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ヴァルプルギスの宴【4】

珍しくシリアスです。この章が始まったときに言うべきでしたが、人死描写が多いのでお気をつけください。









 スティナがニーグレーンの街にかけ入って行ったあと、イデオンはアニタと共にエイラの側にいた。ライフルも持ってきているが、いま手に持っているのは熱線銃ブラスターだ。

 知覚能力でニーグレーン内を探るリーヌスの報告を聞きながら、エイラが大まかな指示を出す。そして、それを聞いたスティナが実際の細かい指示を出している状況だ。

 エイラの指示も、そしておそらくスティナの指揮能力にも問題ない。しかし、戦況は押されていると、リーヌスの言葉を聞きながらイデオンは思った。どうしても、討伐師の数が少ないのである。


 少し遠いところから到着した討伐師たちがちらほらと参戦しているが、住民の避難も同時進行なのでどうしても分が悪い。監査官が中に入る、と言う手もないわけではないが、逆に討伐師の邪魔になる可能性も高い。


「エイラ!」


 アニタが叫びながら弓につがえた矢を放つ。すぐそばまでヴァルプルギスが来ていた。討伐師たちは逃げ遅れた住民を探してだいぶ街の奥まで入ってしまっている。中からだけでなく外からもヴァルプルギスが襲ってくるので油断ならない。

 アニタに遅れてイデオンが熱線銃の引き金を引く。狙撃をしている場合ではないので、あまり得意ではないがこちらを使った方が効率が良い。


「アニタ、イデオン。どきなさい」


 エイラが鋭く命じてきた。とっさにアニタとイデオンが身を引くと、エイラがヴァルプルギスに向かって熱線銃とは比べ物にならない熱量の光線を放った。少し離れているのに、ここまで熱さを感じた。

 光線はヴァルプルギスを直撃。倒すことはできなかったが、かなりのダメージを与えていた。アニタがすかさずとどめを刺す。


「……すごいですね」

「威力だけならエイラが一番だな」


 思わずぽかんとしたイデオンに対し、リーヌスは慣れた様子だった。そういえば、イデオンが配属された時にはもうエイラは戦えなくなっていたが、もともとは優秀な討伐師だった。しかも、スティナとニルスを教えたのだから、その力は推して知るべしである。

「でも駄目ね。やっぱり威力が下がってるわ」

 ふう、とエイラがため息をつく。これで威力が下がったとは、最盛期はどれだけの能力があったのだろうか。

 指示を出している間にもヴァルプルギスが攻めてくる。細かい指示はスティナが出しているので、エイラたちもある程度ヴァルプルギスを警戒できるようになっていた。


「住民の避難がもう少しで完了する」


 リーヌスが言った。そこに通信が入ってきたらしく、リーヌスが通信機に向かって「あと二十人ちょいと言ったところだ。もう少し踏ん張ってくれ」と答えていた。エイラが少し考え込む様子を見せた。


「まだ守護系能力者が全員そろっていないわね。住民の避難が終わって、少し余裕ができればいいんだけど」


 自分の身を守ることに専念できるようになれば、討伐師もある程度の余裕が生まれるはずだ。だが、すでにそれどころではないほどの被害が出ている。直接戦闘に関わっていない監査官にも死傷者が出ているのだ。渦中にある討伐師たちの被害が大きいのは当然である。

 と、不意に青空に稲妻が走った。イデオンは思わずその轟音に耳をふさぐ。アニタが悲鳴を上げていた。


「な、何!?」


 アニタがおびえた様子で周囲を見渡す。見ると、守護系能力者たちが結界を張るべく準備していた魔法陣が焼け焦げている。これが狙われたらしい。


「……あいつね」


 被害状況を見ていたイデオンとは違い、エイラは稲妻の出現地点を探していたようだ。エイラがすかさず先ほどより威力が大きい光線を放つ。戦略的攻撃魔法が青空を突き抜けた。

「やったか?」

「いいえ。当たったとは思うけど」

 リーヌスの問いにエイラがよどみなく答える。今のが当たったのに倒せないってどんなヴァルプルギスだ。

「!」

 唐突にエイラが近くにいたリーヌスを突き飛ばした。先ほどまでリーヌスがいた場所を槍が貫いた。エイラが突き飛ばしていなければ、リーヌスに直撃していた。


「エイラ!」


 槍が地面に刺さった衝撃でエイラが車いすごとひっくり返った。アニタが悲鳴を上げて駆け寄ろうとする。だが、彼女はエイラにたどり着く前にヴァルプルギスに襲撃された。イデオンは一瞬迷ったが、アニタを支援することに決める。エイラはリーヌスに任せよう。エイラが再び超弩級の攻撃魔法を放っているので、大丈夫だと判断したのもある。

 イデオンが銃撃で気を逸らせ、アニタが矢でとどめをさそうとする。向きになったアニタの矢はなかなか当たらない。


「アニタ……避けなさい」


 エイラの声が聞こえた瞬間、アニタが飛びのいた空間に光矢が駆け抜けた。ヴァルプルギスは光の矢に貫かれる。アニタがほっとした様子でエイラを振り返る。

「ありがと、エイラ」

 イデオンも礼を言おうと振り返って口を開くが、開いただけで停止した。


 エイラはリーヌスに抱き起されていた。ぐったりして目を閉じていた。気を失っているのかと思ったが、これは……。


「エイラ!?」

 アニタがエイラの側に駆け寄って膝をついた。震える手で頬を叩き、震える声でエイラの名を呼ぶ。

「エイラ、エイラ。しっかり……!」

「……駄目だ。息をしていない……」

 呼吸を確認したリーヌスがそっとエイラを地面に寝かせた。アニタがわっと泣き出す。

「そんな……どうして」

 イデオンも震える声で吐き出した。致命傷を負ったようには見えなかった。それとも、イデオンがわからなかっただけで、何か攻撃を食らっていたのだろうか。ふらふらとエイラたちの方に近寄ったイデオンだが、アニタ、リーヌスとは違い、立ったまま見下ろしていた。


