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ルシアの祈り【4】









 スティナが巻き込まれた銀行強盗事件から二週間ほどたっている。あの時のスティナとよく似た青年ミカル・ブロームは討伐師エクエス養成学校アカデミーの校長らしい。討伐師養成学校は、養成学校などと言っているが、実際には討伐師候補が集団で暮らす寮の様相であるらしい。事実、そこで暮らす子供たちはそれぞれ初等学校や中等学校、高等学校などに通っている。スティナを見てもそうだ。どうやら、高等学校を卒業すると追い出されるらしい。


 寮で集団生活をしながら、討伐師としての技術を学ぶ。学業を修め、さらにヴァルプルギスと戦うすべを叩き込まれるのだ。討伐師になるのは大変である。そして、候補生がすべて討伐師になれるわけではない。リーヌスやヴィルギーニアを見てみればよくわかる。力があっても、人間には向き不向きがあるのだ。


 スティナが銀行強盗に巻き込まれたと聞いてリーヌスと現場に駆け付けたイデオンは、そこでミカルと出会った。黒髪だがスティナとよく似ていたので、初めはスティナの兄かと思った。だが、実年齢はスティナと親子ほど年が離れているらしい。とても若く見える。

 リーヌスが親しげにしていたから、すぐに監査室の関係者だとわかった。そして、独特の雰囲気から討伐師であることもわかった。強盗犯たちが逃走を試みた時、スティナは人質にとられていた。それを見て、ミカルは言ったのだ。


『このまま逃走させろ。あいつなら五人の強盗くらい造作もない』


 ……スティナを信用していると言えば聞こえがいいが、ある意味丸投げしている。


 さらに、ミカルはリーヌスに銀行で事件のいきさつを調べるように指示し、イデオンを連れてハイウェイの側のあまり使われない道路に向かった。そして、彼はイデオンにライフルを押し付けて言ったのだ。


『もうすぐ逃走車が通る。タイヤを狙撃しろ。できるな?』


 絶句した。イデオンはミカルのことを知らなかったが、彼はイデオンを知っていたようだ。聞いているが、有無を言わせない口調だった。イデオンはうなずくしかなく、高架から逃走に使われている車両のタイヤを狙撃した。一発目り二発目の方が難しかった。一発目は向かってくる車のタイヤを撃てばいいだけだった。角度によってははねかえされる危険性もあったが、貫通力の強い銃弾なのでゴムタイヤを貫いてくれた。二発目は蛇行している車のタイヤを撃ちぬかなければならなかったのでより集中力が必要だった。成功したからよかったが。


 さらに、車から降りた強盗の拳銃を撃ち落とせという無茶ぶり。何度も言うが、成功したからよかったが、間違えばスティナや警察にあたっていた可能性もあるのだ。

 合流したスティナは頬に殴られた痕はあったが、元気そうだった。強盗をほぼ一人で制圧したのだ。彼女の技量と度胸には感服である。


 討伐師エクエスは自分の身を護る責任がある。それにしても思いっきりやっていたが。一応は法学を修めたイデオンに言わせれば、過剰防衛である。

 逃走車を用意したり、検問を利用したりしたのはミカルだが、人質となって出てきたのはスティナの意志だろう。口ではなんと言おうと、彼女はやはり優しい女性だと思う。


「あの二人、本当に似てますね。性格とか」


 銀行の方で事件のいきさつを簡単に調べていたリーヌスと合流したとき、イデオンはそう言った。もちろん、ミカルとスティナのことである。

「まあなあ。もともとの性格が近いのもあるだろうが、養成学校の卒業生は一般的にミカルの指導を受けるからな。それもあるかもしれん」

「でも、スティナちゃんはエイラさんの弟子では?」

 前にそう言っていた気がする。イデオンが尋ねると、リーヌスは「それはそうだが」と言った。

「戦闘訓練を受けずに現場に行くわけないだろ。エイラはいわば実地訓練の師匠。ミカルはその前段階である戦闘訓練の指導教官だ」

 幼いころ行動を共にしていたのなら、似てくるのも仕方がないのかもしれない。しかし、これほど似るのは、やはり元の性格が近いからだろう。ややミカルの方が丁寧な口調ではあるが、言っている内容や行動が良く似ていると思った。


「そのうち、討伐師養成学校を見に行くのもいいかもな」


 リーヌスがぽつりとそう言った。彼らがどんな生活をしているのか、イデオンも少し気になった。


 そんなこんなでひと段落した強盗事件の後、リーヌスは単独で潜入任務に就いた。とある宗教団体に潜入監査を行うのである。どうやら聖女ルシアを信仰する宗教団体のようだが、『奇跡を起こす人間』を集めており、それがエクエスの力を持つ者ではないのか、という話だった。

 訓練は受けていないが、弱い力を持つ者は結構多くいるらしい。スティナなど、本物の討伐師と比べるどころか、リーヌスたち一度は候補だった人間と比べるのもおこがましいくらい弱い力を持つ者たちだ。

