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家族の肖像【1】

第4章です。最初は関係ない話。ある意味王道の展開です(笑)










「おい、アニタ、イデオン! そっちに行ったぞ!」

「了解!」


 林の中に、リーヌスの声が響き、イデオンはとっさに返事をする。次いで、少女の声も応えた。イデオンは太い木の枝の上にしゃがみ込み、幹にもたれてライフルを構えていた。少し離れたところには、正式に討伐師となってからまだ半年ほどの少女、アニタ・ヴィーバリがイデオンと似たような体勢で弓に矢をつがえて構えていた。

 意識を眼下に戻す。道、はない。しかし、その道なき道を危なげない足取りで走る女性がいる。銀髪をなびかせたスティナだ。その手には魔法剣が握られているが、彼女を追ってくるヴァルプルギスに向けることはなかった。なぜなら、これはアニタの訓練の一環なのだ。いや、おとりになっているスティナを追っているヴァルプルギスも本物であるが。

 これは、最悪の場合、おとりのスティナがヴァルプルギスを討伐できる、という前提で行われている訓練だ。基本的にアニタの討伐訓練であるが、イデオンの支援訓練も含んでいる。


 スコープを覗き込み、イデオンは引き金を引く。射撃には自信のあるイデオンは、見事にヴァルプルギスの右肩に銃弾を命中させたが、魔法銃を使っているとはいえ、討伐師ではないイデオンの攻撃力はたかが知れている。

 イデオンの左手から放たれたのは矢だ。こちらは討伐師であるアニタが放った矢である。討伐師は剣や槍などの武器を使うものが多いが、念動力の中でも放出型の力を持つアニタは、弓矢を武器として使っているらしい。こちらは聞いたようで、二本目の矢がヴァルプルギスの左腕を切断した。


「見た見た!? やった!」

「見てたから、集中しろ! まだ倒せてねぇんだぞ!」


 少し離れたところにいるリーヌスから怒声が飛んだ。彼の言うとおりだ。今はスティナを追っているが、いつ、こちらに標的を変えるかもわからない。


「! スティナ! 右手から高速で何か近づいてくるぞ! 回避!」

「!」


 ちょうどイデオンの真下を通り過ぎようとしていたスティナが右手を見て、背後を見た。そして、イデオンの真下を少し過ぎたあたりで急に方向転換。剣を手に、その遠心力でヴァルプルギスを斬り裂いた。さすがの思い切りの良さである。


「アニタ! 援護!」


 リーヌスが指示を出す。スティナが走ってきた方向から見て、リーヌスが言うのはスティナの右手。つまり、スティナから見るとアニタ側になる。アニタが矢をつがえ、放った。

「速っ。捕らえきれないよ!」

「ちっ。イデオン、お前もぼさっとすんな!」

「すみません!」

 イデオンの狙撃はそれほど効かないが、ないよりましだ。イデオンが使っているライフルは連射ができない。なので、一発ずつしか撃てないが、気をそらすくらいはできるだろう。まあ、前提として当たれば、だが。

 もう一体、ヴァルプルギスが現れた。全体的に人間に近い形をしていることが多いヴァルプルギスであるが、そのヴァルプルギスは四足歩行だった。これなら、悪路を高速で移動できたことに納得がいく。


「!」


 スティナが剣を逆手に持ち替えて上から大きく振り上げる。相手が懐に飛び込んでくるのを利用して、一気にとどめを刺す気のようだ。判断としては間違っていないように思う。


 だが。


「ちっ。外したか」

 首元を貫くかに思われた剣先は、それて腹部を貫いた。思ったよりも動きが早かったのだ。巨大なネコ科動物にも見えるそのヴァルプルギスは、スティナに向かって大きく咢を開いた。

 ここで、スティナは思わぬ行動に出る。避けるかと思われたのに、彼女は逆にヴァルプルギスに自ら近づいた。そして。


「なっ」


 声をあげたのはだれかわからない。もしかしたら、イデオン自身だったかもしれないが定かではない。それほどの衝撃だったのだ。

 スティナは、持っていた剣をヴァルプルギスの開いた口の中に突っ込んだ。そのまま、内側からのどを貫いたのである。ヴァルプルギスが悲鳴を上げてスティナを振り払おうと暴れる。しかし、スティナはそれを無理やり抑え込んだ。

「おい! アニタ! お前何してる! さっさととどめをさせ!」

「え、私!?」

「お前の訓練だろうが!」

 体を張って訓練中のアニタにとどめを刺させるスティナだ。アニタはおっかなびっくり矢をつがえたが、さすがに距離も近く、対象も動いていないので一撃で脳天を矢が貫いた。ぐったりと力を失ったヴァルプルギスから、スティナは剣を引き抜いた。

「おい、スティナ。怪我は?」

「腕に牙が刺さったけど、それ以外は大丈夫だ」

 え、それって大丈夫なの、と思わないでもないが、過去に背中を斬り裂かれたり腕が貫通したり肋骨が折れたりしているのを知っているので、イデオンはツッコまなかった。

 この時、四人ともが忘れていた。スティナが初めに倒したと思っていたヴァルプルギスのことを。そのヴァルプルギスは、まだ生きていた。


「うわっ」


 唐突にイデオンが待機していた木が揺れた。彼はあわてて幹につかまる。下を見ると、片腕のないヴァルプルギスが体当たりをかましていた。このままでは振り落される。別の木に飛び移ろうかと思ったが、イデオンの身体能力では無理だ。

