序章
――序章――
「あっ、申し訳ありません」
石畳の階段を急ぐ、どこか育ちの良さそうな少女は、ぶつかった幼い少年に謝る。
フードの付いた紺色の服を着た、大きな鞄を持った少年は微笑んだ。
「別に構いませんよ。こちらこそ、素敵なドレスを汚してしまったのか心配です。急いでいて、申し訳ありません」
10にも満たないように見える少年から、思いもよらない言葉をかけられた少女は目を丸くした。
「え? あの……」
少女が声をかけようと少年の方を向いたときには、すでに少年は階段の上の方を走っていた。
上の方にある城に向かって。
「驚きましたわ……」
少女は呟く。一瞬、自国の王子かとも思ったが、王子が護衛も付けず、庶民の服を着て走っているはずがない。
「パデュマ!!」
下から自分を呼ぶ声がして、パデュマは我にかえる。
「でも……愛らしい子でしたわ」
パデュマは、花を見たときのように微笑んで、声のした方へと階段を駆け降りた。
下に着いたパデュマを待っていたのは、恰幅が良く、褐色の髪を持つ男性だった。
「お父様、国王様とのお話は終わりましたの?」
「ああ……」
パデュマの父は憎々しげに表情を歪め、上にある城を睨みつける。
「……あの小僧……馬鹿にしおって……。農奴の税にまで口を出すか……。わしが領主の器ではないだと? 先々代の国王から預かった土地であるのに……」
怒りを表に出す父親を少し怯えた表情でパデュマは見つめる。
声をかけることも出来ずに、ただ父親の後について馬車に乗り込むことしか出来なかった。