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ルシアの祈り【2】

前半、ちょっとあれな会話をしています。









「お前が熱で倒れるとか。何の天変地異の前触れかと思ったわ」

「うるさい……」


 スティナの脈を見ながら往診の医者……討伐師でもあるオルヴァー・ダヴィッドソンが言った。イデオンにとっては討伐師のイメージしかなかったので、彼が監査室付きの医者であると知って驚いた。


「ただの風邪だな。熱は高いけど、まあ、お前の体力ならすぐに回復するだろ。薬出してやるから、飲めよ」


 結構投げやりな診察結果だ。でも確かに、スティナの体力ならすぐに回復しそうな気もして否定できない。

「あと、食欲なくても食え。薬は何か食った後に飲めよ。それと、何度も言ってる気がするが、体調悪いならすぐに言え。何なら本部にある俺の診療室に来てもいいから」

「……あの腐海にか……」

 スティナの言葉に、オルヴァーは「ははは」と笑った。

「すまん。今のなし」

「そうしてくれ」

「診察室が腐海なんですか」

 イデオンが興味を持って尋ねると、オルヴァーは「資料が散乱してるんだよ」と教えてくれた。それは片づけられない、という意味だろうか。


「ところでスティナ。注射打つ前に、血ぃ抜いてもいいか」

「は?」


 スティナとイデオンの声がかぶった。どういう意味だ。いや、意味は分かるが、血を抜いてどうするのだ。オルヴァーはにやりと笑い、その青い瞳に少し狂気をにじませて、言った。


「もちろん、炎症反応を調べるんだ」

「黙れこのマッドサイエンティスト。何のサンプルに使う気だ」

「サンプル!?」


 怒気をにじませたスティナの言葉に、イデオンが素っ頓狂な声を上げる。オルヴァーは「ははは」と乾いた笑い声をあげた。

「エクエスの力がどこから来ているか、気になるだろ。ついでに回復したらヴァルプルギスの素体もほしいな」

「ふざけんな。ぶん殴るぞ」

「女の子がそんなこと言わないの」

 バシッと熱のあるスティナに、オルヴァーはデコピンを食らわせた。スティナはそのまま枕になつく。

「……もういい。好きにしろ。でも、貧血気味だからあまり抜くな」

「お、さすがはスティナ。もしかしてアレな日だった?」

「違ぇよ……。最近負傷続きで単純に血を流しすぎたんだよ……」

「お前が? どこか調子でも悪いのか?」

「今熱がある」

「いや、そう言うことじゃなくてだな」

 なんだろう。スティナの切り返しが秀逸すぎる。彼女、本当に熱があるのか? それとも、素なのか。だとしたら、確実に天然が入っている。


 とりあえず、オルヴァーは本当に血を抜いていった。その後に注射をして、さらに飲み薬も出していった。


「オルヴァーさんは医者だったんですね。知らなかった」


 何度かヴァルプルギスの討伐に同行したことがあるが、オルヴァーは長剣を使う腕のいい討伐師だった。彼も、スティナと同じくらい容赦がなく、強い。

「まあな。基本的に往診に出かけてるし、知らなくても無理はないな」

 つまり、診察室があるのに本部にいないということだ。そう言えば、診察室は『腐海』だと、スティナは言っていたか。


 マッドサイエンティストとも言っていた。オルヴァーに対する認識が変わってきそうで怖い。


「そういや、お前、いつまでここにいるんだ? 俺はリーヌスに呼ばれてきたはずだが、やつはどうした」

「呼び出されて本部に戻りましたけど」


 そう言えば、確かにイデオンはいつまでここにいていいのだろう。さすがに、泊まり込むのはいかがかと思うし、ちなみに、冬なので外はもう暗い。

「……まあ、そろそろ出ないととは思いますが、僕が帰った後に行き倒れてたら嫌だなぁと」

「家の中で行き倒れてるっていうのも不思議な話だが、スティナに関してはありえない話じゃないな」

「信用ないですね……」

「戦闘力に関しては信頼してるんだけどな。あいつ、生活力と言うか、女子として何かが間違ってるからな」

 オルヴァーはそう言ってまた笑う。スティナの女子力が低いのは今更だろう。顔立ちは可愛らしいのに、中身は非常に残念だ。

「じゃあ、俺は次の患者が待ってるから、もう行くな。なんかあったら呼んでくれ」

「わかりました。ありがとうございました」

 オルヴァーを見送ったイデオンは、とりあえずスティナの様子を見に戻る。注射を打たれたからだろうか。少し寝息が安定している気がした。オルヴァーも言っていたが、スティナの体力ならすぐに回復するだろう。イデオンはほっとして微笑む。


 時計を見ると、すでに午後五時を示している。外も暗くなるはずだ。イデオンがリーヌスに連絡を取ろうと携帯端末を取り出すと、タイミングよく着信音が鳴った。しかも、相手はリーヌスだ。

