表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏と暁の通り道  作者: 早生しあ
第一章
5/58

第一章 額縁の中の世界【3】

 それからは少し気まずい雰囲気で、ミイはつまらなそうにしていた。

 外の雨は止むことなく、叩き付けるように降っている。

「そんなに心配なら無理して来なくても良かったのに」

 ミイは呟き、母親に頭を叩かれた。

「だって、暗い誕生日なんてサイアク! お兄ちゃんはいないし、フィルも優しくない」

「ミイ、ごめん」

 フィリップは不安な表情のまま謝り、再び外を気にする。



「?」

 いつの間にか眠っていたらしく、フィリップの上には毛布がかかっていた。隣ではミイが寝息を立てている。

「あ……」

 フィリップが外を覗くと、辺りはオレンジの朝焼けに染まっていた。嵐でえぐれた大地にいくつもの水溜まりが出来ている。

「……泊まっちゃった」

 城に戻ったら怒られることを覚悟して、そっと家を抜け出そうとする。

「フィル……」

 ミイの寝言にフィリップは立ち止まる。

 昨日は嫌な思いをさせてしまった。せめて、起きて謝ってから帰ろうと再び座る。

「兄様、会議終わったかな……。ミクにも会いたいな」

 フィリップはミイの兄、ミクを本当の兄のように慕っていた。サムエルもミクを弟のように可愛がっている。

「おはよー」

 間延びした声でミイがフィリップにもたれかかる。ミクの事を考えていたフィリップはもたれかかられたまま、前に倒れてしまう。

「ミイ、おはよう。僕、帰るね」

 フィリップは微笑んでミイに抱き着く。

 外に出ると、ミイも一緒について来た。母親も見送ろうと追いかける。

「あ、いいですよ!!」

 フィリップは母親に言うが、微笑んで否定される。まるで本物の母親みたいで、フィリップは強く反発できなかった。


 フィリップはそのまま城への一本道へ差し掛かる。昨日は無かった木の杭に首を傾げた。

 傍には多くの馬に乗った兵士がいた。全て杭の内側――こちら側――に居て、険しい顔をしていた。

「通行禁止だ」

 フィリップ達を見て兵士は冷たく告げた。ミイは不思議そうな顔をする。

「僕は戻りたいのです」

 フィリップは言い、通ろうとしたが、槍を突き付けられる。

「ここは我がアバダン公の領となった。今後、この国から出ることを禁ずる」

「え?」

 フィリップは戸惑い、後ろを向くが、ミイも母親も驚いた顔をしていた。誰もこのことを知らない。

「王は……サムエル国王は承知しているのですか?」

「この国で敵国の王の名前を呼ぶことも禁ずる」

 フィリップは目を丸くして詰め寄った。

「ここはサムエル国王の国だ! そんな勝手は認められない!!」

 兵士はフィリップを無言のまま槍で軽く殴った。

「子供じゃなければ処刑している。子供でも二度はないぞ」

「僕……私はこの国の王子、フィリップだ!」

 フィリップが叫ぶと、兵士は微笑した。近付き、腕を掴む。

「王子なら好都合。アバダン公に差し出せば株も上がるというものだ」

 ミイは駆け寄るが、兵士は軽々とフィリップを馬に乗せた。母親は止めようと馬の前に飛び出した。

「お母さんっ!!」

 ミイが叫んだ瞬間、母親は馬に跳ね飛ばされる。フィリップが叫ぶ間もなく馬はミイと母親を置いて走り去る。

「フィル! フィルーーっ!!」

 ミイは母親に駆け寄り、泣き叫ぶ。

 フィリップは上手く頭が回らなかった。どうして、こうなっているのか。何が起こったのか。

 ただ、全てが昨日までと違う気がした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