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夏休みの過ごし方【5】









「うおーっ! 海~っ!」


 叫んだのはマリーだ。と言うか、彼女もディーサも恋人がいるのに、彼とは来ないでゼミの仲間と海に来ている。まあ、スティナもそうだから人のことは言えないが、このゼミ、意外と仲が良かったようだ。

 叫ぶ美女マリーはこの海岸でかなり目立っている。近くにディーサやシーラ、そのほか男子学生たちもいるから大丈夫だろうか。みんな、波打ち際や海の深いところで潜ったりしている。

 男子どもはともかく、女子たちは目にもあでやかだ。三人ともビキニ姿である。マリーとシーラは可愛らしいし、ディーサはスタイルが良い。どうでもよいが、マリーは巨乳だった。


 そう。「海に行きましょう!」の言葉通り、海に来ていた。首都から一番近い海岸であるが、州をまたいだので少し遠い。今日はここで一泊する予定。

 遊んでいる七人に対し、スティナはパラソルの下で胡坐をかいていた。普通に外に出て活動しているのであまり気づかれないが、スティナは日光に弱いのである。日焼けをすると、肌が真っ赤になるのだ。色素の薄い者に多い傾向だとオルヴァーが言っていた。


 普段、普通に生活する分には問題ない。だが、海などの日差しが強い場所ではできるだけ日に当たらないように、と言われている。なので、パラソルの下で胡坐をかいて頬杖をついている。一応水着は着ているが、上にパーカーとパレオを着ている。さらにサングラスも装備し、お前、どこのセレブだ、と言った感じである。

 みんな楽しそうではあるが、あまり日に当たれないのだから仕方がない。ついでに、スティナは泳ぎも苦手だ。できないわけではないのだが、少なくとも水中戦はできない。


 海に遊びに来るにあたって、州をまたいだ。首都から見て二つ隣の州まで来ていることになる。


 基本的に、スティナは首都があるフェルダーレン州の担当討伐師であって、よほどの理由、例えば護衛などの理由がなければ首都を離れることはない。今回も遊びに行く、と言うことで許可が下りるか微妙であった。ついでに、今、スティナも討伐師の運営に関わっているので行けないかとも思ったのだが、スティナの周囲は、みんな彼女に甘かった。休み代わりに遊んで来い、と送り出された。

 だが、呼び出される可能性がないわけではない。討伐師の人数が少ない今、一人でもヴァルプルギスを倒せる討伐師の存在は希少だ。


 まあ、そんなこんなで海まで遊びに来たスティナだが、話を聞いたオルヴァーに、「海に入るのは二十分まで」と言われている。それ以上だと、肌が真っ赤になりやけどのようになるのだそうだ。さすがに試そうとは思わない。ヴァルプルギスと戦っているのならともかく、海に来て軽度やけどとか、間抜けすぎる。

 先ほどまでマリーが一緒にいたのだが、冒頭で叫んでいた通り、海に入りに行った。さしあたり、スティナはそれを眺めているだけだ。


 それにしても暑い。海に入っているのならともかく、砂の上は暑い。シートに座っているが、そう言う問題ではない。


 ただ待っているのもどうかと思い、何か氷菓子でも買ってこようと立ち上がりかけたところで、声をかけられた。


「あのさ、君、暇なら俺たちのところに来ない?」

「……」


 ナンパであるが、スティナにこれまで声をかけてきたナンパ男たちに比べると、ずいぶんと控えめである。軽い調子で声をかけてきたと言うよりは、勇気を振り絞って声をかけてきた感じである。軽そうな感じではなく、まじめそうな青年だ。年はスティナと同じくらいだろうか。

