それは滅び行く国へ助け落ちた者
暗森、お気に入り&ユーザーが凄いよ!ありがとうキャンペーン!
未来の子供達のお話です。
まず第四弾、ヴァルキスのお話。
前半シリアスです、いつかかけたらいいなーと思う物語の一部。
※暗森を読んでないと不明部分あり
-僕は無力だ
「父上!!父上!!出してください!!」
泣き叫びながらヴァルキスは牢屋の鉄格子を叩いた。
貴人を牢獄するための牢屋は汚くないとはいえ薄暗く、また魔力が仕えないように魔力封じが施されているため逃げようとするのも困難だった、鈍い音とヴァルキスの叫び声だけが独房中に響き渡る。
ヴァルキスはこのグレイアス連合王国の第2皇子だった、だが彼は今法に触れる行いをしようとしたため父親である皇帝に独房に入れられていた。
「お願いです!!父上!!僕を下界に行かしてください!!父上!!!」
-僕は役立たずだ。
「デリエが!!危ないんです!!恩人である彼女を助けないと!!!父上!!!」
いくら叫ぼうとも独房には誰も表れる様子が無かった。
ー彼女の言うとおり一人じゃ何もできない。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!!デリエ!!!」
血だらけになっている両手を気にせずにヴァルキスは一層強く鉄格子を叩いた。鈍い音と共に自身の血が跳ねた。
ヴァルキスはずっと頭から離れないデリエのむごい姿を思い出し泣いていた。
「お願いです・・・父上!!」
デリエ、それは下界に存在するリネウス皇国最後の王家の皇女の名だった。
リネウス国は今は荒れに荒れ、貴族達は最後の王家であるデリエ皇女を傀儡にしようとする者や乗っ取ろうとする貴族による争いが耐えない状況だった。
何故、そんな彼女と知り合ったかというとそれは前に母親である皇后ナミが賊によって下界に落とされてしまったときに助けてくれたのが、デリエ皇女だったのだ。
もちろんその時もデリエ皇女は、彼女を亡き者にしようとする輩によって奇襲を受けて逃げている最中だったのだ。
そんな中、救出に向ったのが息子であるヴァルキスだった。
直ぐに母親を見つけ、またデリエ皇女を襲った輩も倒して彼女の城へと返したのだが、その道中ヴァルキスにとっては淡い恋心を抱かせる相手となったのだ。
母親の側を離れずに居れば、デリエ皇女は小さな声で言った。
「子供・・・」
「何?!僕はね!君よりも何倍も生きてるの!僕からしたら君の方がずっと子供なんだよ」
いつもなら流せるのに、なぜか彼女に言われるととても腹正しくて、ヴァルキスは思わず言い返してしまった。
「そういう所が子供というのよ。」
呆れたように言うさまは、まるで自分のほうが年上だといわんばかりの態度。だが彼女はその当時は10歳の少女だった。
見た目は同い年くらいに見える二人だが、生きている年数は違う。
それはヴァルキスには不思議な体験でもあり、又今まで周りに居た少女達と違う彼女に興味を持っていた。
「貴方、それでも男?役立たずすぎだわ」
泥だらけになって涙目なヴァルキスの様子にデリエは眉根を寄せた。
「なんだよ!!魔力を使わずにやるの難しいんだぞ!君こそそれでも皇女?火起しなんか簡単にしてさ」
ヴァルキスは魔力を使うと下界に影響が出てしまうため、魔力を使わずに野営などしたことがなかったため枝を集めるのも火をおこすのも一苦労で、結局まわりにいる人達が手伝ってくれる形になってしまっていた。
「生き抜くためには必要だからよ。あら?ナミ様も簡単にされてるわよ」
「ぇ?」
振り返れば、ヴァルキスの母奈美はなれた手つきで木の枝を両手で挟んで回していた、摩擦で擦られている木は煙が出てきている。
