スマホといったら……
行き止まりから十字路に戻った俺は右手を壁から離さないように通路を右に曲がった。
こっちの通路はグネグネとS字状の軽いカーブが続く波状路で一本道なのに先があまり見えない。
その為俺は壁に張り付くようにして警戒しながら先を進んだ。
………
……
…
十字路からどれぐらい進んだのだろうか……何度も何度もカーブを曲がっても変わらず続く通路に段々嫌気がさしてきた。
始めはゆっくりと警戒しながら歩いていた筈なのに気が付けば警戒はおざなりになって早足で歩いていた。
高速道路のような変わらない風景がずっと続いている環境だと注意力が散漫になるというけど今の俺の状態が正にそれだった。
しっかりしないと、とは思うのだがそれが長く続かない。
理由は分かっている。
危機感が薄れてきているせいだ。
当初はいきなりの事で緊張状態にあったのが周囲に自分の身の安全を脅かす存在がない事でそれが解けてきたのだ。
そんな自分に苛立ちを感じ、くそったれ……と胸の中で毒づきながら歩いているとようやく通路の終わりが見えた。
ようやくか……と安堵の息を吐くと急いで通路の出口へと向かい、そして大きな失望に襲われる羽目になる。
波状路の先にあったのは10畳程の広場、そしてその先には3つの通路口があったのだ。
「まだ続くのかよ……」
俺は思わず壁を背に座り込んでしまった。
あー、やってらんねえ。
この時点で部屋から出てもう二時間以上経っていた。
まさかこんなに歩く羽目になるとは思っておらず、自分の考えが如何に甘かったのかを思い知らされる。
周囲を警戒しながら歩いていたため疲労が激しい。
徒労感も感じて気が付けばはあ~っと大きな溜め息を吐き出していた。
この迷路には窓が無いため閉塞感からか身体的疲労だけじゃなく精神的疲労も激しい。
長期戦を考えるならもっと頻繁に休憩を取ったほうがいいかもしれない。
それにしてもここは一体何なんだろう。
何らかの建造物である事は間違いないとは思うのだがそれにしてはあるのは迷路状の通路ばかり。
それに歩いていてかなり広大な敷地面積があることがわかった。
ドーム何個分の広さといわれても不思議じゃない。
そんな建造物があるなら知名度はあるだろうし一度は耳にしてもおかしくない筈なのに今までそんな場所があるなんて聞いた事もない。
ヒントになりそうな物といえば………
「そういや、まだちゃんと調べてなかったな」
俺はポケットからスマホを取り出した。
起動させると画面にウェジットが表示される。
そのウェジットの下にはこのスマホ唯一のアプリ、『ダンジョン・ストア』のアイコンがあった。
アプリのダウンロードサイトに繋がる『ダンジョン・ストア』を使えば何か現状打破できるようなアプリが落とせるかもしれない。
「とりあえず何かアプリでも落としてみるか」
俺は画面をスワイプさせると『ダンジョン・ストア』のアプリを起動させた。
可愛く描かれた自販機のイラストのアイコンをタッチすると画面が切り替わりアプリのダウンロードサイトが開く。
お勧めのアプリが大きく表示され、その下にジャンルごとにアプリのアイコンが並んでいる。
「今必要なのは………地図、かな」
今の時代、スマホは様々な用途に使われているがその中でも最も役立ってるのは地図系のアプリだと俺は思ってる。
GPSが標準装備されているスマホのマップがあれば見知らぬ土地でも道に迷う事はないし、現在地の周囲にどんな所があるのかも検索して知る事ができる。
此処が一体何処なのか分からない今、現在地を知る事ができる地図系のアプリは落としておいたほうがいいだろう。
一番上に検索欄があったので『マップ』と入力して検索ボタンを押した。
画面中央に砂時計マークが現れる事しばし、検索に引っ掛かったアプリが立て並びで表示されるが何故かその殆どのアプリのアイコンが真っ黒なっており、名前も■■■と読めなくなっていた。
「なんだこりゃ? いったいどうなってんだ?」
黒くなってるアプリをタッチすると小さなウインドウが現れ、そこには『レベル制限のため取得できません』と書かれていた。
「レベル………っていうと、もしかしてウェジットにあったアレか!」
時刻の下に『Lv1』とあったのを思い出す。
「スマホにレベルっていうのは意味不明なんだけど………まあ、取れるやつを取ってみるか」
俺は一番上に表示されている『ノーマルマップ』のアイコンにタッチした。
確認のメッセージが表示されるので『Yes』を押す。
するとチャリーンと音が鳴り、アプリがダウンロードされ画面の上端にインストールゲージが出てきて端っこから赤い色で埋まっていく。
ゲージが完全に埋まるとメイン画面にノーマルマップのアイコンが現れた。
それを見ると俺はすぐにノーマルマップを起動させた。
画面に表示されるマップ、しかしそれは俺が思っていたものとは違った。
「今通ってきた所しか表示されてねえな。 マッピングが必要とか益々ゲームじみてきてやがる」
格子状に区切られた画面の中央には赤い点があり、それが恐らく現在地なんだろう。
紅い点からスライドさせていくと最初に居た部屋から此処に至るまでの道のりが表示されていた。
通ってきた道は黄色く表示され、それ以外は黒く塗りつぶされている。
現在地が分からなかったとしてもこの場所の広さの規模が知る事ができるかもしれないと踏んだのだがそううまくはいかないようだ。
「流石にそこまでサービスはしてくれねえか」
その後再びダンジョン・ストアの検索で語句を変えて検索してみたがノーマルマップ以外の地図はレベル制限とやらに引っ掛かって結局地図系アプリで現状打破は出来そうになかった。