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ヴァルプルギスの宴  作者: 雲居瑞香
番外編
61/82

ドキドキわくわく里帰り【3】

6月も終わりですよ。どうしましょう。












 開けて新年。まあ、新年と言っても特にいつもと違うことをするでもなく、スティナとロビンはリビングで自分のPCに向かって課題をしていた。休みだろうが何だろうが、課題は存在する。


「姉さん姉さん」

「……なんだ」


 向かい側に座っているロビンに呼びかけられ、スティナが返事をする。その近くでは、祖父のランナルが数独をしていて、祖母パニーラと母リナはお茶をしながらおしゃべりしている。テレビはついているが、新年の特番ばかりだ。

「これ、どういう意味?」

「……お前、私より頭いいはずだよな?」

「文学系は苦手なんだよね~」

 あははは、とロビンは笑う。彼が今やっている課題は外国語だ。彼はこれが苦手らしい。

「っていうか姉さんだって頭悪いわけじゃないでしょ。直感で生きてるだけで」

「否定はできん」

「と言うわけで教えてほしいんだけど」

「……」

 スティナは目を細め、ロビンのPCの画面を覗き込んだ。


 意外かもしれないが、スティナは語学に関してはかなり優秀なのである。散々仲間たちから脳筋脳筋と言われているが、基本直感で生きているだけで、頭が悪いわけではない。まあ、これを脳筋と言うのかもしれないが。


 たまたまロビンが学んでいる外国語はスティナも知っているものなので教えることができる。ついでに言うなら、スティナは教えるのも結構うまい。アカデミーで子供たちを指導することもあるからだ。ここら辺が、スティナが子供たちに好かれる要因である。


 ロビンに単語の意味を教えて、スティナが参考書を手に取ったその時、「姉さん!」と大きな声で呼ばれた。アカデミーでは基本『姉ちゃん』と呼ばれているから慣れない呼び名ではないのだが、この声で呼ばれるのはまだ慣れない。


「……どうした」

「……明日、一緒に、買い物に、行かない?」


 ……沈黙。というか、文章がかなりとぎれとぎれだった。どれだけスティナと買い物に行きたくないのだろうか。


「……ひとりで行け」

「父さんが、姉さんが一緒なら行っていいって」

「何だそれはどういうことだ」

「いや、スティナならしっかりしてるかなって」


 どこで話していたのかわからないが、マーユが開けっ放しにしたリビングのドアを閉めながら入ってきたのは父のエドガーである。スティナは参考書に目を落として言った。


「マーユの方がよほどしっかりしてるだろ」

「わかってるじゃない」


 マーユがつんとして言った。スティナは自分が世間知らずである自覚があるので、そう言う意味ではマーユの方がしっかりしているだろう。


「それだけじゃなくて、スティナが一緒なら変質者も怖くないだろ。ほら、うちの子可愛いから」


 エドガー親ばか発言。いや、確かにマーユは可愛らしいが。


「そもそもマーユはどこに行きたいんだ」


 スティナが尋ねると、マーユは一瞬口ごもったがすぐに「新しくできた喫茶店」と言った。その様子に何となく察したスティナは頬杖をつき、言った。


「まあわかった。行こう」


 マーユがパッと顔を輝かせた。スティナはマーユの笑顔をこの時初めて見たかもしれない。まあ、そう言う本人は相も変わらず鉄面皮であるが。


「ありがと!」


 と言うわけで話がまとまった。エドガーはスティナが「行かない」と言うと思っていたのだろうか。笑顔が引きつっていた。おそらく、ここにリーヌスやイデオンが居たら、「スティナは押しに弱くてツンデレだから結構一緒に遊んでくれる」とでも言っただろう。だが、ここにはそこまでスティナを良く知る人間はいなかった。


 そんなわけで翌日。街中では新年のバーゲンをしているので気を付けてね、と母リナに送り出された。心配性の母はついてくるかと思ったのだが、姉妹二人だけで送り出された。意外である。スティナが信用されているのか、マーユが信用されているのかわからないけど。


 今日のマーユは茶色のシフォンのスカートに、オレンジ色のドレスコートを合わせている。赤いマフラーが可愛い。足元はブーツだ。髪はお下げにしていて、美少女のお手本みたいになっている。

 一方、似たような顔立ちのスティナは細身の黒いコートに黒のスラックス、黒のブーツと全身黒い。髪が銀色なので、冬場にうっかり白っぽい色を着ると景色と同化してしまうので、最終的にこうなったのである。


 お嬢様風のマーユとクール系のスティナだが、やはり姉妹か、と思うくらいには顔が似ている。注目を浴びていたが、二人とも気にしていない。


「で、実際はどこに行きたいんだ? 彼氏とデートなら私はその辺の店で待っているが」

「……違うわよ」


 新年でも大雪でも動いているバスで街中までやってきたスティナがマーユにかけた言葉がこれである。ちなみに、首都育ちのスティナは大雪、などと言っているが、この地域の住民に言わせると平年並みか、やや少ないくらいだそうだ。


「……化粧品とか、服とか見に行きたいの。父さんや母さんが一緒だと、まだ早いとか言って買わせてくれないから」

「なるほどな」


 憮然とした表情で言ったマーユに、スティナは一つうなずいた。まあ、一応空気を読んで黙っているが、おそらく、マーユに好きな人か、もしくは恋人ができたのだろう。新年は結構安売りが多いので、これに乗じて買おう、と思ったのだとしても不思議ではない。


