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夏休みの過ごし方【3】










 スティナはいつの間にかはぐれていた金髪の女性を見つけて小さく舌打ちした。声をかけられ、肩に手を置かれたが邪険に振り払い、女性の救出に行く。


「おい」


 声をかけると彼女……マリーが振り返ってほっとした様子を見せた。すぐさまスティナの後ろに隠れる。スティナもこの手合いは苦手なのだが。

「お、友達? 可愛いじゃん」

「二体二でちょうどいいじゃん。友達も一緒に遊ばない?」

 まあ、要するにナンパだ。マリーは普通に可愛いし、スティナも外見だけならはかなげな美女と言われるから、彼女が来れば絡まれるのは必然だ。不機嫌なスティナは元の顔が美人な分人相が悪く見えるらしいが、彼らには関係ないらしい。


「そんなに睨まないでよ。別に取って食ったりしないからさ」


 にやにやと笑って彼は言った。もう一人の男も腕をつかもうとして来る。それをスティナは振り払った。

「気安く触るな。女を誘いたいのなら、他を当たれ」

「またまたぁ。女の子二人だったら危ないよ」

「連れがいるんでな。失礼させてもらう」

 スティナはマリーの肩を押して仲間たちが待っているところに向かおうとした。だが、「待ちなって」と肩をつかまれる。

「しつこい」

 スティナは再び手を振り払う。すると、ずっと笑顔を保ってきた男がさすがに怒った。

「てっめぇ。下手に出たら調子に乗りやがって!」

 男が拳を振り上げた。マリーが悲鳴を上げる。スティナは型も何も鳴っていないその拳を片手で受け止めた。逆の手をあげ、人差し指を鼻先に突きつけた。

「いい加減にしろよ。ここは夢の国だ。つまらんことはせずに純粋に楽しめよ」

 男たちはぽかんとした。スティナだって節度くらいはある。なので、殴り返すことはせずに忠告にとどまったのだ。殴っていいなら思いっきりぶん殴っている。

「行くぞ」

「う、うん」

 マリーの肩を押して人ごみをぬって歩く。ちょうど木陰になった場所に中mたちは居た。


「お、無事に救出できたみたいだな」


 マグヌスが微笑んで言った。この遊園地には、ゼミの仲間八人で遊びに来ていた。女子四人、男子四人。それだけ男がいるのだから、その中の誰かがマリーを探しに行ってもよかったはずだ。何故スティナが。

「いや、こういうのって男が行くより同性が行った方が丸く収まるんだよな。ほら、俺らが手ぇ出したら傷害罪だけど、お前らなら正当防衛になる可能性が高いだろ」

 などとマグヌスは言った。いや、納得できる部分もあるが、それも理論がぶっ飛んでいる。

「私はいつも過剰防衛だと言われるんだが」

「お前、どんだけ喧嘩っ早いんだよ……」

 ツッコんできたのはエーギルだ。スティナは少し肩をすくめた。

「とりあえずマリー。頼むからはぐれるな」

「うん……ごめん」

 マリーはしゅんとして言った。夏休みなだけあってこの遊園地は人が多い。よほど背が高いならともかく、女性陣は完全に人ごみに埋もれていた。さらにマリーは可愛らしく、おしゃれに余念がないのでナンパに引っかかるのだ。スティナのように邪険に振り払うこともできない。スティナがそれをできるのは、彼女に戦闘術の心得があるからだ。何があっても脱出できる、という確信があるからだ。


 まあ、それはもういい。まずどのアトラクションに行くかの相談を始めた。スティナはこういった場所に来るのは初めてなのですべてお任せだ。


「スティナ、何か乗りたくないものとかある?」


 シーラに尋ねられたが、スティナは首を左右に振った。一応、事前にアトラクションの種類を確認してあるが、特に乗りたくない、と思ったものは存在しなかった。

「大丈夫なの? ホラーハウスとか、ジェットコースターとか……」

 マリーが心配げに尋ねるが、スティナにそれを聞いてどうするのか。ヴァルプルギスと戦う方がよっぽど怖いだろう。

「じゃあまずジェットコースターに行こう」

 ディーサが締めくくった。手始めにあまり緩急がないやつに乗ろう、と言うことになった。列に並ぶと、スティナの後ろにいたボー・ニリアンが彼女に囁いた。

「たぶん大丈夫だと思うけど、眼鏡は取っておいた方がいいぜ」

 勢いで飛ぶかもしれない、と言うことだろうか。まあ、そもそも伊達眼鏡なので無くしたところで困らないが、一応外しておくことにした。


 総勢八人なので、どこかでばらけるかと思ったが運よく八人全員で乗ることができた。初なんだから、とスティナは一番前に乗せられる。隣はマグヌスである。最初、ディーサが座ろうとしたのだが、『何が悲しくて男と並ぶんだよ!』とエーギルが訴えてきたので、こういうことになった。

