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北の大地【6】









 出張五日目。二回目の会議が昼間に開かれていた。相変わらずイデオンとスティナはお留守番である。前回の留守番時は完全に部屋着だったスティナだが、今回はなぜか完全装備だった。

 空中戦用の装備を完全に身に着けている。カーキ色の魔法陣編み込みコートにブーツも同様に魔法陣の編み込みのもの。腰に巻いたベルトには『スノー・エルフィン』がさげられている。耳には通信機。黒髪のかつらはひとつに束ねられ、カチューシャで押さえられている。激しく動くことを想定しているのだ。


 そう言うイデオンも持ち込んだライフルを近くに置いているので人のことは言えない。


 二人は相変わらず同じ部屋にいても会話をするでもなく互いに好きなことをしている。スティナは本を読んでいるし、イデオンはぼーっとテレビを見ていた。

 ふっとスティナが顔をあげたのに気付き、イデオンは彼女の方を見た。

「どうかしたの?」

「いや……」

 スティナは本を閉じて立ち上がった。イデオンもつられて立ち上がる。テレビを消した瞬間、防犯ブザーのような警告音が響いた。二人が持っている携帯端末である。

「先に行く」

「了解。気を付けてね」

 スティナが腰に差した剣を押さえながら部屋を出ていく。イデオンは自分のライフルとアタッシュケースを持って遅れて部屋を出てスティナに続く。


 向かうのは会議が行われている広間だ。近づくほどに混乱がうかがえる。イデオンも一年前までは混乱する側だったはずなのに、今では対処する側だ。

 明らかに武器を持ち込んでいるイデオンだが、呼び止められることはなかった。彼が特別監査室のエンブレムをつけていると言うのもあるし、単純に指摘している暇がないほど場が混乱していると言うのもある。

 イデオンはとりあえず会議場を覗き込んだ。その瞬間にリーヌスと目があった。


「よし、ナイスタイミングだ!」


 見つかってしまったのでちょっと怖いが戦場と化している会議場の中に入る。ひっくり返したテーブルを盾に、リーヌスを含む会議参加者が隠れていた。入り口の近くにいたものは扉から逃げたのだろう。


「これ、どういう状況ですか」


 イデオンはリーヌスに銃やその他装備を渡しながら言った。アタッシュケースに入っていたのは武器類だ。ポールも銃を受け取っている。

 現在、会議場では五体のヴァルプルギスのような人間による破壊活動が行われていた。体の一部が変化し、ただの人間や討伐師のようには見えないが、ヴァルプルギスというにも変な感じがする。

 スティナもミカルも相手が人間かヴァルプルギスか判断に困り、対応しあぐねているようだ。とにかく、この部屋から出さないように、と思っているのかもしれない。

「というか、ミカルさんが持ってるのって万年筆じゃないですか?」

「お前、冷静に見てないで武器届けてやれ」

 リーヌスにつっこまれた。会議中は武器類を持ち込めないため、ミカルの剣はイデオンが預かっていたのだ。

 と、五人のうち二人がガラスを破って外に飛び出した。どういう原理か、飛んでいる。空中戦ができるというスティナやミカルでも浮遊は不可能なのに。


「私が追う!」

「ああ。殺すなよ。だが、最悪の場合は殺せ」

了解ヤー!」


 叫ぶように返事をすると、スティナはそのまま外に飛び出した。リーヌスとイデオンが残った三人に威嚇射撃をしている間に、ミカルが武器を取りにやってきた。

「スティナを追う。片づけるぞ」

 ミカルが短い指示を飛ばす。だが、殺すなと言うのだろう。難しいことを言う。

「大丈夫だ。心臓や脳幹を撃ちぬかない限り死なないだろう」

 ミカルはそう言うと、カーキ色のコートを羽織り、スティナが持っていた『スノー・エルフィン』とは真逆の真っ黒な剣を鞘から引き抜くとそのまま近くまで来ていた一人に思い切りよく切りつけた。といっても、急所は巧妙に避けている。


「相変わらず良い腕だ」


 ポールがつぶやくように言った。イデオンはちらっとポールの方を見て一瞬違和感を覚えたが、すぐに視線をミカルの方に戻した。

「リーヌス、拘束しておけ」

 ミカルが気絶させた二人を示しながら言った。いつの間に。

 リーヌスがテーブルの影から出て言われたとおり二人を拘束しにかかる。ヴァルプルギス捕獲用の手錠を出していた。イデオンには何故そんなものがあるのか謎である。

 イデオンは残った一人の肩に向かって射撃を行った。うまく当たり、バランスを崩したところにミカルが剣の柄で横殴りに殴りつけた。

「私はこのままスティナを追う。ここは任せた」

「わかった」

 リーヌスがうなずいたのを確認し、ミカルが外に向かって飛び出した。スティナが出てから五分ほどたっている。

「イデオン。とりあえずこいつら拘束して閉じ込めておくぞ。それと、フリュデン支部に討伐師と監査官の増援を要請」

「了解。どこに閉じ込めておきますか?」

 イデオンの問いに、ポールが答えた。

「どこかの部屋を貸し切ろう。通常の客が来ないようなところがいいな。近くにはスティナとミカルを含む討伐師を常時配置しておく」

 それなら大丈夫そうだ。無駄な信頼感。


 ホテルの従業員に事情を話し、一般客が使わない部屋を貸してもらった。さらにフリュデン支部から借りた守護系能力を持つ討伐師に結界を張ってもらった。これの欠点は、結界を張ると人間も出入りできなくなることだが(生体に反応する結界らしい)、今回の場合は都合がいい。相手は生体であるが、ヴァルプルギスか人間かわからないのだから。


