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北の大地【8】










「ほら、銃」


 跳び蹴りの姿勢からうまく着地し、しれっと蹴りを食らわせたうろこの肌をした者を踏みつけながら、スティナはイデオンとリーヌスに銃を投げた。こんな雑な扱いをされているが、魔法精製された魔法武器の銃である。ちなみに。

「あ、ありがとう」

「悪いな。つーか、遅かったな」

 イデオンは視線をそらしながら礼を言い、リーヌスはじろじろと眺めながら言った。スティナはさらりと言ってのけた。

「風呂に入ってたんだから、仕方ねぇだろ」

 だから来るのも遅かったのか。って、問題はそこではない。


 よほど急いできたのだろう。風呂に入っていたと言うスティナはその言葉の通り、風呂上がりの様相だった。足元はブーツであるが、着ているのがガウンである。髪も濡れている。これは部屋から出ていい恰好ではない。

 その格好にさらに魔法剣スノー・エルフィンを持っているので、すでに違和感しかない。


「いや、その前に格好につっこめ!」


 ポールからもっともなツッコミが入ったが、イデオン的には触れていいかわからなかったし、たぶん、リーヌスもスティナも『緊急事態だから仕方がない』くらいにしか思っていないだろう。

 そして、思った通りスルーされた。

「これ、昼間のと同じ?」

 スティナが鞘に入ったままの剣で肩をたたきながら言った。足元のうろこの者をグイッと踏みつけながら、もう一人の羽毛の者を見る。

「ああ、うん……たぶん?」

 リーヌスが自信なさげに言った。スティナが目を細めて剣を肩からおろした時、羽毛の者が言った。


「目標……討伐師……スティナ・オークランス……ころせ」

「!」


 スティナが目を眇めた。足元のうろこの者に鞘に入ったままの剣を振り下ろして打撃を加えてから、彼女は羽毛の方に向かっていった。やはり鞘に入ったままの剣を振り上げ、首筋に叩き込むように振り下ろす。スティナも羽毛の拳を腹に受けていたが、彼女は顔をしかめただけだった。

「何だこれ。こいつの再生能力、どうなってんだ?」

「あ、さっき僕も銃で撃ったんだけど、効いてないんだよね」

「マジか。でもこれ、一応人間だろ」

 スティナがスノー・エルフィンを抜くのをためらう気持ちがわかる気がした。相手は異形の姿に変わりつつあるとはいえ、人間だろう。ヴァルプルギスがエクエスの力を感じ取れるように、討伐師も何となくヴァルプルギスかどうか、がわかるらしい。彼女にとって、彼らはまだ人間なのだろう。

「通常の攻撃だとたちどころに回復するということか……」

 つぶやきながらスティナが剣を引き抜いた。無表情なその顔が、すでに凶悪な域に達している。


「つまり、多少攻撃を与えすぎたところで死なねぇってことだな……」

「!」

「ポール! スティナから距離をとれ! 巻き込まれる!」


 イデオンとリーヌスはとっさに悟った。彼女は本気でやる気だ。相手がヴァルプルギス並みの回復力を持つのなら、遠慮する必要はない。ポールも現状を悟ったのか、「了解だ!」と叫び従業員たちを下がらせた。あとでスティナが一般人である彼らにどん引きされることになるが、それは仕方がない。

 一応イデオンも銃を構えるが、出番はないだろう。半分乱戦(というかスティナが暴れているだけ)になっている今、下手に撃てばスティナにあたる。まあ、彼女ならよけるかもしれないけど。

「おらぁっ!」

 いつも通り色気のない怒声を響かせつつ、羽毛を切りつけ、その勢いのまま大きく足を踏み込み、低い体勢からうろこの方に剣戟を繰り出す。そしてそのまま身をひねり、痛烈な蹴りを加えた。うろこが吹っ飛び壁に激突する。

「イデオン、確保!」

「了解!」

 イデオンは再びうろこのような肌の者を後ろ手に拘束し、今度はヴァルプルギス拘束用の手錠をかけた。これだけでは不安だが、とりあえず上に乗ったまま待機。

 羽毛のような肌をした者は、スティナに斬りつけられたが、その羽毛が飛び散りスティナの視界を奪っている。なので、結構いい勝負だ。


 スティナがうるさそうに手で羽毛を払う仕草をする。風が巻き起こり、羽毛は横に流れた。視界が確保されたスティナは剣の柄を首のあたりに叩き込む。先ほど鞘でたたきつけたあたりだ。それから足払いをかけ、引き倒す。肩甲骨のあたりを踏みつけ、腕を容赦なくひねりあげた。剣から手を放し、両手で力を加える。

 バキッという音が聞こえて、羽毛の者の悲鳴が上がった。これは完全に肩が壊れたな……とイデオンは遠い目をする。スティナは羽毛のような肌をしたそいつの上からのくと、イデオンの方に近づいてきた。

「そっちも腕か足、折っておこうか」

「いや、過激すぎだよ!?」

「どうせすぐ回復すんだろ」

「何その治るからやってもいい的な意見」

「イデオン、言っておくけど初弾で膝を破壊しようとしたお前に言えることじゃないからな、それ」

「」

 リーヌスにつっこまれ、イデオンはかくっと肩を落とした。一応自分は常識の範囲内にいるつもりだったのに、いつのまにか非常識側に分類されてもおかしくないようになっていたらしい。


