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鋼鉄の神兵  作者: 立花統氏
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ゲンリョルブの一撃

ソーマはグル・ドヴァンから歓待を受けていた。この前までソーマたちが作っていた宮殿の中で。今から考えれば、この宮殿も新たな首都ミルコポリスもグル・ドヴァンのために作られてものであると気づく。超古代の貴族を彷彿させるような石造りの建築物、宮殿、整然とした街の区画と自然との調和は古代の神の庭園を思わせた。ひたすら足し算の論理しかなかったクジューシンとはまるで逆である。工場や倉庫・研究所の類はすべて地下にうつし、内と外の区画を完璧に割り切っている。すなわち街の機能を司る者はすべて地下に埋め込み、外側は徹底的に美を追求した街並みとしたのだ。それが大帝グル・ドヴァンの美意識なのだろう。

 ソーマは今、古めかしい玉衣をまとったグル・ドヴァンの隣に座り、数百人からなるグル・ドヴァン親衛隊のマスゲームを見せられていた。その規律のとれた集団行動は美しいものではあったが、好きにはなれそうになかった。

「まだ慣れぬか、勇者殿」

とグル・ドヴァンが訪ねてくる。

「勇者と呼ばれるのはご容赦いただけたい」

 ソーマもまた華麗な装飾の施されたバロック貴族の服をきせられていた。

「貴殿は讃えられるだけの活躍をしたのだ」

「あなたに敵対しました」

「だから讃えているのだ。勇者であると」

「ならばあなたは魔王ということになります」

「ふははは。それもそうだが、統治者というものはみな魔王だろう。魔王でなければ統治者は務まらんものだ」

「どういうことです」

「憎まれ、恐れられることも人の上に立つものには必要だということだ」

「あなたの親衛隊をみればそれもわかります」

 ソーマは嫌味をいった。

「あはははは、親衛隊のマスゲームとはやはり肩がこりますわね。勇者殿もそう思いでしょう」

グル・ドヴァンの向こう側にいるリドラーが言った。

「芸能というのはもっと肩肘張らずに楽しんでみるものでございましょう。どうも親衛隊の見世物は堅苦しくて息が詰まります。勇者殿もそう思いでしょう」

「リドラー、あまり勇者殿を困らせるものではない」

「あなたが困らせているんでしょう。なにせ貴方は勇者と対峙する魔王なのだから」

「フフッ、それは違いない」

 グル・ドヴァンはまた笑った。

 親衛隊たちによるマスゲームは終わるとステージではオリオンの歌手やアイドルによるライブが始まった。これを集めたのはリドラーの手腕によるものである。グル・ドヴァンの強権を背景にした招集と言えるものだったが、出演者の選別はリドラーと彼女の側近たちによるものだ。その出演者の中にカリナの所属するアイドルグループ「ネビュラガールズ」もいて、ソーマの目を引いた。そして、ステージに上がるネビュラガールズたちの中にカリナの姿を見つけることもできたのである。改めて非現実的な光景の中にいることをソーマは実感していた。それは舞台で歌い踊るカリナにしても同様だったが、ソーマをグル・ドヴァンの隣にいたとしても、今は気にしている時ではなかった。

歓談の時間になった。すると、グル・ドヴァンたちの前にオリオンの政治家たちや企業家がわれに先にと群がり、それぞれ自己紹介していった。彼らが念頭にあるのはただ権力者に取り入ることのみである。グル・ドヴァンはそんな俗物たち一人一人応対していった。ソーマは明らかに嫌悪の色を顔に浮かべた。しかし、他の人間からみればソーマもまたグル・ドヴァンの同志にしか見えまい。だからソーマの居心地は実によくなった。

「巨人を操る勇者はもっといかついとおもっていたけど……」

とリドラーが寄ってきた。

「とても綺麗な目をしている」

言われてソーマは慌てた。綺麗だって? あなたの方が何倍もきれいだ。だがそれゆえに危険なものを感じていた。妖艶な美しさとはこういうものなのだろう。一度捉われたら、二度と抜けられなくなるような、危険な美しさ。それはグル・ドヴァンとはまた異質の威圧感さえ漂わせていた。だからこそグル・ドヴァンの妻足りうるのだろう・・・・・・。

