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ダンジョンにおけるコミュ力の重要さ

 



 「ちょ、ちょっと待って!! 別に俺は怪しい者じゃない!!」



 俺は誤解を解くべく弓を構える少女に向かって叫んだ。


 彼女の俺を見る目は警戒に染まり、酷く怯えているように見える。


 まあ、それも少し考えれば当然のことだと思う。


 眼が覚めればいきなり見知らぬ場所に一人っきり、しかも居たのが怪しげな閉鎖空間でそんな状況で見知らぬ男が現れたとなれば誰だって怯え、警戒するに決まってる。


 それでも魔物だらけのこの迷宮で魔物じゃなくいきなり人から襲われるのは想定外だが、やましい事はないし冷静になって話し合えば誤解も解けるはずだ。



 「頼むから弓を構えるのは辞めてくれないか? 俺は君に危害を加える気は無い。 まずは落ち着いて話をしないか」



 俺は少女を刺激しないように話しかけるが少女の眼から警戒の色が消えない。


 シン……と室内は静まり返り、嫌な緊張感が場を満たす中、少女がおずおずと口を開いた。



 「怪しい者じゃないって………危害を加える気が無いって………それじゃあ、それじゃあ手に持ってるそれは何だって言うんですかっ!?」



 少女の言葉に自分の手の方を見やるとそこには立派なバール様が握られておりました。


 しかもバールは微妙に曲がっており、何かに利用した痕跡が見受けられるというおまけ付き。


 俺の頬にたらりと一筋の汗が流れる。



 「それにその姿………一体、何をしてたんですか?」



 当初、動きやすいように制服の襟や袖口を緩めたラフな格好をしていたが、今の俺の姿は数々の戦闘を行ったせいで服は飛散したゴブリンの体液に汚れたり(死体は灰になるのに飛散した血肉は何故か消えなかった)、奴らの攻撃が掠った際に破けたりボタンが跳んだりして結構ボロボロになっていた。



 さて、想像してみよう。


 自分がいる部屋にいきなりバールを持ち、薄汚れた格好をした男が入ってきたとしたら………



 あ、駄目だこれ完全に不審者確定だわ。



 「ち、違うんだ!! これはゴブリンと闘ってきたから!!」


 「……ッ。 ………人を馬鹿にしてるんですか。 そんなのいる訳無いじゃないですか!!」



 あかーん、少女の眼が頭のおかしい人を見る目に変わってる!



 どうやら彼女はまだゴブリンと遭遇してないようだ。


 それじゃあどうやっても俺の言葉を信じてもらうことは出来なさそう。


 いやー………マジ、どうしよ。
























 結論、逃げました。


 だって、彼女超アグレッシブだし。


 俺が弁解の言葉を言う前に放たれた第二射は俺が屈んでなかったら確実に当たってたし。


 飛び道具って卑怯だよね。


 漫画とかだと飛んできた矢を打ち払ったりしたりするけど現実じゃあんな早い物打ち払ったりなんか出来ないし。


 宝箱を逃したのは惜しかったけど多分彼女が使ってた弓矢、あれが中身だったんだと思う。


 あの時は気が付かなかったけど、後になってよくよく思い出してみると宝箱の蓋が開いてたから恐らく間違いないだろう。


 そう考えると弓術の心得が無い俺じゃあ持っていても使えなさそうな弓矢は逃したとしてもそこまで惜しくは無い。


 ………いや、ほんとだよ。


 根に持ってなんか………ちょこっとしか持ってないよ。



 それはさておき、これからどうしようか。


 彼女も俺と同じここに拉致られて来た被害者だと思うし、このまま放っておくような真似はしたくない。


 彼女弓矢で武装しているがあれじゃあいきなり魔物に遭遇した時に対処できない。


 まだ魔物に遭遇してないならなお更だ。


 初めて魔物と遭遇した時の衝撃は相当な物だ。


 その状態で冷静に魔物に対処できるとはとても思えない。


 追い払われた俺が言うのもなんだが、一緒に行動しないにしてもせめて自衛できるようにしてやりたいと思う。


 だけど近づくと撃たれるしなー。


 影から見守りピンチになったら颯爽と登場!!……って完全にストーカーだわな、これ。


 うーむ………………とりあえず部屋には入らずに声掛けてみるとしようかな。


 まさかコミュニケーションを取る事にこんなにも苦労するとは思わなかったよ。







 そんな訳でやってきました、お宝ルーム。


 話、聞いてくれるといいんだけど。



 「もしもーし、さっき部屋に来た者なんだけど、ちょっと今いいか?」



 部屋には入らず入り口の横から弓矢をぶっ放してきた少女(仮称、弓子)に向けて大きめの声量で声をかけてみた。


 しかし待てど待てども返事は無い。


 まあ、これぐらいは想定の範囲内だ。


 勝手に喋らせて貰うとしよう。



 「俺の名前は日下部伊織、極普通の高校生だ。 家で寝てた筈が目覚めればこんな所に居た。 今はここの探索をしながら脱出方法を探っている所だ」



 一旦言葉を切ると弓子の反応を探ってみる。


 うむ、見事なまでの無反応です。


 だけど俺、挫けない。



 「ここに来るまでに一度他の人に出会って話をしたら俺と同じように気が付けばここに居たと言っていたんだ。 君もきっと同じなんじゃないかな?」



 弓子からの返事を待つ。


 はい/いいえのどっちか一言だけでいいんだよ。


 返事、欲しいな~。


 だけど返事は無い。


 ………まだだ、まだ慌てるような時間じゃない。



 「俺たちは同じ境遇の被害者なんだ。 だから被害者同士、協力し合えると思う。 君はまだ知らないかも知れないけどここは危険な場所なんだ。 こんな場所から一刻も早く脱出する為にも君の力を貸してくれないか?」






 ………音が、聞こえる。


 ドクン……ドクン……と自分の鼓動の音が……。


 静か過ぎるとそんな音まで聞こえるんだね。


 ………はい、そうですよ、一切返事無し!!




 ………泣いても、いいかな?



 いい加減この静寂は精神的にきつい。


 コミュ力が平々凡々以下の俺には返事待ちの間のこの静けさは耐えられそうに無い。


 無視されるって……結構、きついんだよ。



 「あの~……お願いだから、ちょっとでいいからお話したいな~、なんて………えっ?」



 媚びるように話しかけながら部屋の入り口から顔を覗かせ室内を覗き込んでみた。


 見えるのは蓋の開いた宝箱、ただそれだけでそこに弓子の姿は無かった。



 「………………………あるぇ?」



 静寂に満たされた部屋の中、俺の声が空しく響いた。





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