「スティナ!」

「っ!」

 リーヌスの声とほぼ同時に、スティナがそのヴァルプルギスにとどめをさすべく剣を振りかぶった。ヴァルプルギスの心臓の部分に剣が突き立てられる。そのまま木に縫い付けられたような形になる。

「おまっ、何してんだスティナァアア!」

「悪い!」

 ヴァルプルギスに足をかけ、無理やり剣を引き抜く。そのまま、ヴァルプルギスの興味は彼女に移るかと思ったが、何故か再び木に体当たりがかまされた。イデオンがバランスを崩して落下するのと、スティナがヴァルプルギスの首をかき切るのがほぼ同時だった。


「わあっ」

「!?」


 スティナの驚いた顔を認識した直後、イデオンは彼女の上に落下した。

「いたたた……」

 ぶつけた後頭部を押さえながら身を起こす。こちらもぶつけたのか、右腕もじくじくと痛んだ。

「いってぇ……」

 そばから低いうめき声が聞こえてそちらに目をやる。と、そこで固まった。相手と目が合うと、相手も目を見開いて硬直した。

「二人とも、大丈夫か!?」

「スティナ! イデオン!」

 リーヌスとアニタが駆け寄ってくる。そして。


「わあああああっ!」


 悲鳴が上がった。
















「つまり……スティナの中にはイデオンが、イデオンの中にはスティナがいると。何、そのベタな状況」


 監査室本部に戻ってきたイデオンたちだ。ツッコまれて、イデオンは苦笑を浮かべたが、先述のエイラの言葉通り、イデオンの意識は現在、スティナの中にある。つまり、無表情がデフォルトのスティナが笑ったように見えて、周囲はどん引きだ。

「要因は何なんだろうな。頭ぶつけたからって映画や小説じゃないんだから、入れ替わるとは思えねぇし……」

「でも、スティナに精神感応系の力はないでしょ?」

「ねぇな」

 半笑いで現場を見ていたリーヌスとアニタが言うと、スティナがいつも通りのテンションで答えた。ただし、現在彼女の意識はイデオンの体の中なので、イデオンが無駄にクールに見える事態となっている。


「オルヴァーが知ったら喜んで調べそうだな」


 そう言うリーヌスはやはり半笑いだ。もう、いっそのこと笑ってしまえばいいのに。代わりのようにははは、とイデオンが笑った。スティナの顔で。

「……むしろ、今のままでいいんじゃね。イデオンが中に入ってる方が、スティナが年相応に見えるぞ」

「それ、僕が子供っぽいってことですか」

「スティナが入ってた方が、イデオンも男前だし」

「お前、うぬぼれるわけじゃねぇが、私がいないと戦力半減だぞ」

 リーヌスの発言にイデオンとスティナがそれぞれツッコミを入れる。これ、スティナは元に戻ったらリーヌスに蹴りをかましそうだ。


「面白いことになってるそうだな」


 ふらっとやってきたのはミカルだった。原因追及をあきらめ、元に戻る方法を探していたところだった。やっているのは当事者である二人だけだけど、リーヌスとアニタは報告書を書いている。


「あ、ミカルさん」

「よう。暇なら手伝ってくれ」

「ああ。本当に入れ替わっているんだな」


 今のセリフだけで、ミカルは納得したようにうなずいた。まあ、笑顔を浮かべたスティナと、無駄に偉そうに足を組んだイデオンを見ればその結論に達せざるを得ない。

「様子を見に来たんだが、二人は何をしてるんだ?」

「戻る方法を調べてるんです。原因は不明なんですけど」

 ニコッと笑いながらイデオンが言うと、ミカルが若干引いた。

「いや……本当はこれが正しい姿なのかもしれないが、すごい破壊力だな」

「お前、人の顔にどん引きしに来たのか。つーか、こうしてみると、お前と私の顔、ホントに似てるからな。自分の顔に引いたも同然だぞ」

 スティナが超絶クールにつっこんだ。いわく、「自分の体じゃないのに本気で切れたら疲れる」らしく、こうして無駄に冷静になっている彼女だ。

「こっちもすごいな。イデオン、もともと理知的な顔立ちだから、無駄に秀才に見える」

「ははは……頼りなさ気ですみません」

 ミカルの言葉にイデオンは再び苦笑。そして、それがスティナの顔なので、再び引かれる。そろそろこの反応にも慣れてきた。初めは自分の顔で笑うイデオンに嫌そうにしていたスティナも、今では慣れたのか無視している。

 手元に本や資料を広げているイデオンとスティナを見て、ミカルは顎に指を当てた。


「元に戻る方法か……二人とも、立て」


 唐突にミカルに命じられ、イデオンとスティナは思わず目を見合わせた。鏡で見るのとは違う、自分の顔を外から見るのは不思議な感じだ。

 顔を見合わせた二人だが、素直に立ち上がった。そのまま向かい合え、と言われたので向かい合い、スティナの視点から自分を見るので、少し顔を上げなければならなかった。


「よし」


 ミカルは一つうなずくと、二人の後頭部をつかみ、間髪入れずに二人の頭を思いきりぶつけ合った。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


唐突にかわいく笑うスティナを書きたい、と思った結果、イデオンと入れ替わりました。しかし、文章で絵があるわけでもないのに思ったより笑ったスティナが不気味。どういうことだろう。

とりあえず、イデオンの女子力が高いことはわかりました。そして、スティナは無駄に男前だった……。


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