「はい、イデオンです」

『おう。まだスティナのとこか?』

「この状態のスティナちゃんを置いて言っていいものか迷っていたところです」

 部屋自体はオートロックなので、扉を閉めれば鍵は勝手に閉まる。だから、それに関しては問題ないのだが、問題は中の住人だ。


『だがまあ、お前がそこに泊まるのはいろいろと問題あるだろ。どうせ俺が上階に住んでるから、帰ってもいいぞ』


 たぶん、リーヌスがスティナの様子を見に来るのだろう。それなら、大丈夫そうだ。

「スティナちゃん、一応だいぶ熱は下がってます。あと、オルヴァーさんが薬を出してくれたので、ベッドサイドに置いてあります」

『了解。押し付けて悪いな』

「それは大丈夫です……。あ、一度本部に戻った方がいいですか?」

『いや、そのまま帰って大丈夫だ。明日の朝、出てこい』

「了解です」

 それから二、三事務連絡をして、イデオンは電話を切った。覗き込むと、スティナはまだ寝ていた。必要事項を書いた紙をサイドテーブルに置き、一応声をかける。


「スティナちゃん、帰るね。あとでリーヌスさんが来てくれるから」


 もちろん、返事はない。まあ、子供ではないし、大丈夫だろうと結論づけてイデオンはスティナの部屋を後にすることにした。
















 二日も経てば、スティナは回復した。昨日の時点でだいぶ回復していたようだが、大事を取ってもう一日寝ていたようだ。それにしても、さすがの回復力である。


「血液の炎症反応を調べてみたけど、やっぱりただの風邪だったな。エクエスの力が強くても、普通の風邪にはかかるわけだ」

「その結論は結構前に出ているはずだが」


 スティナが白い目を向けながらツッコミを入れた。本部執務室で、いわゆる『検査結果』を報告しているのはオルヴァーである。いや、まあ、血液の提供主であるスティナに報告するのは間違っていないとは思うが、それ以前にいろいろおかしい。


「ヴァルプルギス討伐の力があるだけで、討伐師も肉体のあらゆる数値的には普通の人間と同じ、と言っていたのはオルヴァーだろ」

「お、スティナ、ちゃんと覚えてくれてるんだな。その通りだ。だが、だとしたらそのエクエスの力はどこから放出されているのだと思う!?」

「……」


 黙り込むスティナに対し、オルヴァーはあれこれと話しかけている。イデオンは思わずリーヌスを見た。

「オルヴァーさんって、変な人ですね」

 すると、リーヌスはオルヴァーと目が合わないように気を付けながら、彼をちらっと見た。

「あれを『変な人』で片づけられるお前に吃驚している。でもまあ、討伐師の出現条件とかがわかれば、該当者を見つけやすくはなるんだが」

「確かにそうですね」

 現在、討伐師となりうる力を持った人間を見つけるには、噂話などを中心に広く情報を集めることが主流だ。なので、とても効率が悪い。例えば、リーヌスの家族は彼も含め血縁者ほぼ全員が多少なりとエクエスの力を持っているらしいが、スティナのように完全に突然変異と考えられるものもいる。スティナは、彼女の持つ力が強すぎて発見されたのだそうだ。


「そのうち遺伝子とか調べだすかもな……まあ、一応、倫理観からは外れてないし、監査室にとっても有益だから今の所放置してるけど、普通、弱ってる同僚から血を抜くかね……」


 ああ、やっぱりリーヌスもそこが引っかかるのか。最終的に本人であるスティナが許可を出したとはいえ、貧血気味の熱のある女性から採決するなど、鬼畜の所業だ。

 そして、そのスティナはあれこれオルヴァーに質問されながら死んだ目になっている。彼女は風邪を引いて倒れている間に面倒を見てくれた礼を言いに、わざわざ来てくれたのだ。そして、オルヴァーに捕まった。誰も助けない。イデオンも助けに行けない。


 とりあえず、スティナには一言こう言ってあるらしい。


 解剖される前に、れ。


 とても、仲間同士でかける言葉とは思えない。
















 そんな、スティナがぶっ倒れるという事件から二週間ほどたったある日、スティナは再び事件に巻き込まれた。今度は本当に巻き込まれた系だ。タイミングが悪いのは確かだが、彼女が悪いわけではない。

 たまたま出かけていた銀行で、スティナが銀行強盗に遭遇した。そんな情報が監査室に入ってきたのは、一月も下旬、まだ冬の太陽が大地を照らしている昼下がりのことだった。









ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


個人的に、スティナは引きが強いと思っています。


3月の投稿も今日が最後! 次は4月にお前にかかりましょう!

新生活を始める方も多いと思います。みなさん、体調にお気をつけて!


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