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ヴァルプルギスの宴  作者: 雲居瑞香
番外編
57/82

軍事訓練の3か月【前編】

どうでもよい話その1。











 イデオン・トゥーレソン二十三歳。社会人二年目の彼は今、国内某所の陸軍基地にいた。



 社会人になって二度目の九月。イデオンは「行って来い」という言葉と共にこの陸軍基地に送り出された。もちろん、訓練のためである。この国には徴兵制度がないので、イデオンは初めて軍事訓練を受けることとなる。

 と言うわけで、今年入隊した新人たちと一緒に基本教練から受けることとなった。敬礼の仕方や待機姿勢などから学ぶこととなる。戦闘方を学ぶには、基礎からしっかりやること、と言うのが訓練教官である少尉の言だ。


 イデオンが軍事訓練を受けることになったのは、彼が司法省の特別監査室に配属されているからだ。この職種、一応事務職なのだが半分くらいは戦闘補助でできている。どこが事務職? といった職種なのだ。


 だが、イデオンは異動願いを出さなかった。そのため、この先も彼は監査官である。そして、監査官でいるのなら体力をつけろ、と言うことなのだろう。


 一応、監査官と言う職を理解してから体力をつけようとランニングなどは行っていたが、やはり軍事訓練は基礎訓練であったとしてもその比ではなかった。



「ああ……もう駄目」



 たとえヴァルプルギスに襲われても根を上げなかったイデオンであるが、厳しい訓練には一週間でへたっていた。いや、でも三か月やりきるつもりだけど。

 イデオンは新人たちの四人部屋に放り込まれている。まあ、もともと人数が半端だったのでこの部屋はイデオン含めて三人しか入っていない。

「まあ、軍事学校出てないにしてはついてきてるだけで上等だろ」

「そうそう。イデオンって特にスポーツとかもしてなかったんだろ」

 同室のリキャルド・ハンソン伍長とディック・テオレル伍長が言った。普通に高等学校や大学を卒業して入隊したのなら二等兵からであるが、二人は軍人学校を卒業しているので伍長から階級が始まるのだ。ちなみに、幹部候補だと下士官から階級が始まるので、訓練メニューはまた別である。


 ちなみに、リキャルドとディックはイデオンよりひとつ年下になる。


 二段ベッドの下のベッドに伸びていたイデオンはむくっと体を起こす。イデオンは行政機関から特別に訓練を受けに来ていると説明されている。所属が司法省だと言ったら、一発で特別監査室の監査官だとばれた。軍事学校の卒業後の就職先として、特別監査室があるからだ。確かに、軍事学校あがりだと言う監査官も何人かいたっけ。


「うん、まあ……そうなんだけど。みんなを見てると場違い感がすごくて」


 完全にアウェーである。イデオンはベッドに腰掛けて膝に頬杖をついた。この寄宿学校的な閉塞空間は平気であるが、この何とも言えない場違い感はさすがのイデオンもちょっとしょげる。

 何がしょげるかって、そんなに年齢が変わらないはずなのにみんな体力に満ち溢れているからだ。イデオンはスティナと持久走をしても負ける自信がある。彼女もあまり体力がある方ではないのだが。腕相撲でも負ける自信がある。


 一応、高等学校を卒業してからすぐ入隊した子もいるわけで、そう言った子たちは十八歳くらいか。若いって素晴らしい。今のところ、体力、膂力面でイデオンは女性新人にすら負けている状況である。下から数えたほうが速い。

「本職じゃないんだから仕方ねえって」

「食らいついてきてるだけ上等上等。軍事学校のときだって、苦しさのあまり一週間とかでやめていくやつが多発したぜ。逆に、一か月耐えきるとほとんどみんな卒業まで行けるんだけど」

 と、リキャルドとディックが軍事学校の裏事情を話してくれた。イデオンは苦笑する。

「そうなんだ」

「そうそう。むしろ、俺たちは頭悪いから、国の役人のイデオンはすげぇと思う」

 リキャルドに称賛され、イデオンは困ったような笑みを浮かべる。

「僕もそんなに頭がいいわけじゃないけどね。うちの姉とかは頭いいけど」

 イーリスのことだ。下の姉である彼女は宇宙工学が専門であり、とんでもなく頭がいい。そのせいか、ちょっと変人が入っているけど。


「あー、明日の訓練ってなんだっけ」


 イデオンが再びベッドに伸びながら尋ねると、ディックが「なんだっけ」とリキャルドに振った。リキャルドが予定表をめくる。

「明日は基礎訓練と射撃訓練だな。とりあえず、明日を乗り切れば休み」

「よっしゃー。どっか遊びに行こう」

 ディックが嬉しそうな声をあげた。イデオンは射撃なら自信があるが、体力訓練は自身がないなぁ、どうしよう、などと思っていた。


「元気だよねぇ……僕は一日寝てるよ。たぶん」


 やっぱり基礎体力が違うのだと思う。一週間でだいぶ慣れたイデオンは順応力が高いのだろうが、初日二日目、三日目くらいまでは筋肉痛がつらかった。一週間の訓練を終えた後の初の休日。たぶん、イデオンはここぞとばかりに休むだろう。