「母上?・・・なんで出来るんですか?」
「ふふふ、以外に覚えてるものね~懐かしいわ~、そういえば~昔私森に住んでたのよね~」
すっかり忘れてたと言いながら楽しそうに木にくべている母にもヴァルキスは驚いた。
この旅でいろいろ知ることが出来、また知らない感覚をいっぱい刺激された旅でもあった。。
ヴァルキスとデリエは天上界に帰った後も時々手紙や魔鏡でこっそりと交流を持っていた。
同時に、お互いの流れるときの長さが違う事にこの5年間痛感させられていた。
魔鏡で重ねた手はいつの間にかデリエの方が大きくなってしまってい、彼女にかかる責務も重くなっていた。
下界の人々の成長は早く、天上界の人々は遅い。
あっという間にデリエの方が年を重ねて少女から女性へと成長してしまった、だがヴァルキスは時が止まったかのよう幼い姿のままだ。
そして相変わらず彼女の国は荒れていて、なんど彼女を取り込もうとする貴族の話を聴くたびにヴァルキスはひやひやしていた。彼女をこの国、天上界に連れて来れないかと調べたりしたがデリエに断られてしまった。
「私には果たさなければならない義務がある。それは皇女として生まれた時点で発生するの、貴方も皇子として生まれたなら分かるでしょ?」
「でも、そこにいたらいつか殺されてしまう!今まで何とかなったけど、君はもう女性になった!!危ないよ!危なすぎだよ!!」
「大丈夫よ、そう簡単にはやられないわ。護身術も習ってるし、そこら辺のゴロツキ位だったら私一人で倒せるわ」
「でもでも!!このままじゃ、滅んでしまうかもしれないんだよ?!」
「それが国民の意思なら私はその運命を受け入れるわ。私たち一人一人はとても無力よ、でも国民はまだ私の味方なのよ。」
「でも!」
「ヴァルキス、ありがとう」
太陽のように笑う彼女にそれ以上何もいえなかった。
そのときにはお互い惹かれあい、そして報われぬ恋に胸を痛めていた。
そんな彼女が今、下界で敵の手に落ちているのだ。
必死に国を守ろうとする彼女の国を乗っ取る事しか考えない貴族の手によって。
武力に秀でていた彼女の腕を落としとり、牢に繋いでいる。
「デリエ!!!」
彼女はもう大人だ、子供ではなくなってしまった。女性の末路などもう決まっているようなものだ、しかも彼女は皇女。父親が誰であれ彼女が産んだ子供は王家で跡継ぎだ。
独房に響く靴音にヴァルキスは顔を上げた。
そこには待ち望んでいた父の姿ではなく、双子の片割であるヴェルの姿。
「ヴェル・・・・お願いだ!!ここから出してくれるように父上に「なぜ?」」
俯いていたヴェルから発せられた小さな声はヴァルキスの言葉を止めさせた。
「ヴェル?」
「どうして、ヴァルキスは私の半身でしょ?なんで下界の女にそんなに必死なの!!下界の人たちは直ぐに死んじゃうんだよ?!魔力の弱いやつらしかいないのに!!」
泣き叫ぶようにヴェルはヴァルキスに怒鳴った。
「ヴェル!!彼女達を侮辱する言葉は許さない!!」
ヴァルキスの怒声にヴェルはビクリと肩を震わせた。
「・・・ヴァルキスがいけないのよ、下界と天上界は密接なやり取りはしちゃいけないのよ。下界と天上界のバランスを崩さないためなのに。法を犯そうとしたのはヴァルキスなのよ!冬季と夏季以外での下界への干渉不可侵なのに、それを破ろうとした。」
「だったら破らしてくれたらよかったのに、魔力剥奪で良い、彼女の元に落としてくれさえすれば」
「なんで!!!どうしてよ!!何がいいの?!彼女なんかあと50年もしてみなさいよ!しわくちゃのおばあちゃんでもしかしたら死ん「やめろ!!」」
お互い目線を外さずにらみ合っていた。