 そんな力でも、使いようによっては脅威となりうる。というわけで、少し職務からずれるものの、リーヌスは潜入することになったのだ。


 それから、すでに十日が経っている。ここまで、一度も連絡がない。


「おかしくないですか? 様子を見に行った方がいいのでは?」

 心配するイデオンが訴える相手は、監査室室長ポール・ノルランデルだ。五十歳前後の男性で、理知的な面差しをした眼鏡の男性だ。スティナのような伊達眼鏡ではなく、本当に目が悪いのである。

「と、言ってもなぁ」

「連絡がないのは、リーヌスさんの正体がばれて捕まってるからかも」

 イデオンが訴える。リーヌスは監査官として優秀だ。知覚能力に関しては鋭く、潜入向きの人材ではある。しかし、戦闘力は普通の人間だ。彼が優秀だとしても、数人がかりで抑え込まれてはどうしようもないだろう。


「……その可能性はないわけではない。実際に、監査官が潜入を行って、そのまま帰ってこなかったこともある」


 言い方をぼやかしているが、つまり、死んでしまったのだろう。イデオンがぐっと唇をかんだ。リーヌスもそうならないという保証は、どこにもない。


「イデオン。ちょっと落ち着きましょう。室長。確かにリーヌスから一度も連絡がないのは不自然だとは思います。しかし、彼にも何か考えがあるのかもしれません」


 見かねて口を挟んできたのはエイラだ。補佐官である彼女は、冷静に言葉をつむぐ。

「もしこのまま連絡がなければ、私から総帥に掛け合って討伐師エクエスの派遣も可能にしましょう」

 監査官と討伐師を取りまとめる存在は違う。監査官たちは監査室室長に、討伐師たちは総帥、と呼ばれる討伐師統括責任者が最高権力者になる。室長補佐官は、監査官と討伐師の仲介要員だ。

「……わかった。あと一週間。その間に連絡がなければ、討伐師も動かしてリーヌスを探そう。あの宗教団体は、どうにもきな臭いからな。できればこの辺で何とかしておきたい」

「私も同意です。イデオン、それでいいわね?」

「……わかりました」

 ポールとエイラの有無を言わせぬ口調に、イデオンは仕方なく引き下がる。一週間。そんなに悠長に待っていられない。その間に、リーヌスに何かあったらどうするのだ。



「突然呼び出したかと思えば、何言いだすんだ、お前は」



 この暴言。言わずもがな、スティナである。こんなことを言っているが、呼び出したら来てくれるあたりスティナだなぁと思う。こういうところが可愛いのだ。ただし、今回はスイーツに釣られた可能性も高い。二人は、フェルダーレン中央駅近くのホテルで行われているスイーツ・バイキングに来ていた。もちろん、代金はイデオン持ちだ。

 大学の講義を終えたスティナを呼び出し、ホテルで合流し、バイキング会場に入ってからまだ十五分。スティナはすでに五つのケーキやタルトを平らげている。風邪を引いていたときに『食欲がない』と言っていたのが嘘のようだ。しかし、これでこそスティナ。しかし、制限時間九十分の中で彼女はいくつのスイーツを平らげる気なのだろう。


「あのなぁ。室長もエイラも、お前より経験があるんだよ。リーヌスだってそうだ。心配な気持ちがわからないわけじゃないが、私は二人に従うべきだと思う。単純に、リーヌスが連絡を入れていないだけの可能性も高い」

「でも、捕まっている可能性と半々くらいじゃないかな」


 チーズスフレをつつきながら、イデオンが言った。スティナはフルーツタルトにフォークを入れながら言う。

「捕まってたとして、どうするつもりだ」

「どう……って」

「聞いた感じ、その宗教は聖女ルシアを崇拝していて、奇跡を起こす力をその聖女の贈り物だとしてあがめてんだろ。形はちょっと違うが、リーヌスだって力を持っている。むしろ、手厚くもてなされている可能性が高いと思うね、私は」

「……」


 正論だった。彼女はタルトをほおばって呑み込み、紅茶をすする。


「まあ、ぼさっとしてたら、リーヌスが危ねぇってのは私も同意だ。討伐師が動いたら、リーヌスが捕まっている場合、余計にあいつの身が危険にさらされる。やるなら少人数で一気に叩いた方がいい」

「……スティナちゃん、強引だね」

「お前も同じくらい強引だろ。私を巻き込もうってんだからな、こうなるのは想定できたはずだ」

 スティナは頭は悪くないのに、力押しで行くような人だ。しかし、言っていることにも一理ある。大人数で動けば、相手に悟られ、逃げられる可能性もあるのだ。

「だいたい、やつがどこにいるのかもわからないのに、どうしろってんだ」

「……いや、でも、潜入先がわかってるんだから」

「じゃあ、個人的に入信でもしな」

「! それだ!」

 思わずスティナを指さすと、彼女は邪険にその手を払った。いや、これはイデオンが悪い。


「なるほど。個人の趣味なら、誰も文句は言えないよね」

「私は、お前にそんな器用なことができるとは思えん」


 自分で言ったくせに、スティナはそんなことを言う。つまりは心配してくれているのだと思う。

「……とりあえず、エイラたちが言うように一週間待ってみればどうだ」

 どうやら、スティナも協力してくれないようだった。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


スティナは食べ物でつれる(笑)

なにげに仲良くなってるこの二人。個人的に、この二人の組み合わせは恐い。ツッコミを投入したい。


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