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ヴァルプルギスの宴【11】











「まあ、ニーグレーンと首都でのヴァルプルギス大量発生の要因についてはわかったが、結局、クラースは何がしたかったんだ? それに、あのヴァルプルギスだって、あそこまで完全に意志の疎通ができるヴァルプルギスには初めて会ったぞ」


 スティナがつっこんで言った。実際に戦った彼女としては、気になるところだろう。

 あの時立てた作戦はざっくりしていた。ミカルとスティナ、二つの指揮系統を構成し、スパイであることがわかっていたクラースがどちらに襲い掛かるかで相手を決めたのだ。あの時、クラースがスティナを襲っていれば、ミカルがヴァルプルギス討伐に向かったはずだ。

 ざっくりした作戦しか立てようがなかったと言うのもあるが、ミカルもスティナもあらかじめ考え抜く、というタイプではないのも関係しているだろう。


 特にスティナはそうだが、二人とも現場で力を発揮するタイプだ。その状況での最善の選択肢が直感的にわかるのだろう。スティナがミカルに副指揮官を任された時戸惑ったのはそのためだ。あの時は差し迫った状況ではなかったので、スティナには何が最善か判別できなかったのだろう。まあ、彼女も頭が悪いわけではないので、慣れてくれば大丈夫だと思うけど。


 また話がそれた。


「一つずつ行くぞ。まずクラースだ。やつは、討伐師が冷遇されている現状が気にくわないとのたまった。討伐師がヴァルプルギスを操ることができれば、討伐師の価値は上がる。まあ、図らずもクラースと『誰か』の思惑が一致した、と言うわけだな」

 リーヌスが簡単に説明した。簡単だが、よくわかった。

「だが、クラースにヴィーのような能力はあったか? あの手の操る能力は珍しいだろ」

「実際に操っていたのはあのヴァルプルギスだ」

「じゃあ、あのヴァルプルギスはどうしてクラースに協力したんだ」

「あいつは討伐師の力を取り込んだヴァルプルギスだ」

 スティナの矢継ぎ早の質問に答えたリーヌスの言葉に、沈黙が降りた。さすがのスティナも口を閉ざしている。


「ほら、ニーグレーンでもエクエスの力を持つ人間にヴァルプルギスの能力を植え込んで異形の姿になった住人がいただろ。ちょうど、あれの逆バージョンだ。ヴァルプルギスがエクエスの力を取り込んだんだ」


 説明者がリーヌスからオルヴァーに切り替わった。というか、彼もニーグレーンと首都での戦いに参加していたのだが、元気だな。怪我もしていたような気がするんだが。


「珍しい現象ではあるけど、もともとベースとなってるものが同じなんだ。おかしな話ではないし、強力でないにせよ操るタイプの能力を持ったエクエスの力の持ち主はそれなりにいるだろうからな」


 確かに、一つ一つの力は弱くとも、大量に吸収すれば強力になるかもしれない。もしかしたらヴァルプルギスとしての能力自体が元から操作系に近かったのかもしれない。知能が高かったのは、多くの人間の力を吸収していたからか。

 もう、そのヴァルプルギスはいなくなってしまったので、何故彼がクラースに協力したのかはわからない。もしかしたら、単純に討伐師を倒したかったのかもしれない。一応、敵同士になるんだし。

 ざっと説明を終えたオルヴァーがため息をついた。

「お前があのヴァルプルギスを捕らえていてくれればなぁ。もっと詳しいことがわかったかもしれないのに」

「お前の頭の中をトレースするぞ」

 倒すのもやっとだったスティナが怒りもあらわに言った。まあ、イデオンもスティナに同意である。彼も、あのヴァルプルギスを倒すのに協力していたので。

「で、首都でもエクエスの力を持つ人間がヴァルプルギス化する現象が起きていたようだ。これについては、まだ誰がどうしてそんなことをしているかわからないからな……」

 説明者が戻ってリーヌスの発言である。イデオンは首をかしげた。


「やはり、それは軍備の為じゃないんですか。確かにヴァルプルギスの力は強力ですけど、軍隊として動くのなら、高い能力のほかにも命令を聞く知能や集団行動ができる能力などが必要になってきます。もしも、エクエスの力を持つ者を人間ベースのままヴァルプルギス化できるなら、その方が使う側にとってもリスクが低いでしょうし」

「……お前、結構優秀な奴だな……」


 リーヌスがイデオンの意見に若干引き気味に同意した。ほめられているのか貶されているのかよくわからない話だった。


「そんな優秀なイデオンとスティナに質問だ。事務処理はどこまで終わってる?」


 スティナが無言で視線をそらし、イデオンは苦笑を浮かべた。あまり進んでいない。何も言わなかったが、尋ねてきたミカルには通じたのだろう。彼は笑顔をこわばらせてため息をついた。