「おい! 今の攻撃……!」


 討伐師や監査官たちが、先ほどのエイラ渾身の攻撃魔法を見て集まってきた。リーヌスが顔をゆがめる。彼も、どこか泣き出しそうに見えた。


「力の使いすぎだ……エイラの体はエクエスの力の行使に耐えきれるものじゃなかった。そこに、連続して力を使ったんだ。無理もない……」

「私のせいだ……私が、弱かったからだ……!」


 アニタがぐずぐずと泣きじゃくりながら言った。かなりの人数が集まってきているが、誰も何も言わなかった。言えなかった。沈黙だけが続く。


 とん、と誰かが地面に着地する音が聞こえた。何気なくそちらを見ると、返り血や泥で服を汚したスティナが、それでも剣を持ち、輝く銀髪をなびかせて降り立っていた。

「スティナ……」

 誰かが彼女の名を呼んだ。スティナの瑠璃色の瞳が地面に横たわるエイラを見つけると、彼女からエイラまでの道が開けた。集まっているみんなが場所を開けたのである。スティナは横たわるエイラを見て目を見開き、ゆっくりとした足取りで歩いてきた。


「エイラ……?」


 呼びかけにしては、小さな声だった。まるで、「どうしたの?」とエイラが返してくるのを待っているようでもあった。

 スティナがリーヌスの隣に膝をつく。剣を持たない左手を伸ばし、エイラの脈を計る。ゆっくりと手を離したスティナは、呆けたように動かなくなった。

「スティナちゃん……」

 思わずイデオンの口からも彼女の名が漏れる。それに反応したかのように、顔を伏せていたスティナが顔をあげた。


「……リーヌス、状況は?」

「……は?」


 リーヌスが間抜けな声をあげた。スティナはもう一度尋ねる。


「状況は? 避難はどうなってる。結界の状況は?」


 再度尋ねると、リーヌスは「あ、ああ」と理解してうなずいた。

「住民の避難は完了。安全な場所にさらに避難中だ。結界は一度崩されたから再建しないといけないが、人数は集まっている」

「わかった。ロルフ、結界を完全に作り上げるまでどれくらいかかる?」

「へ? あ、うん。一時間もあれば可能だけど……」

 戸惑い気味に答えた守護系能力者のロルフにスティナは「わかった」とうなずく。みんなが、彼女は何をする気なのだろうかと見つめていた。


「なら、作戦自体は変更しない。だが、結界を閉じるのは今から一時間後、十七時きっかりにする。それまでにニーグレーンの外に出なければ、監査官だろうが討伐師だろうが、ヴァルプルギスごと街の中に閉じ込める。いいな?」

「……」


 返答は、なかった。ただみんな、呆然とスティナを見つめている。スティナはその視線を受けながら、呆然としているイデオンたちに向かって言った。


「時間がねぇんだ! エイラが死んだからって、ヴァルプルギスがいなくなるわけじゃねぇんだぞ! 私らの仕事はまだ終わってない!」


 その言葉に監査官も討伐師もはっとした表情になる。イデオンもはっとした。ほぼ同時に「了解!」という声が上がり、討伐師たちは各々ヴァルプルギスを街の外に出さないように結界の周縁に向かって行った。

「アニタ、お前も立て! 今は一人でも多くの戦力がいるんだからな!」

 いまだエイラにすがっていたアニタは、きっとスティナを見上げた。

「私のせいでエイラが死んだの! 私……!」

「悲しむのは後だ!」

 スティナは無理やりアニタを立ち上がらせる。スティナはその襟首をつかみ、揺さぶる。


「悲しむことは後でいくらでもできる。今は作戦に集中しろ! エイラの死を無駄にする気か!」

「……でも、私……」

「戦えないならさがってろ! 邪魔だ!」


 何よりもこの言葉がアニタの心にぐさりと来たらしい。一瞬でアニタの涙が引っ込み、強気の顔になった。


「……! そんなことない! 私も行く!」


 アニタが弓を握りしめて結界の周縁の警護につく。スティナは最後にイデオンとリーヌスにも言い置いて行った。

「リーヌス! 情報提供を頼む。イデオンはエイラを頼んだ。場合によっては狙撃も頼む」

「わかった」

「了解だよ」

 リーヌスとイデオンがうなずいたのを見てから、スティナはニーグレーンで一番高い建物……役所の屋根を見上げた。


「私は、あいつを倒してくる」


 そういって彼女が示したのは、おそらく、稲妻を落としたと思わるヴァルプルギスだった。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


私はあまり主要キャラを殺すことはないのですが、今回、エイラお姉様がおなくなりになられました。合掌。

エイラはスティナにとって母親のような存在です。彼女がいる限り、スティナは成長できません。

事前に、エイラはスティナに指揮権を渡しています。自分が死ぬことを予見していたと言うことでひとつ。

そして、スティナは頼られると断れない女(笑)


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