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鋼鉄の神兵  作者: 立花統氏
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空を裂くクォリオン

 翌日、ソーマはグル・ドヴァン直々に招かれて、ミルコポリス地下1000mにある大空洞に招かれていた。ミルコポリス建設に従事していたソーマでもこの空洞のことは知らされておらず、広大な空洞にはいくつもの工業用施設が建てられており、宇宙船の部品やエンジンの工廠、製鉄所、製油所などが備わっていた。

 ソーマが連れてこられたのはモーターマトンの製造工場であり、ここでは日に数百体は製造できるであろう、施設が広大な工廠を埋め尽くしていた。モーターマトンの製造工場の地下には、さらに巨大なモーターマトンの製造工場があった。

「これはモーターマトンではない。純戦闘用に開発したオーガリアンだ」

確かにモーターマトンはいかにも作業用といったものであった。

「モーターマトンに戦闘モードを搭載し、作業用機械にカモフラージュさせたのは無理があったようだがな。それを制御しえた貴殿はやはり勇者であろうな」

 モーターマトンをもたらしたのはやはりグル・ドヴァンそのものだったのか。ミハルノ社長も知っていたことなのか。社長は今もグル・ドヴァンに命じられるまま、ミルコポリスの開発を指揮している。どういう胸中で仕事をしているのか、推し量ることはできなかったが。

 そんな思案しているうちにソーマは一体のモーターマトン、いや、オーガリアンの前に立っていた。その白いボディは、気高く壮麗さを醸し出せていた。

「これが勇者ソーマ・パニッシュの操るオーガリアン、クォリオンである」

「クォリオン……?」

「クォとは我々の故郷だった銀河で勇者をさす。オリオンの勇者ということで、クォリオンと名付けた」

「自分を買い被りすぎています。あのとき戦えたのは偶然にすぎません」

「他の人間ができなかったことをやってみせたのだ。素質は十分と言えるな」

「しかし……、あなたがやろうとしていることは正しいとも思えない」

「私は魔王の汚名をかぶっても、この銀河に平和をもたらすつもりだ。銀河を今のまま、放置すれば」

「滅びるというのでしょう。何度も聞きましたよ、その話は」

「事を成した暁には私を討てばよい」

「そういう問題じゃない。ボクは勇者になれるほど立派な人間じゃないんだ」

「もし貴殿が己の運命に背を向けたらどうなると思う?」

「僕の命を握っているとでもいうのですか」

「貴殿だけではないよ。兄の運命も知人の運命も貴殿の運命の一部ということだ」

「脅しているのですか」

「一人で生きているつもりになるな、ということだ」

 グル・ドヴァンの言葉は厳しかったが、ソーマはそこに父を感じてしまっていた。

「明日よりクォオリンを駆ってハルノシン山脈の残敵の掃討作戦に出てもらう。扱いはモーターマトンと一緒だ、すぐなれる」

ソーマは返事をしなかったが、逆らうこともできなかった。


ミルコポリスから南西300キロにあるハルノシン山脈では連邦陸軍と民衆の勢力が糾合してできた市民軍の拠点がある。元々鉱山があり、街並みも整えられていたため、拠点にするにはうってつけの場所であり、周辺各地の反抗勢力も続々とハルノシンに集まり、山脈全体に砲台が設置され、あちこちに陣地が配置され、急速に要塞化されていった。

その結束力は固く、抵抗は頑強なもので、陸上戦闘に不慣れなグル・ドヴァン軍は苦戦をしていた。それでもグル・ドヴァンがゲンリョルブを戦線に投入しなかったのは、長らく戦闘を経験していなかった兵員たちを鍛える側面があったのだ。

そのハルノシン市民軍でも士気に衰えを見せ始めていた。ゲンリョルブのシャクトバーンの威力を目の当たりにしたからだ。もしあれが出てきたら、まず勝てない。いや、そもそも神に戦いを挑むようなものではないか。人びとがそう思っていた矢先に、展開するグル・ドヴァンの軍勢に一体の巨人が立ち上がるのを目にしてしまった。

ソーマはクォリオンに乗り込み、驚いた。ダイレクトシステムを起動してクォリオンと一体化した瞬間、自分が巨人になる感覚だけでなく、世界が広がっていく感覚を受けたのだ。あらゆるものを感じ取り、あらゆるものが見える。大気の流れも、電磁波の流れも、音も、匂いも、視界もすべてが広がって、あらゆるものが感知できた。人の存在もそこにある感情も読み取ることができた。

「震えている……」

ただそう思った。ハルノシン山脈に集結している市民軍の人々の感情を感知して。

要塞化されたハルノシン山脈の谷間にグル・ドヴァンの陸上部隊は進出しており、ソーマのクォリオンは純白の機体を立たせた。その様はナイトそのものと言えた。クォリオンは腰に据えられたサーベルを一瞬で空に向かって引き抜いた。瞬間、衝撃が空を走ってハルノシン山脈を震わせた。クォリオンのサーベルはクォリオンの手のひらを通じて、搭載されてあるセイラーエンジンに接続してエネルギーを供給し、その刃に空間歪曲の流れを帯させることができる。この刃に斬られたものはその刃に触れる前に空間歪曲の流れによって斬り裂かれることになる。

