「ヴァルプルギスは?」

「倒した。そちらは」

「私に抜かりがあると思うか」

「思わない」

「だろう」

 自信満々な二人だ。だが、この二人だからこの言動も許される。イデオンがスティナの隣で苦笑した。


「やっぱり、二人は似てるね」


 スティナは肩をすくめた。顔立ちはともかく、性格も似ていると言うのはいかがなものだろうか。

 式場は教会だった。小さな教会だ。チャペルの中央のヴァージンロードをヴィルギーニアがゆっくりと歩いてくる。彼女の両親は健在だ。エクエスの力は遺伝が多いのだが、ヴィルギーニアは隔世遺伝で、母方の祖父が討伐師であったと言う。スティナと似たような感じだ。

 祭壇の前までたどり着くと、ヴィルギーニアはリーヌスの手を取り、にっこりと笑った。リーヌスも笑みを浮かべている。こういうのを見ると、平和だなぁと思う。


 式典を終えて外に出ると、アニタがぼろぼろ泣いていた。彼女は目にも鮮やかな赤いドレスを着ていて大人びて見えるのだが、それが残念に見えるくらい大泣きしていた。そろそろ彼女の涙もろさはどうにかならないのかとちょっと思う。

「泣きすぎだろ」

「だって~」

 スティナはアニタの頭をポンポンと叩いた。ニルスが苦笑しながらアニタの顔を拭っている。化粧が剥げている気がするが、指摘しないことにした。

 花弁の入った籠が配られた。あれか。外にも敷かれたロードを新郎新婦が歩いてくるから投げろと言うことだろうか。


「これ、投げろってこと?」


 念のためイデオンに尋ねた。イデオンは「たぶんそう言うことだね」とうなずく。

「デシレアの結婚式のときは違うことをしたのか?」

 スティナは結婚式に参列するのは初めてである。彼女の交友関係はせまい。彼女の知り合いの大半を占める討伐師は、未婚者が多かった。

「まあ、式にもいろいろあるということだよね。僕も良くわからないけど」

 イデオンは苦笑してそう投げ出した。

「何、もう自分たちの結婚式の相談?」

 ニルスがアニタの背を叩きながら言った。スティナは籠を腕に引っ掛けたまま腕を組んだ。

「時々、ニルスのが冗談なのかよくわからない」

「今のは半分本気だけどね」

 ニルスがそう言って笑ったとき、教会から新郎新婦が出てきた。拍手と歓声をもって迎えられる。スティナも場に習って拍手をした。二人が通ると両脇に並んだ参列者たちが花弁を投げた。二人の白い衣装が色とりどりの花弁で飾られていく。


 近くまで来たので花弁を投げようとスティナも籠に手を突っ込んだ。一掴み分を投げた時、ヴィルギーニアが話しかけてきた。タイミングが悪かったので、スティナは彼女の目の前に花弁を投げてしまった。二人の間にちらちらと鮮やかな花弁が舞う。

「スティナもミカルも来られたのね。よかったわ」

 ヴァルプルギスが出た、という話は聞いていたらしい。リーヌスに関しては「来なくてもよかったんだがなぁ」と言っている。どうやら、妹分に自分の結婚式を見られるのが気恥ずかしいらしい。ならば、とスティナは携帯端末を取り出して写真を撮った。ヴィルギーニアは笑ってくれたが、リーヌスは途端に仏頂面になった。

「笑えよ」

「その言葉、そっくりそのまま返してやる」

「そこ、兄妹喧嘩しない」

 ヴィルギーニアにツッコまれて、スティナは肩をすくめた。晴れの日にこれ以上水を差す気はない。


「……おめでとう」

「あら、ありがと」


 ヴィルギーニアは茶目っ気たっぷりに片目を閉じた。スティナは少し頬を緩めると、歩き出した二人に花弁を投げた。

 最後、ブーケトスを行うことになり、ちょっと問題が起きた。花嫁の投げたブーケをとると次に結婚できる、というジンクスがあるためだ。盛り上がる女性陣を前に、スティナは不参加を決め込んでいた。

「スティナ、行かないの?」

 アニタに尋ねられ、スティナはうなずいた。この時、アニタはすでにスティナより背が高かった。

「むしろお前は行くのか」

 アニタはまだ十七歳だ。結婚を気にする年齢ではないと思うのだが。

「ええ。だって楽しそうじゃない?」

「……」

 ただの冷やかしだった。

 なのに、アニタは運よくブーケをキャッチして戻ってきた。白と桃色の花で作られたボール型のブーケは可愛らしかった。


「見て見て。取った!」

「……よかったな」


 スティナはかろうじてそう言った。イデオンとニルスが楽しそうな笑い声をあげている。そこに、ミカルがやってきた。

「スティナ。オルヴァーが救援要請しているから行ってくる」

「……私が行こうか」

「いや、お前は残っていろ。私が行ってくる」

「……了解」

 スティナはため息をついてうなずいた。次、何かがあればスティナが手配しなければならない。こんな日だと言うのに、気が重かった。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


作者本人も結婚式にお呼ばれされていたりするが、何も準備していないこの状況。靴がわからん、靴が。


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