先に口を開いたのはヴァルキス
「・・・彼女を愛してるんだ。」
「っ?!」
愕然とするヴェルの顔に、ヴァルキスは今になってやっとヴェルの気持ちが分かった。
昔はヴェルがなぜ自分に固執するのかさっぱり理解できず、うっとうしいとまで思うようになっていたというのに。
「ごめん。ヴェル。君の事はただ双子の兄弟としか見れない。」
「・・・わた・・したち・・・双子の半身・・・なのに?」
「ごめん。」
「嘘よ!!嘘よ!!私はヴァルキスが一番なのよ!!私たち半身は番なんだよ!?」
「ごめん。」
「許さない!!!ううぅぅぅひっくひっく」
ヴェルは泣き出してしまった。
「ヴェル」
そう言って彼女を抱き起こしたのは兄であるナーブルだった。
「お兄様」
「ヴァルキスに苛められたのかい?可愛そうに」
そう言いながら、妹のヴェルを抱きしめながら優しく頭を撫でた。
「・・・」
「父上からの伝言だよ。”うるさい”だそうだ。」
「だったら出して下しださい。」
「それは駄目だよ、帝国の継承権第2位の皇子が下界に関与するなんて許されない。」
「だったら剥奪してください!」
「馬鹿か?」
今まで優しい声音だったナーブルの声が冷たいものへと変わった。
「!!」
「お前は皇子という立場がそんな軽いものだと思ってたのか?お前はばれていないと思っていただろうが周りの大人達は気づいていたんだよ、お前が魔鏡で下界とやり取りしてるのを。
何故お前が魔鏡で下界の皇女とのやり取りを許されていたか分かるか?大人びた彼女に感化して皇子としての役割を理解し始めていたからだ。」
兄の言葉にヴァルキスは奥歯を噛んで押し黙った。
「お前の行動一つで、父上への評価、帝国の評価に繋がるんだ。評価を落とすような事をしてみろ、それは即ち連合王国の各国が我が帝国を下に見るということだ。リネウス国もそうだろう?彼女の父親がかなりの愚帝だったらしいな。その前は賢帝だったらしいが」
理解はしているつもりでも、気持ちは”それでも彼女の元に”という重いが募るばかりだった。
「少しは静かにして、頭を冷やして考えろ」
そう冷たく言うとナーブルはヴェルを連れて出ていってしまった。
誰も居なくなった独房でヴァルキスは床を殴り続けた。
「くそっ!くそっ!くそ!!」
そうでもしないとまた叫びだしそうになるのだ。
-なりたくて皇子になったんじゃない!
-なりたくて双子の半身になったんじゃない!
-なりたくて天上界にうまれたわけじゃない!
独房には窓が無いため、あれからどのくらいの時間がたったか分からなかった。
ただほんの少し気を失っていたのか眠っていたのか、目を開ければ元の部屋ではなく閉じ込められている床と自身の血だらけの手が見えた。
「くそっ!くそっ!くそ!!うううう、どうして・・・僕は周りが見えなくなる。わかってる・・・わかってるよ・・」
どんなにわがままを言っても、皇子としての責務がある。それはデリエとの会話でやっと理解でき、身についてきていた。
「わがままをいってる。でも・・・」
「助けたい。」
その言葉にヴァルキスは顔を上げた。
そこには自身の母親が佇んでいた。
「は・・はうえ?」
ガウンを羽織っている母親、奈美からはほのかに父親の魔力が香ってきた。
「下界に降りるという事は、法に触れ罪を犯すということ。二度と私達家族と一緒に暮らせない、言葉を直接交す事も。それでも行くの?」
魔力に揺れて髪の毛がほんのりと緑色に輝いた。
「はい。デリエを助けに行かして下さい。助けた後、僕はどうなってもいいです罪を償います。」
「決意は固いのね?」
「はい。」
「では、かなえてあげましょう。」
「?!」
