夏休みの過ごし方【4】
本当は昨日投稿予定だったのですが、投稿できず申し訳ありませんでした……。
一日遅れましたが、投稿いたします。
話は飛ぶが、スティナは射撃が苦手である。弓はそれなりに引けるのだが、何故か銃になると途端に当たらなくなる。腕力がないわけでも、集中力がないわけでもないのに、不思議だ。
「へえ~。スティナにもできないことがあるのね」
シーラが的の方を見ながら言った。モデルガンを使った射撃ゲームなのだが、スティナが撃った的はほとんど無傷だ。しばらく練習していない間に、さらに下手になったらしい。彼女の武器は基本的に剣なので、あまり気にしていなかったのだが……。
「スティナちゃん。引き金を引くときに手首をひねるから外れるんだよ」
後ろから聞きなれた声がした。バッと振り向くと、そこには思った通りの人物がいた。
「お前、何してるんだ?」
「あ、ちょっと監査に」
そう言ってニコリと笑ったのはイデオンである。最近、スティナの外出先でよく合う気がする。被害妄想だろうか。
しかも、よく見るとリーヌスもいる。これは本格的に監査に来たのだろう。
ということは、スティナが一瞬だけ覚えた違和感も看過できなくなってくる。討伐師の、しかもスティナの直感は良く当たる。
「あ、えーっと。何さんだっけ、スティナの彼氏さん」
スティナを呼びに来たのだろうか。シーラがそう言いながら近寄ってきた。ちなみに、スティナが先ほどまでしていた射撃ゲームでデニスが景品をもらっていた。うまく的に当たったらしい。うらやましい限りだ。
「あー、えっと。シーラ、だったね」
イデオンが笑みを浮かべて首をかしげながら言った。スティナは前にも紹介した気がするが、もう一度紹介しておく。
「シーラ、これはイデオンだ。イデオン、彼女はシーラ」
「そうそう、イデオンさん。スティナ、力関係イデオンさんの方が上でしょ」
「スティナちゃんの友達になってくれた奇特な子だね。大事にしないとね」
「……」
シーラとイデオンのセリフがひどい。とりあえず、スティナはイデオンを蹴り飛ばした。
「いたた……。からかってごめんね、スティナちゃん」
「謝るなら最初からするな」
ちなみに、スティナは好きなようにイデオンに振る舞っているが、だからこそ、力関係はイデオンの方が上だったりする。シーラの言うとおりだ。
「とりあえずスティナちゃん」
ニコリと笑ってイデオンはスティナに言った。
「お休み中申し訳ないけど、もしかしたら呼び出しかけるかも」
「……武器持ってないんだが」
もちろん、遊びに来たつもりなので武器は携帯していない。非常時であれば異空間に剣をしまっておくこともあるが、よほどの時でないとしない。
「え、武器いる?」
今度は殴った。いや、冗談だとわかっているのだが、腹が立ったのだ。痴話喧嘩かと思った周囲が面白そうにスティナたちをうかがっている。
「ごめん……冗談。ちょっと調子に乗った」
スティナもさほど怒っているわけではない。別に彼の頼みを断るつもりはない。現在、討伐師が足りていないのは事実で、戦わない理由はない。
「武器は準備してある。もしかしたら空振りで終わるかもしれないから、スティナちゃんはこのままみんなと遊んでて」
「……」
言い方が微妙であるが、スティナはうなずいた。彼女がうなずいたことで、周囲は痴話喧嘩が解決したと思って急速に興味を失った。イデオンがスティナを手放す前に頬に唇を寄せた。シーラが「きゃー」と嬉しそうな声をあげた。頬にキスをされ、スティナは恥ずかしそうに照れる……ことはなく、ただ少しばかり笑みを浮かべた。
「殴って悪かった」
「いいよ。僕も悪かったから」
軽く拳を突きあわせ、二人は一旦別れた。リーヌスと再度合流したイデオンが何か言われていたので振り返る。イデオン曰く『シスコン』であるリーヌスは、イデオンとスティナが『節度ある』交際をすることを望んでいるらしいが……。
「わが身を顧みろくそ兄貴」
リーヌスがうなだれた。彼の恋人であるヴィルギーニアが妊娠したと言うことを忘れてはならない。いや、おめでたくはあるのだが。
「スティナ、彼氏さんいい人ね」
「……」
スティナはイデオンが恋人だと言ったことはないのだが、シーラはそう断定したらしい。間違っていないので、訂正はしないが。
「……まあ、そうだな」
おっとり気味で温厚なイデオンだ。しかし、判断力も正常でしっかりしており、頼りになるところも……ある。
「スティナが笑ってるところ、初めて見たかもしれないわ」
小柄なシーラが下から覗き込むようにスティナを見上げて言った。スティナはシーラの目を見つめ返す。
「……別に私も感情がないわけではないからな」
「怖いとか思うの?」
みんな勘違いしているようだが、スティナにも人並みの『恐怖』の感情はある。
「思うさ。覚悟はしているが、いつ死ぬかもわからないのは怖い」
「……」
