見知らぬ部屋
ダンジョンモノが書きたくなって執筆しました。
ピピピピピピ………
「ぅ~……うるさい」
耳元で鳴り響く無機質な電子音に無理やり意識を覚醒させられ、俺は眠りから寝覚めた。
まどろみから覚めず半目になって近くに置かれたスマホに手を伸ばし、アラームを切ると大きな欠伸を浮かべつつ体を起こす。
そして俺は自らに起きている異常に気が付いた。
「……ここ、何処だ?」
自分が寝ていた寝心地最高の高級ベットが薄いマットレズのパイプベットにバージョンダウンしていた。
惰眠を貪る事が生き甲斐の僕にとってこれは由々しき事態である。
だが、それ以上に気になる事が一つ。
いつから俺の自室はゲームで出てきそうな石版状の壁で覆われた部屋にかわったのだろうか。
壁に掛けられた松明の炎が揺らめきながら室内を照らしており、時折バチッと音を立てて炎が弾けている。
………もしかして夢遊病の如く寝ながらにして部屋の模様替えをしちゃったとか。
何それ便利だけど怖い。
…………………まあ、現実逃避は止めるとしよう。
ほっぺ抓ったら痛かったので夢じゃなさそうだし。
とりあえず深呼吸をして心を落ち着かせると情報整理をしてみることにした。
まず、俺の名前は日下部伊織。
青春真っ盛りな高校二年生の男の子。
昨夜は新調したばかりの最高級羽毛枕で眠りについたはずである。
勿論自室で。
何かあったとしたらその後……就寝中に起きたのだろう。
可能性として考えられるのは誘拐……だけど一般庶民の俺を誘拐する意味が分からない。
両親は幼い頃に死別し、親戚の脛をかじって生活している身なので身代金など要求した所で支払われないのは目に見えてる。
誘拐の線はなさそうだとすると………う~む、分からん。
手がかりとなる情報が足りない。
室内を見渡すがベット以外何も無い。
自分の所持品を調べようとして、そこでようやく自分がスマホを持っていることに思いだした。
結構パニクっていたらしいね、俺。
最初からスマホで助けを呼ぶなり何なりすればよかったのに気が付かないとか。
早速ベットの上に置かれたスマホを手に取り、そして気が付いた。
「俺のスマホじゃないじゃん、これ」
黒のメタリックカラーのそれは使い慣れたアクフォース・フォンではなく林檎がトレードマークのスマホに似ている。
訝しげに思いながらも電源を入れると画面が灯り、文体を崩したアルファベットで『DF』と書かれたロゴマークが表示された。
『DF』?……一体何の略称なんだろうか?
疑問に思っていると表示されているロゴマークが待ち受け画面に切り替わった。
日付と現在時刻、その下に【Lv1】【50DP】と表示するウェジットが映し出された。
「【Lv1】? DPってなんだよ。 それに入ってるアプリ少ないな。 てか、『電話』とか『メール』のアイコンがないってなんだよ」
画面上で指を滑らせスワイプすると普通のスマホと同じように操作できたがどうやっても電話機能を使う事ができなかった。
スマホをいじる事しばし、その結果唯一使えそうなアプリのアイコンは一つしかなかった。
「『ダンジョンストア』?」
アイコンをタッチするとアプリのダウンロードサイトに移動した。
軽く見てみるとマップとかメモとかスマホを便利に活用するためのツールアプリが並んでいる。
電話機能を使えそうなアプリを探してみるが一行に見当たらない。
「電話は無理そうだな」
俺は早々に見切りをつけるとスマホをポケットに仕舞い、他の所持品が無いか探ってみるが残念ながら持っているのはスマホだけだった。
「他に持ち物は無しか。 ………それにしてもなんで服装が制服なんだ?」
何故か俺は通っている学校のブレザー制服を着ていた。
寝ているときに攫われたのなら寝巻き姿の筈……もしかして着替えさせられた……訳ないか。
全くもって意味が分からない。
ちょっと窮屈なのでジャケットのボタンを外し、ネクタイを解くとシャツの首元を緩めて裾をズボンから出して動きやすい格好にした後、これ以上考えていても意味は無さそうなので探索に行く事にした。
部屋から出て石版で出来た通路を歩く。
通路は等間隔で松明が掛けられているため薄暗くはあるが視界は悪くない。
しばらく歩いていると通路が左右に分かれたT字路になっていた。
とりあえず右に曲がり歩き続けると今度は十字路に出た。
「何なんだ此処は。 まるで迷路みたいだな」
昔、遠足で訪れた遊園地の迷路を思い出す。
そういえば迷路等のアトラクションって攻略法があった筈。
確か『右手法』だっけか。
壁に手を着けて歩けばいいって聞いた事がある。
僕は右手を壁に着けると十字路を右に曲がった。
しばらく歩き続けると通路は行き止まりになっていた………が、そんなことよりも俺はそこに置いてあったある物に意識を取られた。
「……おいおい、宝箱が置いてあるってマジでゲームじゃねぇか」
そこにあったのは木製の四角い箱に円柱を半分に割ったような蓋が取り付けられたゲームでお馴染みの宝箱だった。
恐る恐る蓋を開けてみると中には手の平サイズの細長い黒い箱が入っていた。
側面に紅いスイッチがあり先端部には二本の細く短い金属棒が突き出している。
………なんか漫画とかテレビで見た事があるんだけど。
試しにスイッチを押すとバチバチッと金属棒の間に放電が起きた。
「スタンガンじゃねえか。 なんでこんな物置いてあるんだ?」
てか、なんで宝箱にスタンガンが入っているんだよ。
誘拐なら攫われた人間が手に入れられるような所に武器を置く筈が無いし、別の可能性としてテレビとかのドッキリ企画で俺が選ばれて此処につれてこられたんだとしたら危険な武器を置く筈がない上、雰囲気も台無しである。
「あああああああああ!! 全く意味がわかんねえええ!!」
とりあえず今は考えるだけ無駄だということはわかった。
俺はスタンガンをポケットに入れると元来た道を戻っていった。