「まあ、慣れない作業だし、人数も少ないからな……だがスティナ。慣れておけよ」

「もともと頭を使う作業は苦手だ」

 顔をしかめてスティナは言った。決断力に優れる彼女だが、逆に段取りなどを立てるのが苦手だった。つまりは、スケジュールの立てられない女なのである。


「そうは言っていられない。マテウスが、今回の被害の大きさの責任をとって、総帥を辞任することになったからな」

「はあ!?」


 一様にみんなが同じ反応をしたので、かなりの大音声だった。ちょこちょこと討伐師たちも集まってきていたのだが、大声をあげたほとんどは討伐師だった気がする。


「どういうことだ? と言うか、今回の場合、責任をとるなら私だろう!」


 真っ先に反論したのはスティナだった。彼女は今回の功労者であるが、住人市民たちから見れば加害者になるだろう。結果的とはいえ、彼女が討伐師を率いて戦った。今回に限っては、スティナが最高司令官であったと言っても過言ではない。だから、彼女の言い分はおそらく正しい。

「スティナ、お前はまだ若い。力もある。その力はこれからも討伐師として使うべきだ」

「……」

「マテウスからの伝言だ」

 ミカルが読み上げるような口調で言った言葉を無言で受け止めたスティナはちっと舌打ちした。

「それくらい自分で言いに来い」

「私に言うな。会えば殴り飛ばされると思ったんだろ」

「当然だ」


 相変わらず理不尽なスティナである。


「今回の件で分かっただろ。お前は仲間たちから信頼されてる。そして、お前はその力を仲間のために使用し続ける責任がある」

 ミカルとスティナがにらみ合った。首都戦の前はスティナが押し負けて視線をそらしだが、今回は結構長い間にらみ合っていた。


「二人とも、いい加減にしなよ」


 呆れてツッコミを入れたのはニルスだった。いつもならここでエイラが茶々を入れてくるのだが、その彼女はもういない。

「……わかった。嫌だ、と言っていられる状況でもないからな」

「よし。とりあえず、お前が大学を卒業するまで私が総帥と室長補佐官を兼ねる」

「え、じゃあ、アカデミーは?」

「オルヴァーに任せる」

「……」

 討伐師エクエス養成学校アカデミーの校長であったミカルが総帥と補佐官を兼ねると言うのだ。さすがに校長まで兼任できまい。アニタの疑問はもっともであるが、その返答が衝撃的だった。


「……すまん、今、なんて言った?」


 スティナにまでそんな反応をされる始末である。


「俺が校長やるんだよ! よろしくな!!」

「不安しかねぇよ」


 スティナが痛烈にオルヴァーに対してツッコミを入れた。彼女は、彼が自分を生きたまま調べようとしたことを根に持っているのだろうか。それとも、普段からの行動を見て不安に思っているのだろうか。たぶん後者だ。


「仕方ねぇだろ。古参メンバーはほとんど殉職したんだから」


 オルヴァーの発言に沈黙が降りる。オルヴァーも、ニーグレーン戦、首都戦の両方を生き残っているのでかなり運が良いのだろうと思う。単純に実力、とは言い切れない。いや、もちろん実力もあるだろうが。

 スティナをはじめ、オルヴァーもアニタやニルス、ミカルですら、運が良かったに過ぎないのだ。

「……と、まあ、そう言うことで、しばらくこの体制で行くから、スティナ、手伝え」

「……了解」

 一人で多くの責任を担うことになったミカルに逆らうことができず、スティナがげんなりした表情で了承を示した。ミカル、スティナに仕事の仕方を叩き込む気だ。


 当座の問題は解決しているが、根本的な問題は解決していない。ヴァルプルギスが食った相手の能力を吸収できる(と仮定する)としたら、この先も今回のようなことが起きる可能性があるのだ。今回、クラースとヴァルプルギスは利害の一致で協力していたが、本気でヴァルプルギスと手を組むような人間が現れても不思議ではない。

 さらに言うのであれば、ヴァルプルギスを軍隊のように動かそうと考えた人物。この国でもかなりの権力を持つ人間と思われるが、行政の下部組織である監査室にはどうすることもできない。


 またこのようなことが起こらないことを願うばかりだ。


 驚くべき速さで今後の対応が決まった討伐師と監査官たちであるが、首都戦からしばらくして、討伐師に非難が集まるようになった。ニーグレーンの住人が亡くなったことや、首都が破壊されたことなどをマスコミがあげつらったためだ。もちろん、討伐師は氏名等が公開されていないため、直接被害を受けることはなかったが、討伐師歴が長い人間は顔が知られていることもある。実際、スティナやニルスの学校にマスコミが押しかけてきたらしい。


 そんなことがあり、討伐師統括責任者を辞任するマテウスの退任会見が行われることになった。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


あと一話で本編完結。


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