それを空中に振るえば、空間歪曲の波を起こすこともできる。今のひと振りはソーマが出力を絞っていたため、震動を起こす程度のものだったが、出力を上げれば、とてつもない破壊の波を起こすことができる。今のひと振りでハルノシン山脈全体を破壊することも想像できた。

 だからソーマは脅しではなく

「我に逆らえばみな一瞬で死ぬことになる。それは無駄死に過ぎない。だから降伏せよ。生きてオリオンの発展に協力してほしい」

と本気でハルノシンの人々に呼びかけた。すでにハルノシンの人々の恐怖は伝わってきたし、ソーマ自身もクォリオンの力に恐怖していた。

 この30分後、ハルノシンに集まる市民軍は全員、グル・ドヴァンの軍勢に降伏した。やってみれば事は簡単ではあったが、ソーマはとても疲れた。巨人が大量に生産されたとき、この巨人同士がぶつかりあったとき、星のひとつなどあっという間に消え去ってしまうのではないか? そう考えて余計にソーマは疲れた。


 ミルコポリスの宮殿前にある大通りは、グル・ドヴァンによってクォリオン通りと名付けられた。サーベルのひと振りで事実上オリオンの内戦を終わらせたソーマとその搭乗機クォリオンを永遠に讃えてのことだった。その通りを輸送用キャリアに直立状態で乗せられたクォリオンがゆっくりと進んでくる。前後を兵士たちが行進しており、側道は民衆で埋められていた。

 カリナは見上げていた。かつて見上げていたビルよりもはるかに小さいが、そこから感じられる力は大きく思えた。中身のあるようなものに思えた。人の形をしたものがそのまま大きくなったからなのか。それとも知っている人間が乗っているからなのか。かつての恋人の弟が乗っていることはもはや周知の事実である。リョウマのことを思えば、カリナはソーマに合わせる顔などない。そして、彼が偉くなれば偉くなるほど、カリナは締め付けられるような息苦しさを感じる。「ネビュラガールズ」に身をおく自分がみじめに思えるからだ。また彼の前で自分は偽りの笑みを浮かべ、歌って踊らなければならない。そのときどういう目でソーマは自分のことを見るのだろう。

滑稽な問いだった。街が消え、支配者が変わり、時代は急速に変わっているというのに自分は全然変わらずにいた。もうすぐリハーサルがあると思って、思考を切り替えようとしたとき、

「カリナ・カーシィさんですね」

 と女に声をかけられた。

 その娘はまだ少女っぽさが残っており、化粧っけもなく、鼻のあたりにはソバカスがうっすらと見えていた。

「わたし、ミルコメダホスピタルで働くアリサ・アンバーと申します」

「何か? あんな病院に知り合いなんかいません」

 ミルコメダホスピタルと言えばグル・ドヴァンがミルコポリスに作らせた国立病院である。入院しているのは財力のある有力者ばかりだ。しかし、アリサは答えた

「いまあそこにはリョウマ・パニッシュさんが入院されています。あなたは昔、リョウマさんと……」

「今はなんの関係もありません」

「ずっと眠ったまんまなんです。一度会っていただけませんか」

「呼びかけたら目覚めるんですか」

「容態がよくなくて、もうダメかもしれない」

 とアリサを目に涙を溜めながら言った。

カリナは揺れた。しかし、

「弟さんがいるでしょう」

 となおも突き放す。

「あたしが行ったって」

「お願いします、カリナさん。声を聞かせてやってください」

「なんでそこまで」

「みんな人の死に鈍感になってきています」

「え?」

「ここ1ヶ月でいっぱい人が死にました。みんなそれに慣れすぎて、何にも感じないようになってしまって、アタシもそうなんです」

 クォリオンに声援を投げかける人々もどこか何かを忘れようとしているような、そんな感覚がカリナにもあった。しかし、そんな内心とは裏腹のことを言う。

「ならなおさらわかりません。なぜ一人の患者にそんなこだわるんですか?」

「ずっとわたしがお世話をしていたのもありますけど、本当のところはわかりません……。でも寂しい思いをしたままじゃ」

「そんなのリョウマだけじゃないでしょう。何も感じないまま死ねたのはむしろいい方で、蒸し焼きになった人もいれば、体をつぶされて苦しみながら死んだ人だっていっぱいいるのに」

「そうですよ、そんな死に方は残酷ですよ」

「だったら」

「それを当たり前にしちゃいけないんです。無念な思いを抱いて死ぬのは当たり前とかみんなが思うようになったら、みんな命を粗末に扱うようになる。自分の命も他人の命も」

「だったら大帝閣下に直訴すればいいでしょう。私には関係ありません」

 カリナはしかし、内心で揺れ動いていた。声が震えていたからだ。

「仕方ない……、って積み重ねていけば、後悔も積み重なって……。すみません、てしゃばりすぎました」

 アリサは涙をぬぐってその場を後にした。カリナはその背中がかなり小さくなってからあとを追ったのだった。


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