「とにかく確保できたんだからよかっただろ」


 と、リーヌスが締める。すると、ポールがつっこんできた。

「スティナ、お前、とりあえず着替えてこい」

「ん」

 剣の回収をしていたスティナが自分の恰好を見下ろす。確かに、かなり目に毒な状態になっている。胸元ははだけ、裾がめくれあがっていた。とても人前に現す姿ではない。

「別に下着じゃねぇんだし」

 と、彼女は男前なのかずぼらなのかわからない発言をする。確かにガウンの下にはキャミソールとショートパンツを身に着けているようだが、それにしてももう少し恥じらいを、と思ったところで先日の変態騒動を思い出した。


「そんな、スティナちゃん。フレイアじゃないんだから」


 笑ってツッコんだイデオンだが、何故かスティナに目を見開かられた。そして、彼女とリーヌスが目を見合わせる。イデオンは何が二人の間で通じ合ったのかわからず、首をかしげた。


「とりあえず、お前は着替えてこい」


 リーヌスがどん、とスティナの肩を押した。スティナはガウンを直しながら部屋に戻りかけて、「あ」と声をあげた。

「急いで出てきたから、鍵部屋の中だ」

「何やってんだよ、お前は」

 仕方がないのでマスターキーで開けてもらうことにした。同行することになった従業員は不運である、と思っていると、リーヌスが「ついていけ」とイデオンに命じてきた。

「いいか? スティナと力を合わせろよ」

「? はい」

 ささやかれて良くわからないがうなずく。先に歩きだしていたスティナと従業員のあとを追った。

「スティナちゃん」

「何。お前、ついてくんの」

「ああ、うん」

 短くうなずくと、スティナはそれ以上聞いてこなかった。彼女の部屋につくと、従業員のマスターキーで部屋を開けてもらう。


「じゃあ、僕外にいるから」


 気を効かせてそう言ったのだが、スティナはイデオンの手をつかんで部屋に引っ張り込んだ。どうでもよいが、こういうことはイデオンはする側であってされる側ではないと思うのだが。

「え、えっと、いいの?」

「いい。待ってろ」

 そう言って、スティナは勢いよくガウンを脱ぎ捨てたので、申し訳程度に後ろを向き、彼女の方を見ないようにした。


「何か問題でもあった?」


 スティナが訳もなく自分の部屋にイデオンを引っ張り込むとは思えない。仲は良いと思うが、二人は別に恋人とかであるわけでもないし。

 無言で着替えるスティナから返答はない。沈黙が続くのでどうしていいかわからなくなってきたころ、後ろから抱き着かれた。いや、正確には後ろから両肩に手を置かれ、密着されたと言った方が正しいか。ドキッとするが、そんな甘いものではない。

 だが、甘いささやきをするように、スティナはイデオンの耳元でささやいた。

「このまま聞け。外にいる従業員が聞き耳を立てているだろうからな」

「え?」

 イデオンが声を上げるが、スティナは小声で「黙って聞け」と命じてきた。はい、黙ります。


「おそらく、あの従業員、スパイだ。一度ホテルの外に出たやつらを、またホテルに引き入れるにはホテル内に協力者がいるからな」

「あ……っ」


 イデオンが納得したところで、スティナが一つうなずく。距離が近いので、彼女のおでこがイデオンの肩に乗せられた。


「……おそらく、さっきの肌が変な二人を操っていたやつも近くにいる。心当たりがある。まずは、あの従業員を捕らえるのに協力してほしい」

「わかった」


 イデオンが了承すると、スティナは彼から離れた。振り返ると、白いスラックスにブーツ、シャツにカーキ色のコートと言う格好のスティナが立っていた。多少野暮であるが、スティナが着ると格好良く見えるから不思議である。

 スティナがすっと指先をドアの方に向ける。イデオンはうなずいて足音を立てずにドアに近寄り、ドアノブに手をかけた。

「すまん、待たせた」

 すでに本性がばれているからか、スティナはいつもの調子で語りかけてきた。もちろん、外に聞かせるためだ。

「大丈夫だよ。あ、今度は部屋の鍵、持った?」

「!」

 どうやら本当に忘れていたらしく、スティナは部屋の中に戻り、鍵をポケットに入れながら戻ってきた。時々、こうして抜けているところがあるから面白い。

「……悪い」

「いやいや。そう言うところが可愛いんだよ」

「うるせぇよ」


 蹴られた。理不尽。


「ほらまた照れ隠し」

 指を三本立てる。スティナが絶妙に切り返してきた。

「お前の物言いがストレートすぎるんだろ」

 指を一本折る。あと二本。

「う~ん。これは性格だから、大目に見てほしいなぁ」

 残り一本。イデオンは最後の一本を折ると同時にドアを開けた。従業員が目を見開いたのと目があった。スティナがさっと外に飛び出し、背後をとる。剣を少しだけ抜き、首を腕と剣で囲うようにして刃をのどに当てた。


「おとなしくしろよ。私も、できれば人を傷つけたくないからな」


 ある意味恐ろしい文句を言い、スティナは従業員を脅した。イデオンはドアをゆっくり閉めながらニコリと微笑んだ。

「こうして一人でいるところを見ると、仲間はいないのかな。それとも、金で雇われただけかな」

「そ、そんな安っぽい関係ではない。私は、あの方の考えに賛同して――」

「助けが来ない時点で、てめぇは見切られてるよ。イデオン、ミカルんとこ行くぞ」

「了解」

 イデオンはスティナの部屋の向かい側にあるミカルの部屋のベルを鳴らした。だが、考えてみればマスターキーを持った従業員がいるのだから、マスターキーを使えばよかったのかもしれない。


「……何だこの状況」


 ドアを開けてくれたミカルだが、従業員を脅しているスティナの様子にちょっと引いていた。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


今回突っ込みどころが満載ですが、イデオン→←スティナって感じなのに、お互い気づいてないです。

そして、スティナはどこかに羞恥心を置き忘れてきた模様(笑)


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