「遊びに行くかはともかく、消耗品とかは買っておいた方がいいぞ」


 リキャルドにまじめなツッコミをされて、イデオンは「そうかな?」と返事をする。何か眠くなってきた。いや、もう夕食も取って着替えて寝るだけであるのは確かなのだが。

「そう言えばイデオンって彼女とかいねぇの?」

 同じ軍事学校卒業で仲もよいリキャルドとディックだが、やはりリキャルドがややまじめでディックが少しおふざけが混じっている。

「いないいない。だから会いに行ったりとかはないよ。ディックたちは会いに行ってきなよ……」

「俺だって彼女いねぇし……リキャルドはいるけど」

「あ、そうなんだ?」

 勝手に言われたリキャルドは「個人情報をしゃべるな」と少し赤くなっている。


 どうでもよいが、まじめなリキャルドは少し、スティナと性格が似ている気がした。だが、彼女はこんなふうに照れたりはしないので、やっぱり本物がいいなぁと思うイデオンは、やはりこの時点で恋情に気付いていなかった。
















 翌日。午前中は基礎訓練、つまり体力訓練を行った。持久走や筋力トレーニング、さらに銃や補給物資を持って走る! などの訓練だ。もう少し経てば軍事車両で補給物資などを運ぶ訓練も行うらしいが、イデオンはこちらには参加しない予定だ。とにかく体力作りが最優先である。


 筋トレはともかく、持久走後にはグラウンドに倒れているやつが多発する。最後から数えたほうが早かったイデオンも地面になついている一人だ。鬼軍曹ならぬ鬼少尉の命令は『死ぬ気で走れ! 死ぬ気でやれば人間何とかなる!』なのである。それはもう命令ではない。


 だが、軍隊では上官の命令は絶対だ。この辺り、討伐師が通常の軍隊とは違うところであろう。彼らは少数精鋭を地で行く集団だから、命令系統なんて存在しない。スティナどころかニルスやアニタも平気で上官にあたるミカルやエイラの指示を無視するから。それを許す彼らも甘いのかもしれないが。


「うげぇ。気持ち悪くてご飯が食べられない……」


 みんな慣れてきたからか、いつもより長く走らされたのである。基礎体力に自信のないイデオンは、一応昼食をとりに来たが、トレーに乗った味気ないが栄養バランスはばっちりな食事を前にうなっていた。ちなみに、一緒に訓練を受けている新人たちはケロッとした顔で食事を腹に収めている。いや、イデオンと同じように気持ち悪そうにしている者もいるが、少数派だ。みんな丈夫である。


「でも食べとかないと午後持たないぞ」


 と、リキャルドがパンをちぎりながら言った。彼らの豪快な食べっぷりに、スティナをはじめ良く食べる討伐師たちを思い出した。

「わかってるけど……はあ」

 とりあえず、スープは平らげた。でも、吐くかと思った。

 午後からは射撃、爆発物取扱い方法の訓練である。先に爆発物の取り扱い方法である。ヴァルプルギス戦で爆薬が必要になることがあるかはわからないが、知っていて損はないと思う。たぶん。わりと器用なイデオンはそつなくこなし、こうして彼のスキルは無駄に高まっていく。


 一方の射撃は……というか、体力づくり及び射撃の精度を上げるために軍で訓練を受ける羽目になったわけだが、まさかの鬼少尉に褒められるという事態が起きてイデオンがびっくりした。狙撃能力は高いが、あまり軍隊向きではなく、どちらかと言うと警察の特殊部隊になった方がその精密な狙撃は生かされるだろうと言われたけど。

 それに、やはりスポーツ射撃と軍隊仕込みの本当の射撃は違うと思った。とりあえず、イデオンは片手で小銃を撃てるほどの筋力がなかったので、初めに筋力をつけることが目標となった。

「イデオン、体力は微妙だけど射撃センスはあるんだな……」

「むしろそれくらいしか取り柄がないからね」

 逆に体力はあるが射撃が微妙だったディックにうらやましがられたが、イデオンとしては体力のある彼の方がうらやましい。


 お互い、できないことばかりだ。だが、これから学んでいければいいと思う。その前に自分が脱落しなければ、だが。


 こうして、イデオンの軍事訓練月間が始まったのである。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


軍事訓練について書いてやろうと思ったのですが、力尽きました。


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