 行ってらっしゃーい、というスタッフの言葉と共にジェットコースターが動き出す。緩急が緩やかだと言っていたが、これは……。


「どうだった?」

「車で悪路を走るのとさして変わらん」


 嬉々として尋ねてきたディーサだが、スティナはそう返した。豪胆なのが鈍いのか判断に困る返答である。

「すっごい怖かったよ!?」

 マリーが蒼ざめた顔で言った。やはり、彼女は怖かったのか。スティナに怖いものはないか、と振った時点で何となく気づいていたが。

「三半規管が丈夫だから? それとも、体感がしっかりしてるからかな」

「いや、ああいうものを怖いと感じるのはそれとは別の話だろ」

 シーラが首をかしげているので、スティナは冷静にそう言った。参観期間が丈夫だろうが、体感がしっかりしていようが恐怖を感じるのは別器官だろう。


「んじゃあ、次は垂直に落ちるやつ試してみるか?」


 そう言ったのはエーギルだ。ちなみに彼は、スティナの後ろでめちゃくちゃ叫んでいた。

 スティナは『垂直に落ちるやつ』に目を向けた。なるほど。確かに垂直に落ちているが。

「……」

 あれも大丈夫な気がする。基本的に、地上百メートルでの戦闘を行うこともできる彼女は、Gなどに強い。そこから落下したことだってあるし、要するに慣れているのだ。

 だが、それを言わないくらいにはスティナも空気が読める。これは本当に怖いらしく、スティナとディーサ、それにマグヌスの三人で乗りに行った。

 落ちる瞬間はさすがにドキッとしたが、落ちてしまえば何のことはない。さらにもう一つジェットコースターに乗って、スティナは結論を出した。


「私はどうやら、遊園地と言う場所に向かない人間らしい」


 割と楽しいが怖くはない。というか、遊園地は楽しむところであって、怖がるところではないのではないだろうか。そう思ったが、ツッコまなかった。

「スティナ……じゃあせめてもっと楽しげな雰囲気を」

 シーラに訴えられたが、長年無表情で通してきたスティナには難しい注文だった。とりあえず、身一つで急降下すらしたことのあるスティナをジェットコースターで怖がらせるのは不可能だとそろそろ気づいてほしい。

「あ、じゃあ、単純に怖い方は? ホラーハウスとか」

 のほほん、とした調子で言ったのはデニス・トーシュである。おっとり優しげな男子学生で、彼を見ていると少しイデオンを思い出す。

「や、デニス。討伐師のスティナに単純に怖いものを見せても駄目でしょ」

 ディーサがツッコミを入れた。ツッコまれたデニスは「確かに!」と手をたたいた。こいつ、卒業できるかちょっと心配である。

 とはいえ、ホラーハウスも行ってみようと言うことになった。さすがに八人で乗りものには乗れないので、半分に分かれた。じゃんけんでスティナはマリー、デニス、エーギルと一緒になったのだが、嫌な予感しかしない。

 車型の乗り物は、前と後ろに二人ずつ座るのだが、マリーとスティナは前。デニスとエーギルは後ろだ。

「きゃああああっ」

 隣で甲高い悲鳴を上げてスティナに抱き着いたのはマリーだ。

「うぎゃあああああっ!」

 スティナの後ろで野太い悲鳴をあげたのはエーギルである。

 横と後ろから悲鳴が上がり、スティナはげんなり気味である。さすがに遊園地のホラーハウスなので、そこまで怖くないのだが彼らには怖いようである。確かに、ゾンビなどが突然出現するのは驚くが、悲鳴を上げるほどではない。スティナは悲鳴の前に攻撃態勢をとってしまうので可愛げがないと言われるのだ。もしくは男前。


 おそらく立体映像だと思うが、すうっと人間の体のようなものがスティナたちの体を通り抜ける。同時に冷たい霧のような感覚がした。マリーとエーギルが悲鳴を上げる。ちなみに、デニスは「良くできてるねー」と笑った。感心するのはそこなのか。いや、スティナも人のことは言えないのだが。

 その立体映像が振り返る。マリーとエーギルののどから悲鳴が迸った。


 その幽霊の顔は焼け爛れていた……。


「ふええええええっ。怖かったぁぁああっ!」


 ホラーハウスから出てきたマリーはスティナにしがみついていた。先に出ていたディーサたちはそれを見て笑った。

「スティナ、いい彼氏になれるね」

「うるせぇよ……」

 身長があまり変わらないマリーがしがみついてくるので、歩きづらい。体重的には問題ないのだが。何しろ、スティナは成人男性であり筋肉質なミカルを抱えたこともある。

「いや、でも、最後の幽霊は俺も怖かったよ」

 マグヌスがスティナに言った。遠回しに怖くなかったのかと聞かれたが、スティナは顔を左右に振った。現実として、スティナは似たような光景を見たことがある。

「……スティナ、楽しくない?」

 あまりにも表情に変化がないので、シーラが不安に思って尋ねたようだ。スティナはこれにも首を左右に振る。


「いや、結構楽しい」


 ただ、表情が顔に出ないだけだ。それを聞いてほっとしたのか、スティナにしがみついたままだったマリーがスティナを引っ張った。

「じゃあ、次行こう! なんか、もっとゆるくて面白いやつ!」

 よほどホラーハウスが怖かったらしい。シーラとディーサ、ついでにエーギルも賛成したので別のアトラクションを探すことにした。


 ふっとスティナは何かを感じて振り返った。周囲を見渡すがそれは一瞬で、気のせいだったのだろうか、と思う。


「スティナ?」


 ディーサが振り返ってスティナを呼んだ。彼女は視線を彼女らの方に戻すと、続いて歩き出した。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


スティナのはもう三半規管が強いとか体感がいいとか言うレベルではないと思う。

果たして彼女に怖いものが存在するのか……。


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