poker face
私の名前を知っている人は、この学園の中で数名しかいない。
「角野さん」
そう言われても返事ができない。
私の苗字は角川である。
「すぅ~みぃ~のさーん?」
だから、スミノではない。スミカワだ。
返事はしない、苗字がまったく違うからな、仕方がないだろう。
「リナちゃん、角野じゃないよ」
そう言ったのは赤髪よりもオレンジのような色合いの人で、私のフルネームを知っている数少ない人物。
「藍島梓」
それが、この人の名前であり、世間で言う『はみ出し者』『悪者』『世間知らず』になる。コイツだけもういくつか付け足すことも可能だ。
「梓。」
梓は、にこりと笑うと真剣に止めてほしいような事を言う。
「リナちゃんは可愛いよなぁ、俺と一緒にちょっと遊ばね?」
「いいよ~♪」
教室でナンパをしないで頂きたく思います。
そう言うと絶対に「え?何、嫉妬ぉ~?」と色気たっぷりの声で耳元でこそり、と言う。
嫌味な奴だ。
でも、間違ってはいない。
嫉妬ではない。
むしろ、付き合ってもいない人が付き合っていない女の人たちにナンパしていて、それを嫉妬する方が有り得ない。
いや、ここにいるか。
勝手に恋心を抱いて、勝手にクラスメイトやナンパした人に嫉妬して、勝手にフラレるような『バカ』が、ここに居る。
「じゃ、またな。」
梓の赤い唇が私の名前言う。
甘い甘い声が、私の耳へ届いてしまう。
優雨
ゆうう、ユウウ
それが、私の名前、『優しい雨』でユウウだ。
名前を呼ばれただけ。
「またね、梓」
梓、あずさ、アズサ
名前を言っても誰にでも同じ笑顔で帰っていく。
恋していても、
君に会いたくても、
甘い言葉を漏らしても。
甘い言葉を吐き出されても。
表情を崩さない。
この微妙な関係を。
崩さずに、
勝手に、アンタを好きでいる。
アンタは知らなくてもイイ。
アンタがスキだよ。
この物語はフィクションです。