 何故か「がんばれー」という声が聞こえたような気がしたので、ちらっとそちらを見ると、この男の友人らしい男女三人が彼を応援していた。

「駄目、かな」

「……悪いけど、私、肌が弱いから」

 だから日陰にいるのだ、と遠回しに伝えると、とぼとぼと彼は帰って行った。かわいそうなことをしただろうか、と少し罪悪感。一応、強くない口調で断ったのだが。

「スティナ、大丈夫?」

「ああ……温厚なナンパだった」

「意味わかんないよ」

 心配してきてくれたらしいデニスに突っ込まれた。立ち上がっているスティナに彼は尋ねた。

「どこか行くの?」

「いや、何か買ってこようかと思って」

「あ、じゃあ俺もついて行くよー。みんなの分も買って来よう」

「了解」

 スティナはつばの広い帽子を手に取った。絶対に似合うから! とイデオンに渡されたものである。白い帽子なのでどうしてもスティナが儚げに見えるのだが、実用的で実際に役に立っているのでツッコまないことにした。


 デニスと共に冷たい飲み物を買って戻ってきた。デニスがみんなを呼びに行っている間に、スティナは買ってきた氷菓子をつつく。融けるので、自分の分だけだ。しかも先に食べている。


「あーっ。スティナだけいいなぁ」


 スティナが食べている氷菓子を指さし、シーラが言った。スティナは胡坐をかいたまま言った。

「待ってたら融けるだろ」

 すでに半分融けている。これはこれでおいしいけど。一口くれと言うので、スティナは氷菓子を差し出した。シーラと隣から手を伸ばしてきたディーサが凍っている果物をつまんだ。マリーも物欲しそうに見ていたので、彼女にも差し出す。

「それにしても、そうしてると本当に病弱なお嬢さんみたいだねー」

 ディーサが冷たいジュースを飲みながら言った。スティナは顔をしかめる。

「やめてくれ。そう言うキャラじゃない」

 外見は『はかなげ』で通っている彼女だが、中身は男前と言われることが多い。自分でもそう言う性格ではないと思っているので、できれば言わないでほしいと思った。

「でも、肌が弱いってびっくりしたよ」

「確かに、スティナって色白だものね」

 シーラとマリーが言った。男子たちも混じってくる。

「スティナならすごい泳ぎを見せてくれると思ったんだが」

「というか、割れていると言う腹筋を拝んでみたかった……」

 マグヌスはともかく、ボーのセリフは変態的である。


 彼らはそろってひょろっとした体格だ。全員スティナより長身だが、下手したら彼女と体重が同じくらいなのではないだろうか。まあ、スティナの場合は体重のほとんどを筋肉が占めているのだが……。

 まあ、そんな馬鹿な話はともかく、スティナはほとんど融けてしまった氷菓子をすくいながら言った。


「まあもともと水の中は得意でないから、気にするな」

「え、泳げないの?」

「いや? 泳げるが」


 シーラにビックリされたが、一応スティナだって泳げる。そう言う問題ではないのだ。好きか、嫌いか。そう言う話。






 夕刻になり、八人は引き上げることにした。ほぼパラソルの下にいたスティナだが、やはり少し日焼けしたのか、ひりひりと痛い。さすがに暇だったのでパラソルの日陰で砂の城を作っていたのだが、その出来栄えが違う意味で『芸術的』で爆笑された。やはりスティナにはセンスがなかった。


「で、結局お前の腹筋って割れてんの?」


 デリカシーのない発言をしたエーギルを、スティナは一瞬睨むとパーカーの前を開いた。男性陣か「おお」という歓声が上がる。ディーサが笑って「あんたらもこれくらい鍛えなよ」とからかっている。スティナはパーカーの前を閉じると、帽子をかぶり直し、荷物を持った。

「いやいやいや。スティナ、俺らが持つから」

「お前、今さっき私の筋肉を見てそのセリフ言ってんのか」

 フェミニストっぷりを発揮したマグヌスにスティナはツッコミを入れた。今のスティナの腹筋を見てこのセリフが出てくるとは、恐れ入る。


「そう言う問題じゃないからね」


 マグヌスが乾いた笑いを浮かべてスティナが持っていた荷物を受け取った。と言っても、ホテルはすぐそこなのだが。

 並んで歩きながらシーラが提案した。

「ねえ。今日の夜、花火しようよ!」

「……」


 元気だな、こいつら、と思った。
















 夜、本当に花火をした。手持ち花火に火をつけて騒ぐ。だが、他の海岸で花火をしているメンツに比べれば、スティナたち一行はややおとなしかった。少なくとも、手持ち花火はちゃんと手に持っている。

