表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァルプルギスの宴  作者: 雲居瑞香
番外編
59/82

ドキドキわくわく里帰り【1】

今回からスティナの里帰りです。








 三歳で討伐師としての力を見いだされ、家族と引き離されたスティナ・オークランスは、以降現在に至るまで首都で暮らしている。実家にはほとんど帰らずに来た彼女だが、今年は変化があった。


「姉さん。僕、年末年始にフリュデンに帰るんだけど、一緒に帰らない?」


 弟のロビンがフェルダーレン大学の医学部に合格し、現在首都で一人暮らしをしているのだ。そして、彼はちょくちょくスティナに会いに来る。一応、住んでいる部屋は教えてあるが、そこで彼女が捕まらないので、特殊監査室本部までやってくるようになっていた。今日も、スティナはロビンと本部ビル内のカフェにいた。


「……毎年帰ってないんだから、いいだろ、今年も。一人で行け」


 スティナは素っ気なくロビンに言った。だが、ロビンはメンタルが強い。つまり、素っ気なくそんなことを言われても気にしないような人間なのだ。何故こんなにもスティナをかまってくるのか、理解に苦しむ。

「ええー。いいじゃん。たまには帰ろうよ姉さん」

「夏に帰っただろ」

「半年近くも前のことでしょ!」

 ツッコミをいただいてしまった。ロビンはふう、と息をついてカフェオレをすする。

「おじいちゃんとおばあちゃんに、今年は姉さんを連れて帰ってきてねって言われてるんだよ」

「知らん」

「そう言わずに。ついでに、マーユにあげるお土産選びも手伝ってくれるとうれしい」

「それ、どっちかと言うと出費者だろうが!」

 客観的に見ても主観的に見ても、スティナにセンスと言うものが存在しないのは自明の理である。なので、彼女にお土産選びを頼むなどハイリスクすぎるのだ。


 と言うことは、ロビンが頼んでいるのはお土産を買うための出資である。確かに、家庭教師のバイトをする大学生であるロビンより、命をかけるスティナの方が金はある。討伐師は義勇軍的なところはあるが、ちゃんと給金は発生しているのだ。


 それはともかく、里帰りの話だ。


「土産は買ってやるから、一人で帰れ」

「姉さん、なんでそんなにかたくななの。たった一週間家族と過ごすだけじゃないか」

 ロビンはにやにやしながら言った。絶対にスティナが焦っているのを見て楽しんでいる。どうしてこんなにいい性格に育ったのだろう。いや、接点が今までほとんどなかったからわからないけど。


「いいじゃねぇか。帰省して来いよ」


 唐突に背後からロビンに同意する声が聞こえてスティナは振り返った。ロビンが「リーヌスさん、いいこと言いますねっ」とうれしそうに手をたたいた。ノリが女子高生だ。


「無責任なこと言うんじゃねえよ」


 スティナが言いかえしたが、リーヌスは彼女の頭を手荒く撫でてて言った。

「お前のはただの逃げ。ずっと離れて暮らしてた一般人の家族に対してどう接していいのかわからないだけだろ。強そうに見えてお前、結構小心者だよな」

「プディングの角に頭をぶつけて死ねばいいのに……」

「お前、そう言うところがイデオンに『かわいい』って言われるんだぞ」

 リーヌスに事実を指摘されて発した言葉であったが、定番の嫌味は軽くスルーされて結局スティナの方がダメージを受けた。何故だ。


「とにかく! とっとと結論出せ! ヴァルプルギスの討伐に行くぞ」

「そっちが本音かよ」


 リーヌスはさっさと仕事に行くためにスティナをせかす。まあ、スティナも討伐師であるので、ヴァルプルギスが出たら仕事をしなければならない。だから、こんなことに迷っている暇は……。


「………………………」

「沈黙が長い!」


 ロビンにもツッコまれた。彼女はやけくそ気味に叫んだ。


「わかった! 帰るよ!」
















 さて。帰省することにしたのはいいものの、そう言えばスティナは首都勤務の討伐師である。今年の夏のように出張でもなければなかなか別の地区に行かない。なのに、フリュデンに帰省してもいいのか、むしろ契約で止めてくれないかとも思ったが、普通に『行って来い』と送り出されてしまった。ちなみに、土産は結局スティナが買った。選んだのはロビンなので安心してほしい。


 以前、フリュデンに行ったときと同じくエクスプレスでフェルダーレン中央駅からフリュデン駅にまで行ったのだが、駅の外に出たスティナは思わず身震いした。


「寒っ」


 天気は晴れだ。快晴だ。だが、北の方は晴れている方が寒いのである。いや、雪もえげつないくらい積もっているが、この辺りにしては降雪量が少ないらしい。思えば、冬に来るのは初めてだ。

「そりゃあ首都に比べたら寒いよねー。でも、今年は暖冬なんだってさ」

「これで!?」

「もう少し北に行けばオーロラとか見れるよ。っていうか姉さん、キャラ壊れてきているけど大丈夫?」

「……」

 キャラって。スティナはどんな人間だと思われているのだろうか。強気に見えて小心者とか、クールに見えるが可愛いなどと言われるが自分的にはいまいちしっくりこないのである。

