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「しかしチャーリー博士、ぼくは不思議です」
「世の中からダメ人間は消えました
それなのに...なぜまた戦争が始まったのですか?」
『それじゃよ、ダメが消えたからじゃ』
「ダメが消えたことが?それが原因なのですか!?」
『デュラム君、我々は思い違いをしていたのじゃ』
『世の中からダメを排除したことにより
人類という種自体の余裕を奪ってしまったのじゃ』
「...余裕」
『こんな話を知っているかね?』
『蟻は働きアリの中に2割ほど働かずに遊んでいる蟻がいる
面白いことにその2割の蟻を取り除いても新たな集団の中から
また2割の蟻が働かなくなる』
「はい、聞いたことがあります有名な話ですね」
「その方が集団としての労働力が長く持続するのだとか」
『つまりワザとダメな蟻を生み出しているともいえるわけだ』
「・・・」
『納得がいかないかね...』
『ではデュラム君、生物の進化についてどう思うかね?』
「どうって...生命は海から生まれて、我々の祖先は海から陸に上がりました」
『そして哺乳類として進化したわけじゃな』
「はい!そして知性を備え地球上でもっとも最高の生物となったわけですよね」
『最高の生物、果たしてそうじゃろうか?』
「え?進化を経たからこそ人類はここまで繁栄したのではありませんか!」
『では、なぜ海から陸に揚がる必要があったのかね?』
「それはリスクを恐れず、勇ましくフロンティアに出て種を繁栄させようとした行動の結果です」
「そんな勇敢で優秀な遺伝子の最高傑作が我々人間...!」
『ちがうな、まさに現状が全てをモノ語っているんじゃがな、よく考えれば解かりそうなことじゃ』
「ち、違うんですか!?」
『なぜ陸に揚がる必要があったのか...それはな』
「ゴクリ」
『それは海で生存競争に負け、居場所を追われたダメ種族だったからじゃ』
...え?
「そ、そんなバカな...でも哺乳類として陸で進化して...」
『なぜネズミ程度の大きさでしかなかった哺乳類が生き残ることができたのか...』
『それは恐竜に怯え、地面に逃げ隠れたおかげで隕石衝突を奇跡的に回避できたダメ種族だったからじゃ!』
...ええ??
「い、いやそんな...いえ!仮にそうだったとしても人間に知性が芽生えたのは優秀な遺伝子があったからこそ!!」
『なぜ人間が知性を持ったのか、それは道具を使うためじゃな』
「そ、そうですよ!そうですとも、道具を使うんだからダメなんかじゃ...」
『い~や、ダメダメじゃ!!』
ガーーーン!!
『実際は道具無しでは他の肉食動物と比べて余りにも貧弱な生物だったからじゃ...』
『喰われそうになって近くにある物をぶん回したら偶然相手が死んだ、火サスな展開だったわけじゃ!』
火サス...
『つまり我々人類とは太古からのダメな遺伝子を受け継ぐもの、ダメのエリート』
『ダメにダメを重ねた『ダメのトリプルスリー』なのじゃ』
「と、トリプルスリー...聞き慣れない言葉ですね?」
『うむ...昔の文献によると流行語だったらしいがな、詳しくはわからん』
『とにかくじゃ!すごいダメ生物がガンツ以上の奇跡的な確率で生き残ったのが我々人類なのじゃ
逆に言ってしまえば!!』
「言ってしまえば!?」
『ダメだからこそ生き残れた....』
「......」
警報音<ビービービー>
『どうした!?』
「き、北朝鮮が我が国に水爆を発射しました」
「それに呼応するかのように、中国、ロシアからも...
報復のためにアメリカ、日本、EUも同じく水爆を打ち返しました!
あとアフリカはレゲエを、南アメリカはサンバを踊っています!」
『お...終わりじゃ、人類の終わり、そして原因はこのわしじゃ』
『わしはワンダフルなんかでは決してない...メフィストチャーリーだったわけじゃな』
「はかせ...あと2分です、あと2分で世界が終わります」
『わしにできることは多くは無い、この研究成果を地中深くに埋めるのじゃ...そして人類がもし生き残ることが出来たなら、その時のためにロゼッタストーンとして教訓を刻み残しておこう』
『決して人類が同じ過ちを繰り返さぬように、決して人類からダメ人間を無くさぬように...』
「博士と一緒に研究できて僕は幸せでした、ありがとうございました...」
『デュラム君わしもじゃ、ありがとう.....』