「あなたは偶像になるべきなのよ」

「偶像」

「そう。アイドルよ。人心を円滑に束ねるためのね。そうすれば無駄な血を流すことなく宇宙を平定することができる」

「もう多くの血が流れました」

やっとソーマは言い返した。

「このまま銀河の戦乱を放置していたら、あと1000年経っても血は流れ続けるわ。その総量を考えれば」

「小さい犠牲とは思わない」

 ソーマは遮った。

 リドラーは小さく、

「いいわ、反骨心が強くて。言うことを素直に聞いて尻尾をお利口さんよりもよほど好みだわ」

リドラーはグル・ドヴァンに擦り寄る男たちのことを言っていた。

「あなたは違うと言うんですか」

「私たちは愛し愛されている関係よ」

「どうだか……」

「あなたもいずれわかるわ」

 リドラーはソーマに寄りかかる。リドラーの放つ甘い香りと美貌に吸い込まれるような感覚に落ち入りそうになる。ソーマは自己を保つためにいった。

「ボクはあなたのような人は好きになれません、愛せません」

「あははははは……」

 突然リドラーは高らかに笑った。

 その笑いはグル・ドヴァンの気も引いた。

「あなたのこと、気に入ったわ」

「なにを言って……」

「勇者殿を困らせているのはお前の方でないか」

 とグル・ドヴァンが戻ってきた。

「私が勇者殿をあなたの味方にしてみせますわ」

「ふん、戯れたことを。そう言って、勇者殿の精気をすべて吸い取ってしまおうという魂胆だろう」

そのグル・ドヴァンの言葉はとても恐ろしいことだとソーマは戦慄した。

「冗談ではない・・・・・・」

 と痛烈に思ったのだ。

「それも一興かと」

 とリドラーが返せば、逃げたくなる。

その矢先突然、爆発音が近くで起きて、宮殿を揺るがしていく。パニックになるゲストたちを尻目にグル・ドヴァンは落ち着くはらて、

「何事か」

と叫ぶ。

「敵襲です。小型艦艇がミルコポリス上空から砲撃を行っています」

「小型艦艇?」

 つづけて、爆発音が2度、3度と宮殿を揺るがしていく。

「諸君、この宮殿は大丈夫である。ここの防壁は宇宙戦艦と同じ材質でできているし、バリアも設置されている。多少の攻撃ではビクともしない。どうか落ち着いて歓談を続けられたい」

 宮殿の天井から立体スクリーンが出現し、同時に小さな立体スクリーンが来賓席のここかしこにも出てくる。外の戦況をゲストたちに見せるのがグル・ドヴァンの計らいだった。映し出されたのは猛進する一隻の羽を生やした船だった。


 全長にして50メートルの小型艦艇「ヒテンクウ」は、オリオン上空5万キロにシスドライブで出現、光の翼をはためかせながら一挙にミルコポリス方向へと降下・減速行動しつつ、グル・ドヴァンの宮殿めがけビームを放った。モーターマトン用の小型セイラーエンジンを2基搭載し、シスドライブを可能にしたヒテンクウだからこそ行えた奇襲である。

ヒテンクウを操る7名の若者たちは、隠忍自重を唱えるリュウジン提督に反抗し、ヒテンクウを持ち出し、突出した。故郷を侵略され、爆撃された恨みからの行動だったが、その操艦は冷静そのものだった。小型艦船による惑星近傍へのシスドライブと目標物へのオインポイント攻撃は以前からすでに研究されていたものだ。彼らはシミュレーションで何度も行ったとおりの作業をやっているだけに過ぎない。とはいえ実戦では初めてのことであるから、こうもうまくいくのものかと、若き乗組員たちは驚いてもいた。ミルコポリスの「地下組織」からの情報で、グル・ドヴァンが政庁も兼ねる宮殿において、オリオンの有力者たちと交流するためのパーティが催されるのをきいた7人の若者たちは、このときをおいてグル・ドヴァンを討つタイミングはなし、と決起したのである。グル・ドヴァン討伐を呼び水にオリオン全土での反抗作戦も開始される。そうすればリュウジン提督も動いてくれるだろうし、尻込みしてなかなか援軍を送ってこない、銀河連邦軍の本隊も重い腰を上げるはずだ。そのために自分たちは犠牲になってかまわぬと思い極めているのが、7人の若者たちである。

小型艦艇「ヒテンクウ」は被害をなるべくださぬよう、ビームを収束し、かつ密度を高めて打ち出した。その狙いは正確で宮殿を直撃した。しかし、宮殿周辺にバリアが貼られていた。とはいえ、高出力のビーム攻撃に何度も耐えられるわけがない。小型艦艇はミルコポリスに接近しながら、ビームを発射させる。そして、まもなくミルコポリスの上空に差し掛かった。宮殿を肉眼で確認した射撃手はビームのみならず、ミサイル、実体砲弾のありったけを打ち出した。それを打ち出した直後、若者たちは宮殿のすぐそばに人が立っているのを目視した。見えるはずのないくっきりとした人影……。次の瞬間、人影は跳躍したかと思った瞬間、若者たちの視界に光が広がった。それが若者たちのこの世で最後の認識であった。

宮殿の前に立った巨人は、モーターマトンの2倍はあるかに見えた。およそ20メートルはあるか……。ボディは月夜の中で赤く輝いていており、隆々とした全身の、そのたくましさはモーターマトンの比ではない。そして手には矛が携えられており、妖しい輝きをたたえていた。宮殿のゲストたちはその異様な姿に目を見張った。

赤い巨人は跳躍して、10キロ先にまで迫ったヒテンクウに一気に迫ったかと思うと、手にした矛をヒテンクウに切りつけた。

切りつけられたヒテンクウはそのまま直進を続け、宮殿の上空を通過していき、ミルコポリスも通過して、そのまま見えなくなった。かと思うと赤い火球を発して大爆発して、夜空を赤く染め上げたのである。ゲストたちは、そしてソーマも、カリナもみな、呆然とした。

「あれこそは巨人兵器オーガリアンにして、シャクトバーン。それを操るはマゼラー銀河の勇者、ゲンリョルブである。どうかその勇姿を讃えて欲しい」

 誰かが拍手をしはじめて、みながそれに続いた。あんなものには叶わない……、と誰もが観念してのものだった。しかし、もう一つの理由もあった。

 ゲンリョルブの名前はおとぎ話に出てくる英雄の名前だったからである。ミルコメダ銀河から隣にある、といっても250万光年は離れているマゼラー銀河から伝わるゲンリョルブの伝説。無限の力と勇気を宿し、数々の化物・悪漢を倒してきたというその伝説はソーマも両親からよく聞かされていたし、テレビアニメやドラマ、漫画でも描かれていた。しかし、実際のマゼラー銀河は巨大ブラックホールによって大半の星が飲み込まれて、100万年前には滅亡したとされていた。ならばグル・ドヴァンたちは滅亡したマゼラー銀河にいた人類の生き残りで、何百万年もかけて、この銀河にやってきたというのか。

 ゲンリョルブの力を目の当たりにして、人々は直感的にそう思ったのだろう。

 ソーマは一人、拍手をせずモニターに映る赤い巨人を見つめていた。


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