 まあそれはともかく。ロビンのツッコミが鋭いことは良くわかった。


「あ、母さん迎えに来てる」


 ロビンが荷物を抱え直しながらロータリーを見て言った。それからスティナを振り返る。

「姉さん、荷物持とうか」

「……いや、いい」

 スティナも一週間分の荷物を持っているが、そもそも一般女性より膂力がある。大きな荷物を抱えているように見えても本人的にはそんなに重く無かったりする。

「母さんただいま」

「お帰りなさい。スティナもお帰り」

「……」

「姉さん、コミュニケーション能力に進歩がみられないね」


 何だろう。ロビンはこんなに毒舌だっただろうか。


 とりあえず車の後部座席に乗り込み、家に向かう。ロビンは母リナに大学生活のことをあれこれと話している。ちなみに、コミュニケーション能力にツッコミを入れられたスティナであるが、別に対人能力が低いわけではない。人見知りではないし、ただ一般人にどん引きされない話題を見つけられないだけだ。これは結局コミュニケーション能力が低いせいなのだろうか……。

 オークランス家の玄関先はきれいに除雪されていた。道路も除雪されていたが、道路わきで雪が壁みたいになってたけど。

「スティナ、あとで雪かき手伝ってね」

「いや、いいけど……」

 リナにさらっと手伝いを頼まれたが、スティナは快諾した。やることがある方が家に居やすい。

「ただいまー」

 ロビンが元気に家の中に入っていく。スティナは少し迷ったが、結局「ただいま」と言って家に入った。


「あれ。本当に姉さん帰ってきたんだ」


 奥から出迎えにやってきたのはマーユだ。半年前に会った時より背が伸びている。そのうちスティナは身長が抜かれるかもしれない。

「連れてこられたんだよ。土産だ」

「あ、ありがと」

 スティナが無造作に差し出した紙袋をマーユが受け取る。紙袋のロゴを見たマーユが「お」と声を上げる。

「テレビで紹介されてた店のシュークリームじゃん。並ばないと買えないって言っていたのに。姉さんが選んだの?」

「いや、ロビンだ」

「だと思った」

 マーユが一瞬で納得した。スティナに土産を選ぶセンスなどないのだから当然だけど。

「あら、いいわね。今日のおやつにしましょうか」

 リナがにこにこと笑って言った。スティナも異存はない。


 ロビンはそのまま自分の部屋に荷物を置きに行ったが、さて、スティナはどうすればいいのか。当然であるが、彼女の部屋と言うものは存在しない。

「ホントはマーユと同じ部屋でもいいかなと思ったんだけど」

「絶対嫌」

「っていうものだから、客間を使ってね。次までに部屋を用意しておくわ」

「そんなに頻繁に帰ってこないから、いらん」

 帰ってくるどころか気づいたら死んでいる可能性だってあるのだ。


 と言うわけで客間を使用することになったが、本当に客間だった。いや、当たり前だけど。


「マーユ、周囲で変わりはないか」


 念のために聞いてみる。マーユには弱いがエクエスの力があるので、ヴァルプルギスに狙われる可能性があった。一応、お守りと称してスティナの力を込めたブレスレッドを渡しているが、気休めに過ぎない。

「ないない。せいぜい、痴漢に会うくらいね」

「何それ。聞いてないわよ」

 マーユのあっさりした言葉に心配性のリナが声を上げる。しかし、マーユは持ち前の心の強さで気にせずシュークリームをほおばっていた。

「あ、おいしい」

「ホントだ。マーユ。ちなみにお金出してくれのは姉さんだから、ありがたく食べろよ」

「そうなんだ。まあ、姉さん貯金在りそうだもんね」

「どう言う認識だ、それは」

 弟妹達の中でスティナはどんな人間になっているのだ。確かに、使い道があまりないから貯蓄はあるが。大学の学費などは政府から出ている。ちなみに。彼女は税金で大学に通っているのである。


 お茶の時間、スティナたちはリビングに集まっていた。父のエドガーはまだ仕事で不在。ちなみに、エドガーはエンジニアをしているらしい。何のエンジニアかはわからないが。ついでにリナは保育士らしいが、年末である今、保育所は休みなのである。


 リビングには祖父ランナルと祖母パニーラもいて、土産であるシュークリームを食べている。

「それよりマーユ。痴漢にあったならなんですぐに言わないの」

「言ってどうするのよ。別に減るわけでもないし。ねえ姉さん」

 マーユに同意を求められたが、スティナは「その感覚は良くわからん」と答えた。

「一応、姉さんにも恥じらいがあるんだ」

「痴漢されたらむしろ犯人捕まえそうなのに」

「あるぞ。捕まえたこと」

 ロビンとマーユに散々な言われようのスティナであるが、そう答えるとどん引きされた。

「え、どうやって捕まえるの?」

 マーユが身を乗り出した。スティナは半分ほど食べたシュークリームを手に持ったまま言った。


「過剰防衛の判決を食らう気で腕をつかむか、細い……ボールペンとかで腕を突き刺す」

「……絶対無理」


 やっぱりどん引きされた。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


そんなわけでスティナの里帰り編。なんだかんだ言って馴染むのが彼女。マーユとは仲が悪いわけではありません。ただ、お互いの価値観が違いすぎるのですねー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