第八話「「出撃まで残り時間三分二秒」
狼夜の説得に彼女は悔しげに俯いてぽつぽつ話してくれた。
俺はその話を背中に住民の治療を魔法的に進めた。
彼女の話では十年前新たな法令が施行されクローン兵新規増産が決定。
結果、兵士不足の戦線を助けるクローンが大量生産された。
だが彼女たちは製品として不適合で成長不良を起こした。
普通の成長速度でしか育たず軍部はそのまま十歳の少女兵を投入。
エルフの魔法兵として使い捨てた。
それで死に行くことを拒否した一部集団が脱走を企てスラム街に潜伏。
現地マフィア組織のしのぎを奪いつつ生活資金を稼いでいた。
そこを治安当局に発見され駆除されてしまった。
今は生き残りを集めこの廃墟に隠れ命脈を保ち明日も知れないそうだった。
それを聞かされ俺は頭を抱えた。
話を聞いてみても冬精霊と全然関係なかった。「ただの偶然か……」
当局に従順であろうと決意した瞬間、俺は脱走兵を助けてしまったのだ。
俺が餓鬼のころはもっと治安が悪く荒野に出る手段があり魔物を退治して換金部位を納品しては金を握れた。
自助努力で戦闘能力と己の生活を養ったがこいつらは、脳にインストールされた戦闘技能を頼ってるだけだ。
マフィアを圧倒して違法なしのぎを奪い生活資金を稼いでいる。
気持ちを切り替えよう。
言うなればこいつらは社会の寄生虫だ。
マフィアと此奴らの違いはその見た目のかわいらしさだけだった。
だが、同じクローン。
変な同情心が沸き、いくらかの金を置き去り治療終えたら黙って廃墟地下を後にした。
有難う。
有難う。
無数の同じ顔に言われる気持ち悪さを味わう。
「気にすんな俺はお前ら二度と話しかけない。好きに生きろよ」
「……」
彼女らは悲しげに頷いた。
廃墟を後にし地下都市へと続く装甲列車に乗り込み耳に音楽再生キットの流す
「紅蓮の矢」を聞き続けた。
……俺は狩人に成れないな……
歌からその感想を得て彼は進む。
自宅とは思えない自宅に戻る。
駅前本屋で購入した銃工房のカタログを見てオーガ用輪弾倉砲を探す。
新しい弾薬を売るショップ情報を雑誌の後半に載るお店の紹介文から探した。
土井ネット工房の名前がある。
弾薬販売も受け付けているので連絡を入れた。
弾薬在庫を確認。
四十ミリ砲弾は在庫十分との事。
俺は弾薬を補充した。
その後、回復魔法薬や、
治療魔法薬や、
魔法擲弾や、
戦闘服のバッテリーやら、
魔法化ハルバートのメンテナンスに動いた。
他に、過ごし方として俺に新たに付与された性能「レギオン」の説明書が自宅に山ほどあった。
「……」
それを読んで能力を試し出撃日に備えた。
出撃残り一時間前。
俺は第二仙台市の出撃待機ロッカールームにいる。
其処には俺と同じような境遇の兵士が無数にいた。
皆クローンを意味する三枚目のドッグタグを首にぶら下げていた。
裸になりボディスーツじみたぴっちりインナーを上下に着込む。
その上から戦闘服を着込み装備を取り付けて行く。
そこで話しかけられた。
「ロウヤっ!お前生きてたんだな、、、」
言葉に振り向けば知らない男女三名が俺のもとに嬉し気に迫る。
肩を叩かれ胸を小突かれ指笛を吹かれた。
そうか、こいつら、俺のクローン一号の知り合いか。
「すまない、俺は二号だ。君たちの顔も名前も知らない」
その発言でロッカールームのざわめきすら遠ざかり奇妙な沈黙が落ちる。
三名の男女は悲し気に顔をゆがめた。
俯き三秒をかけ気を取り直し泣き笑いの顔で名乗った。
「そうか……俺は小野寺ヒロ。お前と同じクローンの三十四号だ」
「僕は羽場切錬……君に戦場で庇われて命を拾ったクローン八号だ。よろしく」
「私は出戸加奈、クローン千二百三十号。貴方の指揮官よ。私の部下に成ったからには絶対に死なせない……だから、私の名前を忘れないで」
そう言われても困る。
困惑して沈黙していると、ロッカールームからスピーカー音声が流れる。
「総員戦闘配置、―――総員戦闘配置、―――、侵攻部隊選別兵士は総員装甲列車に乗り込め、繰り返す。総員戦闘配置、―――」
スピーカーの音で現実に戻った顔つきを兵士たちは作る。
ロッカールームにいる兵士たちは切迫する。
しかし、凛々しい顔つきを作り急いで戦闘装備を着込んでロッカールームを去って行く。
残された俺は、指輪型戦闘装備を魔道具で填め特殊能力「レギオン生成」を可能となる。
その上から指まで覆う装甲化アームガードを取り付け無人のロッカールームを兵装担いで駆け去る。
第二仙台市、地下兵舎を去り軍用駅に駆け込み、
司令官が俺に求める配置につく。
フード装備された空中投影モニターの案内に従い装甲列車に乗り込む。
なじみ深い汚れた指定射出座席に乗り込みシートベルトを付けた。
耳にワイヤレスイヤホンをはめ込み現地到着三十分を低音の「ウオーライク・メリット・クラシー」なるアニメのオープニング曲を1,2倍速で流し込む。
選曲はAIの解析した俺のパーソナルデータに基づき推奨された選曲。
それを素直に聴き戦闘までのテンションを調整して行く。
ハイテンションビートで切なく鋭く男性が歌い上げる。
楽器演奏はハイビートの高速。
使用楽器は三つとの事。
俺は直属指揮官出戸加奈少尉の視線に気づく。
機械化ヘルムを外し銀色の長い髪をまき散らしている。
彼女の率いる特殊小隊の人員をすべて無視して俺にだけコンビニ・フライ・チキンを炙る様な熱線を目から放ち此方を見つめ続ける。
話しかけてはこない。
そう思っていると彼女はプイと視線を外した。
モニターにかかりきりとなり作戦内容を再確認して行く。
奴の視線にはねっとりとした深すぎる情念が乗っている。
そんな気がした。
俺もまた視線を外した。
武装化装甲列車に装備された多砲塔の砲撃音を聞きながら俯き音楽に集中した。
列車のモニターが示す数字は、出撃まで残り時間三分二秒。
俺は静かに射出を待つ。
レギオンマスター機能をシャットダウンモードからスリープに移行。
スリープから待機に起動変更。
―――、狼夜の足元に黒い影が幾何学模様のように広がった。
彼の足元の影から兵団が蠢いている。
待機は続く。
あ、やべ。
実験内容に後書き書かない場合のデータも取りたかったんだ。
ごめんなさい。後書きはここで一旦切り上げます。
ですが活動報告で駄目でニッチで濃い告知キャラクターを投下しますのでお許しください
(そのキャラクターが面白いとは言っていない)
では皆様に居読書体験がありますように!!(強引)
実験参加引き続きご協力願います。
実験は一応、覚えて居たら十万字完結まで発表後集計結果を発表しま~す。