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楽しい大学生活【6】

連休疲れた……。








 そんなわけで翌日。一応言われたとおりお泊りセットを用意してきたスティナであるが、全ての講義が終わった後、本当にディーサの家に行くことになった。お泊り会、本気だったのか。


「お菓子とか買っていきましょう」


 シーラがテンション高く言った。ディーサが「ついでにお酒もいいわね!」などと言っている。楽しげなマリーも含む三人に、スティナは冷静な声音で言った。

「家電量販店にも寄りたいんだが」

「何買うの?」

「レコーダー」

 スティナがしれっと答えた。問いかけたマリーが口をつむぐ。浮かれていた彼女らだが、現実に引き戻された感じだ。


「……えっと。それ、もしかして私が持ち歩く?」


 マリーに問われて、スティナはうなずいた。


「当然だな。ちょっと相談してみたんだが、ストーカーは立証が難しく、裁判になっても証拠が不十分で敗訴する場合があるそうだ。だから、ストーキングの記録はしっかり取っておけと言われた」

「……へえ。そうなのね……」

 マリーが神妙にうなずいた。同じく真剣に聞いていたディーサがふとした様子で尋ねた。

「相談したって言ってたけど、警察関係者の知り合いでもいるの?」

「いや、元法学部の男だな」

 法学部出身であるがために、イデオンは司法省を選択したのだ。一度は裁判官を志したこともあるらしい彼は、結構訴訟などにも詳しい。


「監査官に聞いたの?」


 シーラがこそっと尋ねた。スティナは首肯して答えた。イデオンも監査官だ。監査室は司法省下なので、法学部出身者が多いことは容易に予想できるだろう。


 レコーダーと小型のカメラを購入したのはスティナだ。その場で使用できるように用意してもらい、マリーの鞄に仕込む。レコーダーは常に回し、カメラもいつでも撮影できるようにずっと『録画』にしていることにした。まあ、鞄から出さなければ鞄の中が映っているだけだが。


 その後、お菓子や酒を買い込み、ディーサの家に向かう。


 彼女の家は普通の一戸建てで、両親と三人で暮らしているらしい。彼女には兄がいるのだが、その兄は今留学中なのだそうだ。

 ちゃっかりお邪魔して(夕食は外で済ませた)、ディーサの部屋でプチ女子階である。どちらかと言うとパジャマパーティー。


 シーラとマリーがかわいらしいパジャマであるのに対し、ディーサとスティナはシャツにジャージだ。別に外に出るわけでもないし、格好なんてどう手もいい、という思いがあふれ出ている。

「それでさ、リーサってばおそろいのペアリングなんかしちゃってね」

「いいわねー。青春!」

 女子が集まると全体的にこんな感じである。シーラとマリーは今どきの女子なので、他人の恋の話などが大好きなのだ。他にもテレビの話、小説の話、最近できた店の話など多岐にわたる。

 主に聞き役でお菓子をつまんでいたスティナは、唐突にディーサに話を振られた。


「スティナはさ。好きな人とかいないの?」


 ディーサの問いに、シーラとマリーの興味もこちらに向いたようだ。スティナは経てた膝に頬杖をつく。

「どうでもいいだろ、別に」

 そっけなく答えた。ちなみに、ディーサは恋人がいるらしい。シーラは現在片思い中であるという。それぞれ現状を暴露しているので、スティナに順番が回ってきたと言うわけだ。