思ったより重い話をされたからか、シーラが沈黙した。他の六人と合流する。
「ほら」
そう言ってジュースを差し出しだのはマグヌスだった。スティナとシーラがそれぞれ礼を言って受け取る。
「スティナの知り合いだったのか?」
エーギルの問いに「ああ」とスティナは簡潔にうなずく。シーラがくすくす笑って言った。
「そう。スティナの彼氏さん」
「え、何それすごい見たい」
マリーが興味を示した。しかし、マリーのストーカー事件の時に彼女らもイデオンに会っているはずだった。だが、面倒なのでつっこむのはやめておく。
「ハンサムで優しそうな人だったよ」
シーラが勝手に情報提供する。自分の恋人が好き勝手言われているのに、スティナは明後日の方向を向いている。照れているのではなく、興味がないだけだ。どのように言われても、イデオンはイデオンで、スティナは彼のことを愛している。それは変わらない。
スティナの携帯端末が鳴ったのは、午後六時ごろのことだった。ちょうどジェットコースターに乗っていて、電話に出ることができなかったのだが。スティナ的にはその状態でも話せた気がするのだが、ルール的に駄目だろうと思った。
なので、ジェットコースターを降りた後、電話を掛け直すことにしたのだが。
「お客様。こちらで携帯端末のご使用はお控えください」
スタッフに止められた。乗り物を降りて建物の外に出ているのだが。まあ、駄目と言うのなら、と思って離れようとしたら、手首をつかまれた。先ほどのスタッフだ。スティナは剣呑に彼を見上げた。
おかしい、と違和感を覚えた時には彼女は宙に投げられていた。体勢を立て直しうまく足から着地する。バランスは崩さなかった。
「スティナ!?」
シーラが呼びかけてくる。スティナは「先に行け!」と叫んだ。
徐々に混乱が広がる。場所が悪い。もっと、広くて見晴らしの良いところに行きたい。
まだ午後六時だ。この時期にこの時間なら夕刻に入ったばかりだ。少し赤くなった太陽光がスティナたちを照らしている。
客たちやスタッフが悲鳴を上げて逃げて行く。しかし、それでも人が多い。この場所では戦いたくない。できれば。
「っ!」
スティナは裏道に駆け込んだ。スティナを投げた男性スタッフがそれを追う。武器も何も持っていない状況で、徒手空拳だ。あまり素手では戦いたくないのだが。
人目が少なくなるにつれ、男性スタッフは変化を始める。目の色が変わり肌の色が変わり、皮膚が硬くなっていくようだった。
「スティナ!」
リーヌスの声だ。スティナはとっさに脇に避ける。銃弾が通過し、ヴァルプルギスを直撃した。ヴァルプルギスが悲鳴をあげた。
「……効いてる」
今の銃弾はイデオンだろう。討伐師でない彼の攻撃が効くと言うことは。
「ヴァルプルギスじゃねぇのか」
だとしたらより厄介だ。スティナは舌打ちした。人間が強制的に変化させられたこのだとしたら、うかつに殺せない。
「スティナ、ほらっ!」
リーヌスがスティナに剣を放り投げた。裏に入っていく彼女を追ってきたらしい。スティナは剣を受け取り、鞘から引き抜いた。
だが、戦いづらいことには変わりがない。イデオンが狙撃をさらに二度行ったが、当たらなかった。
スティナも斬りつけ回し蹴りを食らわせ応戦する。捕らえるのがベストであるが、駄目なら殺すしかない。
だが、やはり通常のヴァルプルギスよりも動きが遅い。イデオンの四発目の狙撃が肩を壊し、スティナはすぐにその偽ヴァルプルギスを拘束しにかかる。のどに剣の柄を叩き込み、膝を鳩尾に叩き込む。それから腕をひねりあげた。
「リーヌス、手錠」
「おう」
リーヌスに手渡された手錠をかけ、スティナは偽ヴァルプルギスから手を離す。暴れようとしたので腹を蹴りつけた。とはいえ、半分変化し、ヴァルプルギスに近づいているためかあまり効かないようだ。
「それと端末落としたぞ」
リーヌスがスティナの携帯端末を手渡した。スティナは彼を見上げる。
「こいつどうする?」
「連れて行って調べたいところだな……スティナ。悪いが休日は終わりだ」
「了解」
いくら拘束したとはいえ、本当にヴァルプルギスであった場合、討伐師でないリーヌスやイデオンだけだと不安が残る。
結局ほとんど使わなかった剣を細い袋に入れて持つ。そこまでしてスティナは荷物を置いてきてしまったことに気付いた。だがまあ、誰かが回収してくれているだろう。財布や身分証が入っているから、戻ってくる可能性が高い。
なので、荷物はひとまず忘れることにして、偽ヴァルプルギスの移送をすることにした。シーラに先に帰る、とメールを入れておいた。
ちなみに、後日シーラがスティナが置いて行った荷物を届けてくれた。その際に、「次は海に行きましょう!」などと言われた。みんな、元気だな……。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
昨日は本当に申し訳ありませんでしたぁぁああっ!(スライディング土下座)