 スティナはくあっとあくびをした。討伐師として夜遅くまで起きていることはざらだが、慣れないことをしたためか疲れた。

「……ん?」

 しゃがんで花火をしていた彼女はふっと顔をあげた。隣にいたエーギルが「どうした?」と尋ねてきた。スティナは「いや」と首を傾げる。耳を澄ませるが、馬鹿騒ぎと波の音しか聞こえない。気のせいか、とも思ったが、スティナは一応立ち上がった。


「え、お前、本当にどうした?」


 エーギルがスティナを見てもう一度言った。スティナは花火を水の入ったバケツに投げ入れるとぐっと伸びをして言った。

「私の客かもしれん。ちょっと行ってくる」

「お、おう」

 エーギルは動揺気味に手を振ったが、マグヌスは心配したのか尋ねてきた。

「一人で大丈夫か?」

「巻き込まれたいの?」

「……行ってらっしゃい」

 結局送り出された。午後九時ともなれば、夏でもさすがに暗い。スティナは暗い中をガンガン進む。さすがに帽子はなかった。日は出ていないので。の^スリーブに七分のパンツと言う軽装である。


「スティナ・オークランス女史ですね」

「その呼ばれ方は初めてだが、私がスティナ・オークランスだ」

「失礼。少し話を聞いていただきたい」


 目が慣れてくると、長身の眼鏡の男の姿が浮かび上がった。一見すると、ただの観光客にしか見えない。男が眼鏡を押し上げる。

「まず、せっかくの休日を邪魔してしまったことをお詫びする。首都では、あなたは守られていて近づけなかったもので」

 ミカルたちのことだろうか。どちらにしろ、楽しくなさそうな話だ。

「我らは、国防の為、討伐師の力を借りたいと考えています」

「つまり、討伐師を軍隊にすると言うこと?」

 『ヴァルプルギスの宴』事件でも問題になったが、討伐師は個人の技量に頼りすぎていて、あまり統率がとれていない。だが、基本的に二、三人で行うことの多いヴァルプルギス討伐だ。指揮系統を確立してどうする、というのもある。

 今は臨時の指揮系統を決めてあるが、それが本当に実戦で運用できるかはわからない。


「いいえ。特殊部隊を形成するだけですよ」

「……」


 スティナは馬鹿ではないが、別に明晰な頭脳を持っているわけではない。普通だ。その普通なスティナの頭脳をもってしては、彼の言っていることを理解できなかった。


「違いが判らないんだが」

「討伐師の力を有効活用しようと言うことですよ」

「それで人間相手に戦えと?」


 討伐師が相手にすべきはヴァルプルギスだ。その行いが正しいものではないと、スティナもわかっている。世間的に見れば、彼女らは殺人者に他ならない。

 だが、それでも討伐師たちは一定のモラルを持って行動しているのだ。他人にとやかく言われる筋合いはない。

「その話、討伐師が受けることはないだろう。そもそも、何故私にそんな話をする? 私は何の権限もない、ただの討伐師だ」

「あなたが討伐師たちに多大な影響力を持っていることはすでにわかっています。一年後には、総帥になられるとか」

「言われているだけだ。本当にそうなるとは限らない」

 だが、とスティナは言葉に力を込める。


「本当に私が総帥になれば、今の話にうなずくことは決してない。お前の上司にそう伝えろ」

「これは残念。力ずくでうなずかせるにしても、私では力不足でしょうし、さっさと退散することにします」


 失礼します、と思ったよりあっさり彼は去って行った。彼が見えなくなってから、スティナは身をひるがえした。思った通り、楽しくない話だった。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


色白だと日光に弱い気がする。


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