第一章 額縁の中の世界【4】
「国王! フィリップ様が見当たりません!!」
くすんだ短い金髪の少年が城を走り回っていた。真っ青な顔をしている。
「まさか……」
「サムエル国王! 反乱を起こしたアバダン領への道で女性を発見しました! そばには夫と思われる男性も! ……今はそこ以上は進めません!」
少年は二人を見て駆け寄る。サムエルも歩み寄った。
「深い怪我はなく、気を失っているだけです」
軍服を着た兵が告げ、サムエルは少年の頭をなでた。
「ミク、ご両親だよね?」
「……はい。……何で……?」
「ミク……ミイが……アバダン公の屋敷に行ったんだ。フィリップ様が連れて行かれて……」
広い部屋に医者を数人呼ぶと母親を診させる。サムエルとミクは窓に歩み寄る。
「フィリップ……」
か細く呟くと目を閉じ、深呼吸をした。
弟も大事だが、自分は一国の王。取り乱すわけにもいかない。
「フィリップ……向こうに行ったんだね……。あれほど部屋にいろと言ったのに」
唇を噛み、顔を上げた。
「向こう側と話し合いの場を設けるようにしてくれないか? ミク、手伝ってもらっても構わないかな?」
「……はい」
ミクは深く頷いた。
サムエルとアバダンの話し合いは行われる事なく、アバダンの元に行ったとされるフィリップは行方不明だった。
アバダンの屋敷に程近い場所で幼い少年が頭から血を流して倒れているという情報もあったが、その少年も見つけることが出来なかった。
やがてアバダンは強引に境界に塀を作り、行き来を完全に禁止する。
サムエルはフィリップの手がかりを失い、途方に暮れた。
アバダンの政策は貧富の差を広げ、治安の悪化を招く。
もし向こうの領土にいるとすれば、何不自由なく、苦労もなく育ったフィリップは生きていけないと誰かが噂をする。サムエルもそれを否定しながらも心のどこかでは諦めていた。
フィリップはもう戻らない……と。