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家族の肖像【7】











 スティナが事故に会った翌日。すでに彼女はリハビリを開始していた。通常の病院に居ても優先的に治療を受けているのかと思ったら、オルヴァーがやってきて治療を行っていた。というか、今日もスティナの家族は来ていて、思った通りロビンはオルヴァーと気が合うようだった。

 ベッドサイドで立ち上がり体の動きを確認しているスティナに、イデオンは声をかけた。


「相変わらず治りが早いね」

「討伐師……というか、エクエスの能力には肉体強化系の力が含まれるからな」


 答えたのはオルヴァーだった。現在、ここには病室の主であるスティナとその治療に来たオルヴァー、さらにイデオンとリーヌスの四人がいる。スティナは気にしていないが、スティナ以外は全員男性である。

 腕の動きを確認し、屈伸運動など足の機能を確かめたスティナは首に手を当てて首をまわした。

「どうだ?」

「特に問題ない。骨折と捻挫さえ治れば動けるからな」

 その判断基準がよくわからない。

「転院は明後日だな」

「もう退院してもいいと思うんだが」

 オルヴァーの言葉に、スティナは少し顔をしかめた。確かに、彼女の状態を見ればもう退院してもよさそうに見える。いくら治癒術の補助を受けたとはいえ、驚異的な回復力である。


「定着すんのにしばらく時間がかかるからな。それに、イデオンと入れ替わった事件、あっただろ。それに関連してお前を精密検査しておけとミカルからの命令」


 スティナが舌打ちした。オルヴァーがからりと笑い、「舌打ちすんなよ。女の子だろ」とスティナをたしなめた。

「まあ、とにかく転院までおとなしくしてろよ」

「っていうか、なんで転院が明後日なんだよ」

 さらにスティナがつっこんでくる。これに関してはリーヌスが答えた。

「ちょっとこの病院に監査が入ってんだよ。担当は俺達じゃないけど……明日あたり、証拠が出そろう予定だ」

「あわよくば私を働かせようと言う魂胆か。ふざけんな」

「安心しろ。俺もいるからな」

「余計安心できねぇよ」

 どん、と自分の胸をたたいてどや顔をしたオルヴァーだが、スティナに冷静にツッコミを入れられた。


 この病院に監査が入っているのはイデオンも聞いていた。なので、この病院にスティナが運ばれたと聞いた時、何か作為的なものが働いているような気がしたものだ。


「そう言えばアニタはどうしてる?」


 スティナが尋ねた。アニタは半年ほど前に候補生から正式に討伐師になった。その際に、先輩討伐師に師事する。アニタには一度師事した討伐師がいたのだが、少し前に殉職した。そのため、その役割がスティナに移ったのだ。スティナにとっては初めての弟子になる。

 だが、期せずしてスティナが入院してしまった。オルヴァーがコートを着ながら言った。

「アニタは今ミカル預かりだ。お前がすぐに回復するだろうから、他に師をあてがってないぞ」

「そうか」

 スティナがベッドに腰掛け、うなずいた。彼女が退院すれば再びアニタは彼女に師事することになるだろう。それにしても、アニタも難儀な少女である。


「じゃ、俺は次の往診に行かないといけないから。お前、家族とも仲良くしてやれよ」

「無理」

「即答かよ。じゃ」


 オルヴァーは笑うと、そのまま病室を出て行く。イデオンとリーヌスもいつまでもスティナに付き合っているわけにはいかない。

「お前のご家族、明日には帰るんだろ? オルヴァーじゃないが、最後くらい喧嘩するなよ」

「善処はする」

「お前、そればっかりだな」

 リーヌスもははは、と笑った。

「俺らはお前が素直じゃないだけだと知ってるが、お前の家族は知らないんだからな。あと、言葉には気をつけろよ」

「吐いた言葉は飲み込めないんだよ」

 イデオンもリーヌスに追随して言うと、スティナがげんなりした様子で「お前ら、私の親かよ」とツッコミを入れてきた。ただ、別れる時くらい気持ちよくわかれてほしいだけだ。
















 翌日、フェルダーレン大学付属病院は休診日だった。救急外来に来る患者と面会の希望者だけが病院を訪れる。

 その休診日の中でも特に人の少ない朝方。病棟の方で抗争の音が聞こえていた。


 休診日とはいえ、入院患者や医師、看護師などは普通に病棟にいる。あまり使われていない病棟での抗争とはいえ、何事かと入院患者が顔をだす……ようなことはなかった。守護系の能力を持つ討伐師が結界を張っているのだ。魔法陣を使えば省エネだ。


「おーい、スティナ! どっちか生け捕ってくれよ」

「無理だ。自分でやれ」


 ヴァルプルギス一体と戦っているオルヴァーの要望に、ヴァルプルギス二体と戦っているスティナが答えた。イデオンたち監査官は邪魔にならないように少し離れたところから様子を見ている。ちなみに、担当の監査官はこの辺りに誰も近寄らないように人払いをしている。まあ、結界が張ってある限り中に入れるような人はいないと思うのだが。