「お、ミカルとスティナが戻ってくるぞ」


 リーヌスがスティナの位置情報を示す端末を見て言った。彼女……というか、ミカルもだが、GPSを持たされているのである。

「本当ですか。じゃあ、屋上ですね」

 はぐれた場合の集合場所は屋上だ。人の目につかないところ、となるとそんな場所になってしまうのである。

「室長。ちょっとスティナたち迎えに行ってきます」

 リーヌスがそう言うと、ポールはフリュデン支部の監査官に監視されつつ書類を書きながら「行って来い」と手をひらひらと振った。戦闘行為を行えば、室長であろうと報告書を書かされるのだ。今回の場合は遭遇した相手が相手なので、客観的な情報が必要だ。そのため、多くの資料があるに越したことはない。

 階段で屋上まで上がり、ドアを開けたところにちょうどスティナが着地した。屋上にうまく着地した彼女だが、何故か肩には自分より大きなミカルの体を担いでおり、もう片方の手には白と黒の剣、二本を手にしている。

「どうしたんだ?」

「もしかしてミカルさんやられた?」

 リーヌスとイデオンがスティナの登場の仕方に驚いて尋ねると、彼女は剣を投げて手を自由にすると、両手でミカルの体をゆっくりおろした。

「攻撃を受けて落下したんだ。たぶん、脳震盪を起こしてると思う」

「で、敵は?」

 リーヌスが尋ねた。スティナはたっぷりと間を置いて、


「……逃した」


 とだけ言った。リーヌスはため息をつき、「まあ仕方ねぇな」とだけ言った。

「とにかくミカル運ぶぞ。イデオン、手伝え」

「あ、はい」

 リーヌスと協力してミカルを運ぶことになったが、長身の彼を運ぶのは大変だった。スティナはその後から剣を二本持ってついてくる。頬にはぶつけたような痕があるし、腕には切り傷がある。さすがに無傷とはいかなかったようだ。ミカルも、おそらく見えていないだけで怪我をしているだろう。ちなみに、かつらは取れていなかった。


 意識がないミカルを見て、ポールが驚いた表情になった。フリュデン支部の治癒術師にミカルとスティナの治療をしてもらい、ミカルの部屋が臨時の会議室と化す。

「ホテルに残っていた三人はまとめて閉じ込めてあるが……残り二人は二がしたんだな?」

「ああ……悪い」

 謝っているのか微妙なラインの言葉をスティナが吐きだした。ポールは「いや、それはいいんだ」と答える。

「今となっては、捕らえてある三人を逃がさない方が重要だろう。支部の者にも手伝ってもらうが」

「構いません」

 フリュデン支部の監査官が力強くうなずいた。どうやら、今回のことを受けて近隣の支部からも人を集めているらしい。なので、いつもより人が多いのだそうだ。

「スティナたち討伐師には三人を監視してもらう」

「……わかった」

 スティナがうなずいた。

「明日には食事会があるが……スティナに出てもらうわけにはいかないな」

「絶対に行かねぇ」

 ポールの言葉にスティナが即答した。よほど晩餐会が嫌だったのか、彼女は。ポールが苦笑を浮かべる。

「ある程度は慣れてほしいところなんだがなぁ」

 それはやはりスティナが次の討伐師統括責任者(予定)だからか。言っていいかわからないので口にしなかったが、イデオンも適任だとは思う。脳筋脳筋と言われる彼女だが、頭は悪くないし、それに、人望もある。これが一番大きいか。


 まあそれはともかく。最大の戦力と言っていいミカルの離脱は痛い。というか、スティナとミカルの二人は裏で『最強コンビ』と言われているのだが、その片割れに一体何があったのか。

「っていうか、何があったの? ミカルさんがやられるとか、相当のことじゃない?」

 イデオンが尋ねると、視線がスティナに集まった。彼女は一度ぐっと唇を引き結んで、それから言った。

「……かばわれたんだよ、ミカルに……。それで攻撃をもろに食らって、落ちた」

 いつもは自分がかばう側であるスティナだが、今回は逆にかばわれて戸惑っているのか。だからちょっと様子がおかしいのだろうか。


「参考までに、どれくらい落ちたんだ?」


 リーヌスが尋ねた。確かに、どれくらい落ちたのかちょっと気になる。ぶつかった様子はないのでスティナが途中で受け止めたのだろうが、空中で受け止めるのはかなり重労働だっただろう。


「かなりの高度にいたが……よくわからないけど、五百メートル近くは落ちたと思う」


 つまり、それ以上の高度で戦っていたと言うことか。雲よりは上に出なかったようだが、ぎりぎり大気境界層内で戦っていたくらい、と見るべきか。空気が薄そうだ。

「それは……うん。お前、よく受け止めたな」

 リーヌスが感心したような呆れたような口調で言ったとき、ミカルが眼を覚ました。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ちなみに、ミカルはイデオンが来るまでボールペンで戦っていました(笑)ないよりまし、という。


そして、女子力(物理)を発揮するスティナ。落下する大の大人の男を受け止め、あっさりと担いでおります。

でも、いつもかばう側なのにかばわれて少し調子が悪いです。


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