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北の大地【5】☆

13日の金曜日!!











 一応自分の実家であるのにいまいち居心地の悪い状況であるが、スティナもだんだん慣れてきた。慣れとは恐ろしい。家族そろってテレビを見ていると、ロビンが話しかけてきた。

「姉さん。首都に行ったらおすすめの店とか教えてよ」

「自分で探せ」

「教えてあげてもいいじゃない」

 スパッと切り捨てたスティナに、マーユが不機嫌そうに言うがそう言う問題ではないのだ。

「そもそも、ほとんど出歩かないから知らん」

「姉さん、友達いなさそうだもんね」

 四月に会ったときに言われた言葉を再び言われた。これに関しては本当に否定できない。


「……その後、マーユのまわりで何かあったか?」


 マーユが律儀に渡したブレスレッドをしているのを見て、スティナはふと尋ねた。マーユは少し考え、


「何もないわね」


 と答えた。それは何よりだ。お守りが効いているかはともかく、気休め程度にはなっているだろう。

「ならいい」

 ここで会話終了。スティナが話しを振ると、だいたいこんな感じだ。話題の提供者である彼女に話を盛り上げる気が皆無だからである。

「……気になってたんだけど、スティナ、討伐師のお仕事って危ないんでしょ」

 とても今更なことをリナに言われ、スティナは「そうだな」と適当にうなずく。

「だが、私が本気で死ぬかと思ったのは、四月に交通事故に会った時だ」

「……あれか」

 エドガーが苦笑気味に言った。誰にも言っていないが、あれは本気で死ぬかと思った。ヴァルプルギス相手ならエクエスの力をいくらでも使って対応できるが、鉄の塊がつっこんできたとして、どう対応しろと言うのだ。イデオンなんかは『車よりスティナの方が強そう』などと言ってくれやがったが、さすがに鉄の塊にひかれればスティナだって危ない。

 自分の力ではどうにもならないであろう出来事に遭遇し、スティナはひさびさに命の危機を感じた。

「その時の怪我はもう大丈夫なの?」

「骨はくっついてる」

「……そっか」

 ロビンは何とも言えない表情を浮かべて引き下がった。祖父母は「スティナは強いねぇ」なんて言って微笑んでいる。


「討伐師の平均年齢は三十歳前後。大体の者は四十を越えると後方支援に回るからだ。前衛を担う討伐師は若いものが多い。それに」


 たいてい、十代後半から三十歳前半までか。ミカルのように四十に届きそうでも圧倒的な力を持つ討伐師もいるが、全てではない。何より。


「正式な引退年齢である五十歳までに、討伐師になった約半数が死ぬからだ」

「……」


 スティナをこの家から連れ出したのは、ミカルの母親だったと言う。当時すでに四十代後半だった彼女は、スティナをアカデミーに預けたあと、それほどしないうちに戦死したと言う。討伐師としては長い現役生活だっただろう。

「……何よ。同情してほしいの?」

 まず立ち直ったのはマーユだった。ここで憎まれ口を叩けるあたり、すごいと思う。だがたぶん、スティナも似たようなことをするだろうけど。

「いや。ただ、現実を伝えておこうと思っただけだ。実際、私はいつ死ぬかわからねぇからな」

 討伐師になると遺書を書かされる。つまり、そう言うことなのだ。

 自分で言ったが、すごい職場にいるなと思った。

「討伐師って、選ばれたら必ずならないといけないの?」

「そんなことはねぇな。リーヌスみたいに力が足りなくてなれないやつもいるが、訓練を受けたうえで討伐師にならないことを選ぶ者もいる」

 一応選択肢はあるのだ。質問してきたマーユに答えながら、スティナは思う。それでも、討伐師になることを選ぶ者が多いと。それは、正義感からではない。


 彼らは、私たちは知っている。誰かが戦わなければならないこと。そして、たとえ戦いから逃げても、強い力を持っていればヴァルプルギスに怯えながら過ごさなければならないこと。そして、幼いころに家族と引き離された彼らは、家族の元に帰るのが怖くなる。そして、ともに生活してきたアカデミーの仲間たちを家族のように感じるようになるのだ。スティナがミカルを父と慕い、リーヌスを兄と思っているのと同じことだ。


 戻っても、家族の中には、それどころか一般的な世間の中に自分の居場所はない。そう感じてしまうから訓練を受けた者は討伐師になることが多いのだ。


「……選べるから、戦うことを選んだ自分は英雄だと言いたいわけ?」


 マーユが苛立ったように言った。スティナは視線を窓の方に向け、ゆっくりと立ち上がった。


「いや。私たちは、英雄ではない」

「スティナ?」


 エドガーが立ち上がり、リビングを出ようとする彼女に声をかけた。スティナは「動くなよ」と身振りだけで伝え、玄関から外に出た。そのまま家を回り込み、そこにいた男につかみかかった。