 オルヴァーとスティナは後退しながら戦っているのだが、どちらかと言うと押しているのは討伐師の二人だ。


 病院で人がいなくなれば騒ぎになる。というか、普通、人がいなくなれば騒ぎになるけど。しかし、看護師や医師がその犯人だった場合、どうだろうか。いなくなったことに気付かれないように工作することができる。死亡診断書があればその人は死んだことになるし、人の死に顔は家族でも見分けがつきにくいと言う。最近では、精巧な人形もある。

 まあ、工作方法はともかく、ヴァルプルギスは医師と看護師二人だった。おそらくちゃんと調べたのだろうが、今日の日直医と看護師だった。

 スティナは相変わらず力技と技術が組み合わさったような全力の戦い方だが、オルヴァーは技術を重視しているようにも見える。最小限の労力でどうやって倒すか。彼も医者なので、人体の弱点などは知り尽くしているだろう。人型ヴァルプルギスなのでたぶん、弱点となる部分も似ているだろう。というか、その点で行くとオルヴァーは対人戦のほうが強そうだ。


 スティナと戦っているヴァルプルギスの一体が咆哮をあげた。思わず耳をふさぐイデオンである。そして、もういったいのヴァルプルギスはスティナの横をすり抜けて結界の外に出ようとした。

「っ! 頼んだ!」

「うおおい! マジかよ!」

 スティナが横をすり抜けていったヴァルプルギスを追って行ったため、オルヴァーが取り残される。彼は悲鳴をあげた。通常、ヴァルプルギスを討伐するとき討伐師は一人で対応しない。討伐師二人以上と補佐する監査官が一緒だ。

 しかも、オルヴァーは一人で二体のヴァルプルギスを相手にすることになる。先ほどまではスティナが相手をしていたが、スティナとオルヴァーは一緒にいたので、実質二対三だった。一人で二体を相手にするなど、スティナとミカルくらいだ。

「行ってきます!」

「やられんなよ!」

「了解!」

 オルヴァーの補佐はリーヌスに任せ、イデオンは回り道をしてスティナを追う。だが、回り道をしてスティナに追いついた時、彼女はすでにヴァルプルギスにとどめを刺した後だった。

 だが、その状況にスティナはとどめを刺した状態で固まっていた。うつぶせに倒れたヴァルプルギスの背中に刃を突き立て、右足でヴァルプルギスを踏みつけている。そして、一方を見つめて眼を見開いていた。


「……あちゃあ」


 イデオンはつぶやいてみたが、目の前の光景は変わらない。スティナが眼を見開いて見つめている先には、彼女の妹であるマーユがいた。

「って、ここ結界の中だよ。どうやって入ったの?」

「お、お見舞いに……」

 発せられたイデオンの問いに、マーユは震える声で答えた。スティナはやっと剣を引き抜き、足をどかした。イデオンはとりあえずマーユを保護しようと思った。

「スティナ! 行ったぞ!」

「!」

 オルヴァーの声にスティナが振り向き、驚くべき反応速度で飛びかかってきたヴァルプルギスを真っ二つに斬り裂いた。勢いのままとびかかってきたので斬りやすかっただろう。返り血がスティナの服にこびりついた。


「やったか……って、おお?」


 追いついてきたオルヴァーがマーユを見て眼をしばたたかせた。スティナは剣のしずくを払って鞘に収めながら「もう一体は?」と尋ねた。

「倒したが……そういえば、生け捕りにするの忘れたな」

「もう少し余裕のある時にやれ」

 討伐師がこの二人を含めて七名いる現状だが、そのうち五名は守護系能力者なので正確には戦力ではない。

「とにかく、状況整理は後だ。イデオン、そのまま彼女を保護。結界の外に出してやってくれ」

「了解です」

 遅れてやってきたリーヌスがテキパキと指示を出す。集まってきた監査官にヴァルプルギスの遺体と血などの汚れを片づけるように言い、最後にスティナに向かって言った。

「お前は着替えてこい」

「……ああ」

 スティナは適当にくくった銀髪の頭をかきながら持っていた剣を引きずり引っ込んでいった。どこかで女性監査官が彼女の着替えを持って待機しているはずだ。


「マーユちゃん、行こう」


 イデオンはマーユに付き添って結界を維持している討伐師のもとに向かった。

「すみませーん。ちょっと結界開けてほしいんですけど」

「ん? おお、イデオン。って、誰だ、そのミニスティナ」

 結界を維持している討伐師がマーユを見て首をかしげた。ミニスティナ、と言われたマーユは不機嫌そうだけど。まあ、先ほどのショッキングな光景を見てこれだけ落ち着いていられるのなら大丈夫だろう。

「スティナちゃんの妹さんですよ。迷い込んじゃったみたいで」

「マジか。すり抜けた感じなんてしなかったんだが……まあいいや。三秒だけ開けるから通り抜けろ」

 五人で一つの結界を作っているため、一か所でも崩れれば一気に崩壊する。

「了解です」

 イデオンはうなずき、一応断ってからマーユの手を取った。討伐師が合図とともに一瞬だけ結界を開けた。その間をイデオンはマーユを連れて通り抜ける。

「マーユ!」

 少し離れたところに母親であるリナの姿を見つけて、マーユがほっとした表情になった。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


そろそろこの章も終わりです。


最近、ツンデレがかわいいと思う。いや、前から思ってたけど。


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