 あまりスティナと仲が良くないマーユであるが、買い物に行く方が魅力的だったか。


 雪道を歩きなれないスティナであるが、さくさくと歩いて行くマーユに遅れることなくついて行けるあたり結構な運動神経と体力である。目的地である百貨店の中は温かかった。

「で、まずどこに行く。荷物持ちくらいはしてやる」

「……」

 マフラーをとって肩掛け鞄につっこみながらスティナが言った。マーユはそんな姉を無言で見上げる。

「……姉さん、モテるでしょ。女の人に」

「私に友達がいないだろうって言ったのはお前だろう」

「そりゃあそうだけどさ」

「ならそう言うことだ」

 何故スティナが女性にモテなければならないのか。いや、方々から『男前』と言われる性格であるのは事実であるが。


 まずマーユが向かったのは化粧品売り場だ。化粧品と言っても、彼女が欲しているのは基礎化粧品らしい。そう言ったものに興味のないスティナですらスキンケアくらいはしている。

 マーユが次々と肌に良いと言う化粧水を手に取るので、スティナは内心ビビッていた。


「姉さんも買えばいいじゃない。化粧とか……しなさそうね」


 スティナの顔をじっと見てマーユはあっさりとそう言った。確かに、めったに化粧はしないが。一応、一通りの化粧品は持っている。ちなみに、今日もすっぴんである。

「じゃあそこで待ってて」

「……ああ。私のことは気にするな。ゆっくり選べ」

「……やっぱり姉さん、女の人にモテるタイプよね。性格ハンサムよね」

 そう言いながらもマーユはこちらに目を向けない。ただ待っているのも暇なので、スティナも石鹸などを見る。アカデミーの子にこういうのを買って行ったら喜ぶだろうか。肌に良い石鹸などは女の子ウケがよさそうだ。

「姉さん、決めた。買ってくれる?」

「ねだるなら誕生日にしろ」

「わかってるわよ。っていうか、誕生日なら買ってくれるのね……」

 ツッコミを入れながらマーユが会計をしに行った。さすがに中等部の女の子のお小遣いで買えるものなので、さほど高いものではない。だが、最近は低価格で良い化粧品なども出てきている。


 続いて服を買いに行く。……服、と言うかこれは。


「下着か」

「せめてランジェリーっていいなよ」


 マーユのツッコミが冴えわたっている。いや、今のはスティナに情緒がなかったが。

 連れて行かれたのはランジェリーショップである。専門店などで下着を買ったことがないスティナは初めて足を踏み入れた。

 マーユは自分の体のサイズを計ってもらい、ひらひらした下着を選んでいる。お姉さんもいかがですか、と声をかけられたが、断った。すると、下着の試着をしていたマーユが堂々と試着室のカーテンを開けた。いや、まあ、スティナと女性店員しか見てないけど。


「いいじゃん。姉さんも計ってもらえば。そのまま行くと姉さん、女子力下降の一途だよ。ハンサム、男前! とか言われるんだよ」

「もう遅いな」


 言われているから。男前はよく言われている。


 あまりスタイルがよくない自覚のあるスティナは、あまり体のサイズを人に知られたくないのだが。

「妹さんの言うとおりですよ」

 押しの強い店員に押し負け、スティナもサイズを計られ下着の試着をした。マーユの見解によると、美人であるスティナやマーユがこの店の下着を身に付ければ、売り上げが上がるかもしれない、と思ったのだろうとのことだ。まあ、美人がその服を着ることで、その店の服の売り上げが上がったり、と言う話は聞いたことがあるが、下着は普通目に見えないのでは?


 まあ、ツッコミはともかく。マーユの買い物に付き合うだけのつもりだったのに、何故かつかれた。マーユとしては、スティナも買い物をしてくれた方がカモフラージュになるのでいいらしい。

「あ、マーユじゃない?」

「あ、新年おめでと」

「おめでと~」

 スティナの妹であるが、マーユはちゃんと友人がいるらしい。家族と一緒に買い物に来ていたらしい友人と楽しそうに話している。

「ところでその人誰? お姉さん?」

「姉」

 スティナにも触れられたが、マーユは素っ気なく答えた。スティナはマーユと自分の荷物を持ったまま軽く頭を下げた。

「どうも」

「ど、どうも」

 無表情であいさつしたスティナを見て、マーユの友人はどもりながらも返事をしてくれた。マーユには「睨まないでよ」と苦情を言われた。

「マーユ、お姉さん居たっけ?」

「ずっと首都に家出してたもん」

「家出……」


 いや、あながち間違いではないのだが、『家出』と言われると何とも言えない気持ちになる。


「じゃ、私家族呼んでるから」

「うん。また学校でね」

 マーユとその友人がひらひらと手を振って分かれる。スティナは「もういいのか」と尋ねる。

「いいの。それより、あったかいものが飲みたいんだけど」

「……わかったよ。どこかの店に入るか」

 たぶん、おごらされるな、と思った。まあ、コーヒーの一杯くらい構わないのだが。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


顔が似ているスティナとマーユですが、趣味は正反対ですね。


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