「ただし、魔力は今の半分以下に封じてから下界に下ろすわ、そしてデリエを助け出した後、貴方は魔力を完全に封じられる事になる。その後裁判に出席して判断を仰ぐ事になるわ。でも、たとえどんな判決が出ても、二度とヴェルと顔を合わせないでちょうだい。」
「母上・・・」
「それでも行くの?」
「はい」
「貴方もヴェルも私の大切な子供よ。」
そう優しく微笑むと、手をなぎ払うだけで独房が開いた。
フワリと舞う髪の毛は今はエメラルドグリーンに輝いている。
ー あ、もう一人の母上だ
ヴァルキスたちには当たり前になっている、母の中に眠るもう一人の女性だ。彼女は父親第一主義なため、彼女が現れると大抵子供たちはないがしろにされるかお仕置きされる(イタズラをしたとき)のだ。
優しくヴァルキスの頭を撫でるとそのまま頬を伝い、首に手を当てた。
≪ここに契約を≫
そう短く呟くだけでヴァルキスの首にピリリとした痛みと共に、先ほど奈美が言った契約内容が刻まれた。
≪子供のままだと不便でしょうから大人の姿にしてあげるわ。≫
そう言うと共に、ヴァルキスの体はメキメキと悲鳴を上げながらあっという間に成長を遂げた。
「母上・・・」
目線の高さはもう、母親の上を越している。
≪クスクス、元の姿に戻るには真実の愛が必要なのよ≫
「真実の愛・・ですか?」
≪えぇ、真実の愛。貴方はこれからヴァルキスの名を一切名乗れない、そうねルーイと名乗りなさい。≫
「・・・」
≪ヴェルを泣かした罰よ。半身はどうしようもなく魅かれあうのよ。時々あなたのような人は居るけれど。見向きもされない辛さを少し味わいなさい≫
そう言うと母親は手をたたいた。
その瞬間にはヴァルキスは夜空の中に放り出され落ちていった。
「うわぁぁあああああああああ!!!やっぱりもう一人の母上は酷い!!」
天地の感覚がおかしい中、なんとか魔力をねって安定させて降りていくとヴァルキスはそこがもう下界の中の森だという事に気づいた。
「・・・もう一人の母上って、いろいろ理論ふっ飛ばしてるよぉ・・・」
子供達の中ではひっそりと、家族の中で最強なのはもう一人の母上だと認識していた。
「さて、デリエ。待ってて、今助けに行くから。」
そう言って、ヴァルキスは夜の森を走った。
此処は前にも来たことがあった、王都の近くの森。
ヴァルキスはこの後、皇女を救い出す事に成功する。
そして変なところでヴァルキスだとばれる事になるのだがそれはまた別のお話。
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「下界に勝手に落としたのか」
不機嫌そうな声に、母親は振り返った。
≪ヴェルを泣かしたお仕置きもかねてね≫
そう言ってフワリと飛ぶと夫、ラルクの腕に納まった。
「勝手に・・・俺の子だぞ」
≪私の子でもあるわ。・・・大人にしたら貴方の若い頃にそっくりだから髭もじゃにしちゃった≫
その言葉にラルクは方眉を上げた。
≪だって、貴方の若い頃を知ってるのは私だけで十分よ。もう一人の私には見せないの≫
「ふむ。我の妻はなかなか嫉妬深いな。そろそろ奈美にもどしてやれ」
そう言うとふくれっつらをしつつも、ふわりと魔力が揺れて元の黒髪に戻った。
「デリエは私の恩人なの。」
「・・・」
「勝手な事して、ごめんなさい?」
「疑問系だな。・・・ヴァルキスが怪我をしたらどうする」
その言葉に奈美はきょとんとした顔を返して不思議そうに言った。
「貴方の子よ?ヴァルキスが勝つにきまっているわ」
「はぁ・・・魔力を封じているんだぞ?それにまだ子供だ。」
「ラルクって以外に心配性よね?」
「・・・ヴァルキスはお前に似てそそっかしいからな。」
「?!」