表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/82

北の大地【7】








「ミカル」


 壁に寄りかかっていたスティナがベッドに手をつき、身を乗り出してミカルの顔を覗き込んだ。まだ青い顔をしているミカルだが、眼が覚めたのなら一安心だ。

「大丈夫か」

 素直に心配する言葉に、ミカルは答えなかった。ゆっくりと身を起こし、スティナに逆に問いかける。

「やつらはどうした」

「……逃がした……」

 しおらしいスティナと言う貴重な光景であるが、それをまじまじと観察している場合ではない。誰もがミカルが説教を始めると思った。

「お前は私を助けるのではなく、あいつらを追うべきだった。最悪の場合は殺せ、と言ったはずだな。お前一人でも、できたはずだ」

 これは、ミカルからスティナへの信頼だ。彼女のことを、彼はそれだけ信頼している。やる必要があると思ったら、彼女は必ずやるだろう。


「優先順位を見誤るな。大事なのは私の命ではない。やつらに殺されるかもしれない国民の命だ」

「……わかってる」


 一つうなずいたスティナは、ミカルが言葉を続ける前に再び口を開いた。

「だが、理性と感情は別だ。私は顔も知らない人の命より、ミカルの命の方が大事だった」

「討伐師である以上、それは許されないぞ」

「わかってる。私だって、あんたの教育を受けたんだから」

 スティナはそう言ってまっすぐに立ってミカルを見下ろした。

「確かに私の選択は最善ではなかったかもしれない。でも、あの時、私がミカルを選ばなければあんたは死んでた」

「だが、私を選んだ結果、やつらを逃がしたろう」

「ああ。そうだ。だが、それがなんだ」

 開き直ったようにスティナが言ってのけた。


「あいつらはまた見つけて捕まえればいい。でも、命は失ったらそこで終わりなんだ。だから、後悔はしてない」

「……お前、誰に似たんだ」

「知るか。あんたじゃねぇの。遠い親戚らしいからな」

「え、何だそれ。何だその面白そうな情報は」


 耐え切れなかったのかポールがツッコミを入れた。スティナとミカルが遠い親戚と言うのは、まあ、納得できる面もあるがどこからの情報だ。

「うちの婆さんの母親の兄が討伐師だったらしい。姓はブロームだ」

「お前、こんなところでそんなことをカミングアウトするな。DNA鑑定でもするか?」

「オルヴァーが喜んでやりそうだな」

 何となくスティナの調子が出てきたので話をまじめな方向に戻す。

「まず、脳震盪を起こした以上、ミカル教官は一日安静にしてください」

 フリュデン支部の治癒術師に言われてミカルは「仕方がないな」とうなずく。言いつけを破って長引く方が問題だ。

「スティナ、わかっているな? もうしくじるなよ」

「了解」

「いや、でも、スティナも肩の脱臼を治したばかりだからあんまり無理はしてほしくないんだけど」

 治癒術師がツッコミを入れた。討伐師の中にもまともな感性の者がいるのだな、とイデオンは変なところに感心した。


「これが終わったら二人とも精密検査だな」


 リーヌスが苦笑気味に言った。ミカルとスティナが一様に嫌そうな顔をする。本当によく似ている。遠い親戚かもしれないとわかったので、余計にそう思うのかもしれない。

「と言っても、基本的な体制は変わらないな。スティナは護衛任務を続行。捕らえた三人はフリュデン支部の職員に手伝ってもらって監視。調査員も派遣してほしい」

「わかりました。残り二人の方の捜査にも手をまわしますね」

「頼む」

「了解です」

 ポールの指示にフリュデン支部の監査官はテキパキと答えて携帯端末で指示を送る。

 フリュデンにいるのもあと二日。何もない……はずがなかった。
















 護衛が一人になるとどうなるか。実は、そんなに変化はない。明日になればミカルが行動可能になるし、スティナがいないときはリーヌスとイデオンがポールの側にいればいい。フリュデン支部の監査官や討伐師には捕らえてある三人を担当してもらっている。

 ホテルの廊下を歩いていると、ポールが他の会議出席者につかまってしまったので、リーヌスとイデオンは少し離れて待機していた。


「……ん?」


 唐突にリーヌスが首をかしげた。そのすぐ前までイデオンとくだらない話をしていたので、話の内容に引っかかるものはなかったはずだ。

「どうしたんですか? あ、何か感知しました?」

 リーヌスの知覚能力は信用できる。リーヌスが「ああ……」とあいまいにうなずく。

「何かいるような気がするが、よくわからん」

「とりあえず、どっちの方向ですか?」

 イデオンが尋ねると、リーヌスは「あっちだな」とポールたちが話している方向を示した。ちなみに、話しこんでいる二人の向こう側には、ポールと話している会議出席者の秘書官がいる。イデオンはひょこっと顔を出してそちらを見た。ジャケットに手を突っ込み、拳銃をつかむ。

「ためらわずに撃てよ」

「りょうか……いや、僕がやるんですか?」

「射撃に関しては俺は自分よりお前を信頼している」

「……そうですか」

 何となく思うところがないわけではないセリフであったが、今はそれどころではないのでとにかくうなずく。リーヌスがスティナに連絡を入れていた。

 だだだだだっ、と走るような音が聞こえた。さすがの違和感にポールたちもそちらを見る。


「うわぁぁああっ」


 一番襲撃者の近くにいた秘書官が悲鳴を上げる。ポールはさすがに一般人とはいえ監査官。会議出席者と秘書官の襟首をひっつかみ、後ろに下がってきた。ポールの反応が早かったので、イデオンの射撃はうまく襲撃者にあたった。続けて二発、三発、と撃ちこめば動きが少し遅くなる。

