武器調達
部屋から出た直後は薄暗く感じた通路だが徐々に目が慣れてきたからかそこまで気にならなくなってきた。
それでもあまり遠くの方まで見通せる訳ではないので周囲の異変を見逃さぬよう注意し、出来るだけ足音を立てないように意識しながら通路を進んでいく。
そうして進んでいるとすぐに二つに分かれた分岐路に出た。
正面と右に分かれていたのでそのまま正面の通路に進む。
正面の通路を10分程歩くとT字路に出たので今度は左に進むことにした。
すると100メートルも歩かない内に曲がり角に出た。
右に直角に折れ曲がる通路の先を角から顔だけ出して確認すると30メートルぐらい先が前と左に分かれた分岐路になっていて、その分岐点に先程見た化け物、ゴブリンの姿があった。
「………ッ!!」
とっさに顔を引っ込めると口を噛み締め、洩れそうになった悲鳴を堪えた。
奴らの姿を見ただけでドクンドクンと心臓が大きく跳ねているのが分かる。
俺は胸に手を当てて目を閉じると何回か大きく深呼吸を繰り返した。
落ち着け……俺が見たのはゴブリンの後姿だった。
相手はまだ俺の存在には気づいていない。
だから慌てず冷静になって対処するんだ。
俺は心身が落ち着くのを待つともう一度角から顔を出し通路の先を覗いてみた。
視線の先でゴブリンはこちらに背を向け佇んでいた。
こちらを向いてないので気づかれることは無いだろう、とそのゴブリンの姿をじっくりと観察する。
前に見たゴブリンと同じ緑色の肌に子供のように小さな体躯、腰には粗末な襤褸布を巻いている。
「あいつ、武器持ってやがるな」
ゴブリンは短剣を杖のように切っ先を地面に着いて携えていた。
見た感じだとそこまで上等な剣には見えないが武器は武器、立派な脅威だ。
相手は一体だけなので不意をついて襲い掛かれないかと考えたが相手との距離を詰めてる内に気づかれるだろうから止めておいた。
俺は通路を引き返すとT字路に戻り、今度は反対方向の通路へと進む。
こっちの通路は直線だが左右に交互に分岐路がいくつもあって分岐路に着く度、角から覗いて敵がいないかを確認しながら進んでいった。
確認した分岐路の先は行き止まりばかりで敵の姿は無かった。
慎重に通路を進んで突き当たりの曲がり角に着いた。
10程の分岐路があったがどの通路も行き止まりで敵の姿が無かった事にちょっと拍子抜けした気分だった。
とはいえこの曲がり角の先に敵がいないとは限らない。
俺はゆっくりと通路の奥を覗き込み、そして笑みを浮かべた。
「ようやく見つけた」
通路の先は行き止まりになっていたがそこには俺が望んだ宝箱が置かれていた。
今度は何が入っているんだろ。
まるでプレゼントを初めて貰った幼児のようにわくわくした気分が止まらない。
俺は期待を胸に宝箱に手をかけた。
「おお!! こ、これは!?」
中に入っていたのは1メートル程の長さの金属棒で両端は平べったくなっており、片端が90度湾曲して先端部にV字の切れ目が入っている。
はい、どう見てもバールですね。
武器といえるかは微妙だが長さがあって金属製なのでそこそこ重量もあるので鈍器としては中々に優秀といえるのではなかろうか。
少なくともスタンガンよりは使える筈。
とりあえずこれでメイン武器をゲットだぜ!!
俺はバールを掲げてガッツポーズを決めた。
武器を手に入れた俺は再び短剣を持ったゴブリンが居た通路へと戻った。
武器さえあればゴブリンとも闘える。
バールを何度か素振りしてみたが手にしっくりと馴染む。
中々悪くない。
角からゴブリンの様子を覗いてみると横手の通路の方を向いてなにやらギーギー鳴いている。
なんかさっきとは様子が異なるのでしばらく観察していると横手の通路から新手のゴブリンが姿を現した。
そのゴブリンも短剣を握っている。
どうやら徘徊していたと思われる別のゴブリンが合流したようだ。
え、マジで? 敵が増えるとかずるくない?
さっきまでの高揚感がシュルシュルと縮んでいくのを感じる。
やっぱり止めようかな………もっといい武器を調達してきたほうがいいかもしれない。
俺の中の弱気な部分が出てきて俺にそう囁く。
そうだよね。 工具じゃなくてちゃんとした武器を調達したほうがいいに決まってる。
いや、大丈夫だ。 武器の力を信じろ。 雑魚キャラ相手にビビんじゃねえ!!
俺の中の強気な部分がそう吼えた。
そうだ。 武器を持ってるとはいえ相手は自分よりも小さく貧弱そうなゴブリン。 必要以上に怯えてたらこれより強い奴とであった時どうしようもなくなるではないか。 慎重と弱気は違うのだ。
俺は覚悟を決めた。
バールの柄を握り締めると相手の様子を伺い、飛び出すべき機に備えた。
通路の幅は3メートル程度ある。
一人で武器を振り回して闘うなら問題ないだろうが複数で武器を振るうなら狭いといえる。
広場と違い数の利を活かしやすい場とはいえないので特別俺が不利になるということは無い筈だ。
ゴブリン共はギーギー鳴いて話し込んでいるように見える。
その様子を伺っているとゴブリン共の視線が後方へと向いた。
今だ!!
俺は角から飛び出すとバールを手に一気に駆け出した。