私メリーさん。今、聖誕祭の壇上にいるの。
ちょっと真面目に文章書いたらなんだか分からなくなったの
美しい花が咲き乱れる国、コノア王国。今日はこの王国で、1年の内最も大きな祭典である聖誕祭の日である。
町の様々な所に飾られる花はこの王国の国花『コノアティール』。薄い紅色に小さな花弁のこの花は、一輪だけだととても寂しく見えるが、沢山束ねて花束にすると、その主張しすぎない淡い色が人々を癒すように輝いて見え、それが特徴でもあった。
初代国王が、この地に王国を築く時『この花のように、人は一人では無力で儚いが、集まり結束すれば、それはそれは美しい花束となる』と言ったそうだ。
そしてこの聖誕祭では、その逸話にあやかり、次代国王である王族にコノアティールの花束を渡す儀式が行われる。
その儀式では、渡す役目は清く純真な少女であるという決まりがあり、その少女の決め方は、毎年国民より推薦された少女の中から宰相が選ぶという形であった。
しかし今年は不幸にも、選出された少女が事故に合い、命に別状は無かったが足に怪我を負ってしまったためこの儀式を行う事が出来なくなってしまった。
それを知った宰相は、どこからか代役少女を連れてきて「儀式はこの少女で行います」と宣言した。
急な役者交代ではあったが、それに対して異論を述べる者は誰一人としていなかった。
そして今、儀式のために作られた壇上に、王子が姿を現した。美しく輝く黄金の髪をなびかせ、整った顔を衆目の前に堂々と晒す。その姿は、まさに王者の品格を持っていた。
「愛する国民達よ! 今日この良き日に、私は宣言する! この国を良き道へと導く事を!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
王子が叫んだ言葉は、儀式により定められた言葉であった。だが、国民達にはその言葉に、声に乗せられた王子の真摯な想いが届いていた。周囲は喜びの雰囲気に包まれ、まさにすべての国民の一つの幸せの形がそこにあった。
宣言した王子の下へと、一人の少女が歩みだした。
小柄な少女である。珍しい黒の髪をたなびかせて、少女は壇上を歩いていく。その姿は儚い少女のように見えて、しかし心のどこかに引っかかるように少女らしからぬ雰囲気を感じさせた。
まるで長い年月を生きた老婆のような老成したその雰囲気は、華奢な少女がまとうにはあまりにも不似合いな物であった。
王子の下へと歩み寄る途中、少女は数瞬だけ歩みを止めた。その少女の視線の先は見目麗しい王子ではなく、何故か壇上の後ろに聳え立つ聖堂であった。
聖堂の、さらに上。屋根の辺りに視線を止め、少女は数回瞬くと、また歩き始めた。その不思議な行動に、人々は首を傾げたが、憧れの王子に近づくのに緊張しての事だろうと一瞬で納得した。
少女が王子の前で立ち止まる。そして手に持った大きなコノアティールの花束を王子へと差し出した。
この瞬間だけは、毎年皆が沈黙する。それほど大事な儀式だからだ。そしてその静寂の中、花束を一心に見つめる人間がいた。
宰相である。
あの花束には毒を塗ったナイフが仕込まれており、後は花束を渡す役目を負ったあの少女が、そのナイフで王子を一突きにするだけであった。
宰相は計画の成功を信じて疑ってはいなかった。しかし、計画実行のこの瞬間は、緊張し、傍目からも異常と思えるほどの眼力で事の次第を見守っていた。
すると――
「――皆さん!」
黒髪の少女が――叫んだ。
「この国の宰相は王子暗殺を目論んでいるの!」
あまりにも、馬鹿げた事実を。