「イデオン! もう一人いるぞ!」

「え、どこですか?」

 リーヌスに言われたが、イデオンの目ではもう一人が捕らえられない。時々、リーヌスは『目』で見て言っているのか、知覚能力で感じ取ったことを言っているのかわからないときがある。

 イデオン的には突然出てきた二人目にそれでも正確に銃弾を撃ちこんだ。うまく膝を貫いてくれたので、一発で二人目は体勢を崩した。

「気のせいかもしれないですけど、なんか混じってませんか?」

「鱗みたいのがあるな」

 イデオンが尋ねると、リーヌスがそう返した。一人目の方は緑っぽいうろこ状のものが肌を覆っているし、あとから来た方は羽毛のようなものが腕に映えているのがわかる。


「しかも、お前に倒せるってことはやっぱり人間に近いんだろうか」


 リーヌスにさりげなく貶された気がするが、そこは気にしない。戦闘力的にイデオンがリーヌスやほかの監査官に劣っているのは事実だ。一度軍隊で訓練でも受けてこようか。この国には兵役義務がないので、イデオンは軍事訓練を受けたことがないのである。

 ちなみに、有事には討伐師が国防を担うこともあるらしい。まあ、討伐師は一人で一個小隊分の戦闘力があるとも言われているので、当然のことなのかもしれない。

 話を戻して。

「人間がヴァルプルギスになり損ねた、みたいな……感じですね……」

「中途半端な感じではあるな」

 イデオンが遠回しに言おうとして失敗し、結局そのまま言ったことにリーヌスは真剣な表情で同意した。

「とりあえず、こいつらも先に捕まえてある三人と一緒に放り込んでおくか」

「そうですね」

 イデオンはうなずき、ちらっとポールの方を見た。会議参加者に説明を行っているようだった。

 銃声を聞きつけたのか、ホテルの従業員が集まってきた。対応はポールに丸投げしてしまう。


「もう解決しましたので、大丈夫です」


 ポールがそう言って従業員たちをなだめているのが聞こえる。イデオンが低めの声でリーヌスに尋ねる。

「今年の初めにあった、ルシアの祈り事件と似た感じですよね」

「ああ……無理やり力を取り込んだ感じがってことか」

「そうですそうです。結局あれも方法は良くわかりませんでしたけど、無理やり別の力を取り込んで暴走したんでしたよね」

 イデオンが思い出しながら言うと、リーヌスが腕を組んで「確かになぁ」とつぶやいた。

「状況としては似てるわな。しかも、同じものだと考えるとあの時より精度が上がってやがる……」

「まあ、あの時から半年は経ちますし」

 しれっとそう言うと、何故かはたかれた。理不尽である。

「だがまあ、確かに半年あればこれくらいの進歩は……ん?」

「今度はどうしたんですか」

 先ほど襲撃があった時と似たような反応をしたリーヌスに対し、イデオンは小首をかしげた。

「いや……何か聞こえないか? 歌的な……」

「歌?」

 そう言われてイデオンも耳をすましてみるが、何も聞こえない。そして、この際だからと思っていたことを言った。


「あのですね、リーヌスさん。僕は平々凡々な一般人なわけですから、リーヌスさんが知覚能力で察知したものがわかるはずがないじゃないですか」


 そう言うと今度は手刀が落とされた。今度はかなり痛かったので頭をさする。

「痛いじゃないですか」

「生意気になったよな、お前。初めからか」

「あ、ひどい」

 くだらない会話に笑い声をあげた時、倒れていたはずの襲撃者が起き上がった。二人ともだ。一応、手は縛ってあったのだが、ちぎられたのか自由になっている。イデオンは拳銃を相手に向け、残っていた銃弾をすべて撃ちこんだ。空になったマガジンをパージし、新しいマガジンを取り付けた。

 ちなみに、ライフルはボルトアクション方式を使用しているイデオンだが、さすがに持ち歩く小型の銃はオートマチック・ピストルだ。手動のものだと、マガジン内蔵なので再装填が面倒なのだ。

「今度は効いてませんね」

「その銃、普通の拳銃か?」

「そうです。魔法武器を持ち歩くのはどうかと思って」

「お前、こんなところで常識を持ち出すな」

 リーヌスと間が抜けているのか真剣なのか判断に困る会話を繰り広げつつ、イデオンは再びうろこのような肌の者と羽毛のような肌の者に銃を向ける。

「ポール! そのまま動かないでくれ!」

「了解だ」

 ポールが会議参加者と従業員たちをかばいながら言った。うろこの方が動きを見せたのでイデオンが引き金に指をかけたとほぼ同時に、声が飛んできた。


「しゃがめ!」


 イデオンはとっさに頭をかばってしゃがんだ。リーヌスもだ。一年ほど前、監査室に所属したばかりの頃なら、リーヌスに頭を押さえつけられていたところであるが、イデオンも学んだ。こういう場合、彼女の指示には従った方が安全である。でなければ、巻き込まれる。


 廊下を全速力で走ってきたスティナが、うろこの顔面に跳び膝蹴りを食らわせた。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


いまいち意味が分からないのは、私の語彙力の問題(笑)

そして、アグレッシブなスティナを書くのが楽しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