「お前、何者だ。何を探ってやがる」

 隣家の塀であるが、男の胸ぐらをつかみあげて押し付けた。ニット帽を目深にかぶった男は、スティナが見る限り男は普通の人間に見えた。

 つけられるのはわかっていた。いくらスティナに知覚能力がないとはいえ、尾行するには相手が悪かろう。

 ミカルに追い出されたのもあるが、スティナが実家に来ようと思ったのは、誰かに『見られている』と思ったからだ。


 つけられているのは誰か? 彼は、誰を見ているのか。何が目的なのか。


 昨日、イデオンと出かけた時も、その尾行はあった。と言うことは、つけられているのはスティナかイデオンのどちらか。というわけで、スティナが離れてみたのだ。そして、尾行はついてきた。

 つまり、見られているのはスティナである可能性が高い。他にも何人かいるようだが、一番近くにいたこの男に目を付けたのだ。

「しゃべらないなら、それでもいい」

「ぐぅっ」

 腕をひねりあげて塀に押さえつける。討伐師として優秀なスティナは対人戦が苦手であるが、力技は得意だ。


「うちには優秀な諜報官がいくらでもいるからな」


 諜報官がいるのは事実だが、それは諜報官ではなく尋問官である。エクエスの能力を主体としている特別監査室の尋問官は変わっていて、まったくしゃべらずに事実を突き止めることもできる。

 だが、フリュデンに駐在している討伐師や監査官の中にいたかは覚えていない。首都から呼べば時間がかかる。つまりはハッタリだった。

「おいっ」

 背後から声がかかり、スティナははっと振り向いた。腕をひねりあげる力が弱まり、男が抜け出そうとしたので勢いよく地面に引き倒した。そのまま回し蹴りを繰り出し、声をかけてきた別の男を蹴り倒す。さらに二方向からやってきた二人(一人は女性だった)を殴り倒す。


「あいっかわらずアグレッシブだなー」

「変わらないわねぇ、あんたは」


 スティナは最後に背負い投げした体勢から身を起こしながら言った。

「来るのが遅い」

「戦ってるお前に近づく方が危険だからな」

 そううそぶくのはフリュデンに駐在している監査官だ。リーヌスと同じように、討伐師として訓練を受けていたが力が足りなかった男だ。もう一人は元軍人の監察官である。一度出向してきて、そのまま居ついてしまった変わった女性だ。

「私だって見境なく攻撃してるわけじゃねぇぞ。というか、こいつらどうにかしてくれ」

 と、スティナは自分が転がした四人を示す。元軍人の女性がひょい、と気を失った女を担ぎ上げる。

「わかってるわよ。っていうか、あんた、一体何したの? つけられるなんて」

「さあな。心当たりが多すぎる」

 スティナは腕を組んで目を閉じた。マーユに言った言葉を思い出す。


 討伐師は英雄ではない。むしろ、一般人にとっては殺人鬼にも等しいだろう。ヴァルプルギスは人と同じ姿をしていて、それまで人間として暮らしていたのだから、そう思うものが多いのは当然のことだ。

「まあ、あんた殺しても死ななさそうだし。そもそも、なんでこんなところにいるの? 駅前のホテルにいるんじゃないの?」

「そこ、実家」

 スティナの短い答えに、元軍人の女性が納得の声をあげた。

「お前が実家に帰ってくるなんて、どんな天変地異の前触れだ?」

 失礼なことを言った監査官の男を、スティナは無意識に蹴りつけた。
















「帰る」

「帰るって、一応ここが家だけど」

「……」


 家に入ってすぐそんなことを言い出したスティナに、ロビンがツッコミを入れた。確かにその通りであるが。


「……戻る」

「結構素直だよな、お前」


 エドガーにも言われ、スティナは少しむくれた。持ってきていた手提げかばんを持つ。

「邪魔した」

「またいつでも帰っておいでよ」

 そう言ってパニーラがにこにこと手を振ってくれた。彼女の発言から、うっかりミカルと遠い親戚であるとわかってしまった。いや、パニーラの姓じゃないけど。

「……まあ、気が向いたら」

「結婚する時も呼んでね」

 リナにも何やら不思議なことを言われて、スティナは「予定はない」と生真面目に答える。

「じゃあ……また」

「次はお土産よろしく」

「……わかったよ」

 やはり図々しく言ったマーユだが、その手首にはスティナが渡した『お守り』があり、スティナは何とも言えない気持ちになった。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


前にも書いたことがあるかもしれませんが、私は小説を書く前にコンセプトを決めます。

このヴァルプルギスの宴は『力があるというだけで戦わされる』『彼らは英雄ではない』です。自分で言ってて痛い(笑)

これだけ見ればダークファンタジー……かもしれない。


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