排除されたボクらの、疾走。
此処は理想の世界だと、アイツラが言う。犯罪の因子を排除し、選ばれた質のよい人間が安心して生きられる世界だと。
ボクらは『生存可能エリア』から駆逐された。セーフティレベル0という、最悪の危険因子として。
正しい世界は、異端を見捨てた。ボクらは唯一の望みの為に反逆を始める。
冷たい風の吹き荒ぶこの草原から。
ミオウは鈍器のような大岩に腰掛け、立てた右膝に腕を乗せていた。青味の黒髪がなびき、額を夕暮れの風にさらす。襟ぐりが開いて肩が少し出るので、冷えてくると麻布をマフラー代わりに巻いている。
視界全てをくまなく監視していた彼の眼が、一瞬止まって左を向いた。
「…背後に音もなく来んな。ていうかさぁ、見張り変わって、ラン」
「ふふふふー、変わるつもりはないんだよねー」
ミオウの後ろでヘラヘラ笑う少女は、白いブルゾンの裾を引っ張っていた。だるそうに首を回して足元をじっと見る。鳶色の直毛が顔に影を作るので、表情は読めない。
「テイキホウコク。してあげにきたんだけど?」
「…早く言って。んで、とっとと戻って」
「シオンがまた『中』に行ってたってさー。無謀ってか、バカかなぁ?」
「どっちもでしょ。悪運だけ強いガキだけどね」
ランは俯いたままクツクツと笑って、そのまま暗い森のある方角へ歩いていった。足音はない。
「ミオー、時間には来てよ。一応リーダーなんだからさ?」
だいぶ遠くから聞こえてきた声に、ミオウは溜め息をついた。
「リーダー、ね…」
立ち上がって見上げた空は赤黒く、此処が『生存不可能エリア』だと思い知らされる。此処で生き残っている人間などごくわずかだ。ほぼ全員が何らかの特殊技能を持っている。
その中に 『スクラップ』と呼ばれる集団に属す、9人の異端がいる。彼らの望みはただ一つ、生きることのみ。そして、若干19歳のミオウが『スクラップ』のリーダーなのだ。
「熟してないにも、程があるんだけどな」
つぶやいた彼の声は荒れる風にかき消された。