「ええ~。気になる。スティナってクールでかっこいいけど、可愛いし優しいし、実はモテるって知ってる?」

 マリーが身を乗り出して言った。いや、確かに顔だけ見ればそうかもしれないが、中身が非常に残念であることを忘れてはならない。

「最近は年下の女子学生にモテてるよ。クールで強くてさりげなく助けてくれて素敵って。男気だよね」

 シーラもうきうきと言った。まあ、男気も良く言われる。

「むしろ、男より女の方が好きとか?」

「それはない」

 ディーサの邪推には即答で返す。かわいらしい女性やきれいな女性を「いいなぁ」と思うことはあるが、それは自分には決してないものにたいしてのあこがれに過ぎない。


「スティナって表情が動かないから何考えてるかわかりにくいよね」


 付き合ってれば優しいのはわかるんだけど、とマリー。シーラはくすくすと笑った。


「でも、結構表情読めるようになってきた気がするわ。今はちょっと照れてる」

「はっ?」

 自覚がなかったので、シーラの指摘にスティナは怪訝な反応をした。シーラはにやにやと笑った。

「スティナ、好きな人いるでしょ」

 両手の指をこちらに向けてシーラが言った。マリーが「だれだれ!?」と俄然食いついてくる。隣のディーサがスティナの肩を組んだ。肩を組むのが好きなのだ、彼女は。

「いいから白状しちゃいなよ。楽になるわ」

 どこぞの取り調べのようなセリフを吐き、ディーサがスティナの発言を促す。一応、恋人がいる以上、『好きな人』はいるのだが……。


「……秘密」


 スティナがぼそりと答えると、三人ともぽかんとした。最初に復活したのはディーサで、スティナをぎゅっと抱きしめた。

「可愛いなぁ、スティナは!」

 少し苦しいが、耐えられなくはないのでそのまま耐えた。シーラも「あらやだ」と笑っている。マリーも口を開いた。

「それ、『います』って白状しているようなものよ?」

 確かにそうかもしれない。スティナは妙に納得した。

「っていうかさ……」

 ディーサがスティナから少し離れ、じっと彼女を見る。スティナも見つめ返していると、ディーサはばっとスティナの腹部に触れた。もちろん、シャツの上からだ。


「すっごい筋肉だよね! 体幹がいいのか動きにぶれがないし! うわー、腹筋割れてる!?」


 ぐいぐいと腹筋を押されるが、ディーサ曰く『割れている』スティナの腹筋はディーサの指を押し返していた。


 まあ、スティナとて一般女性に比べれば硬い体をしているのはわかっている。しかし、それでも彼女はあまり筋力のある討伐師ではない。一般女性と比べたら、もちろん体力も膂力もあるに決まっているけど。

「ホント!? ちょっと失礼!」

 そう言ってばっとスティナのシャツをめくりあげたのはシーラだ。彼女も「うおおっ」と悲鳴をあげた。

「割れてる割れてる! すごっ。 かったーい」

 腹筋を拳で軽くたたきながらシーラが歓声を上げる。抵抗をあきらめたスティナはなされるがままだ。これがヴァルプルギスなら一発で切り捨てているのだが、相手は人間である。しかも女性だ。男なら突き飛ばしてる。


「ちょ、待て! って、めくるな!」


 さしものスティナもあわてて声を荒げる。意外と怒らないよねー、とか言われるスティナである。まあ、怒ったわけではないが。

 服をめくりあげられた。三人が「おお~」と歓声を上げる。相手が人間であれば、三人相手ぐらいは大したことがないスティナだが(むしろヴァルプルギス三体でも問題ないかもしれない)、女性には乱暴できない。こういうところが男っぽいと言われるのである。フェミニストとはちょっと違うけど。

「私、女の人で腹筋割れてる人初めて見た」

「サークルには筋肉質な人結構多いけど、ここまでの人は初めてだわ」

 マリーもディーサも歓声を上げる。シーラも「ここまで鍛え上げてると逆に感動」と感心しているのか呆れているのか微妙な反応をする。三人に押し倒されるような形になってもスティナが怒らないからか、行動がエスカレートしていく。


「だから待てって! どこ触ってんだ!」


 さすがに胸をわしづかみにされた時は押し返した。相手がマリーだったので、腕の長さが同じくらいだった。だが、力はスティナの方が強いので無事に引き離せた。のだが。


「きゃあっ」


 悲鳴が上がった。全員の動きがとまる。驚いた表情で悲鳴をあげた人物……スティナを見た。スティナも驚いて目を見開いた。自分が悲鳴をあげたことに驚いたのだ。

 マリーの手を握っていたので他の手が伸びるのをとめられなかった。服をめくりあげられたわき腹を直接撫で上げられ、悲鳴をあげたのだ。ちなみに、やったのはシーラである。


「ヤダ可愛い!」


 マリーがどかっとスティナの上に覆いかぶさった。お菓子を肴に酒も入っていたので、酔っているのかもしれない。

 何となく疲れたスティナはマリーを体の上に乗せたまま額に手の甲を当てた。ため息をつく。

「スティナ、恋人を甘やかす彼氏みたいよ」

 顔は可愛いけど、とディーサが微笑む。シーラが「驚かせてごめんねー」とスティナの頬をつついた。


 ……なんだか疲れた。
















 なんだか息苦しくて目を覚ますと、胸の上にマリーが乗ったままだった。昨日、あのまま眠ってしまったらしい。彼女をどかして起き上がる。まだ朝の四時だが、夏なので日が昇るのが早く、すでに朝日が差し込んでいた。

 そして、何故かこんな時間に鳴る携帯端末。前にもこんなシチュエーションがあった。


「はい」

『私だ』

「……前から思っていたんだが、名乗れよ……」


 ミカルだ。なんだか嫌な予感がする。動かしたマリーはぐっすり寝ているが、ディーサは目を覚ました様子で、ボーっとスティナの方を見ていた。

『悪いがヴァルプルギスだ。一応アニタが同行しているが、ちょっと不安でな……』

「あんたは父親かよ……まあ、わかった。場所も近いし」

 聞いた現場が近かったので、スティナはあっさりと了承した。相変わらず討伐師の人数が足りていないので、緊急に駆り出されることも増えた。

「……行くの?」

「ああ。悪いが、片づけは手伝えない」

「それはいいわよ。気を付けてね」

 ディーサはあっさりと見送ってくれた。何となく、スティナが討伐師であることは暗黙の了解になっている気がするが、事実なので否定しないことにしている。

 いつも通りのヴァルプルギスの討伐に向かいつつ、たまにはこんな日もいいな、と思った。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。



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