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第七話「孤独と秘密」

第七話投下。


実験具合はどうなるのか、今からどうしたものか悩ましいモノです。


一番高い可能性はどちらも不首尾。


希望的観測は双方大成功。


現実路線は少量ながら差異があると言った所でしょう。


皆さま、当面実験作にお使いください。


         


 給仕ロボットは大きさ二メートル丁度で俺に食事を供給すると……


「来客に会いますか?」と尋ねた。


 俺は頷く。


 数分後病院着の俺のもとに第五神聖帝国所属研究員が二名訪れた。


「こんにちはロウヤ。君はオリジナルから数え三人目だ」


「左様、君は神聖帝国軍部に選ばれた実験兵器レギオンマスターだ」


 レギオンマスター?


研究者風のその人物は語る。


―――、レギオンマスターは実験兵科、―――


死者の魂を吸収して不死の亡霊兵を生成する近接兵科だ。


君はそのテストヘッドに選ばれた。


オリジナルは実験消耗され次のクローン一号体は暴走を起こし廃棄処分。


計画は大幅修正され人権を失効された二号クローンが生産され計画は続行されている……


 ―――、もう一人の研究員が話を引き継いだ、―――


……つまり君が朧家狼夜君のクローン二号だ……


君の夢、二等臣民に成りたければ実験に付き合いたまえ。


新たな身分が欲しいのだろう?

ならば働け。


その為には、実験兵科レギオンマスターの有効性を戦場で示し国に貢献する必要がある。


君は、無人権クローン一号とは違い人扱いされている。


当面は家に帰宅し普段通り休日を過ごし、我々の指定された時間に集合しなさい。


作戦を与えるので指定目標を撃破してくれ……


作戦予定時刻は今から二週間後。


……撃破標的は蔵王連峰内に巣くうダンジョンマスターだ……


 その宣言を一字一句間違いなく耳で味わい脳で消化し糞を口から零す。


「俺がクローン?」


「そうだ。オリジナルは死んだ」


「君の資産はクローンの君に引き継がれた」


その言葉を最後に俺は一人残され、研究員は去る。


俺の知らない額の資産と家をロボットに紹介された。


俺は知らない無人の家に行く。


第二仙台都市の地下に広がる広大なジオフロントにある小さな借家で過ごした。


生活は平穏そのもの、地表の環境など関係ない温かさで住民は礼儀正しく親切。


スラムにはこびるドラッグもチンピラもプッシーキャットも見かけなかった。


あまりに平穏な世界。


思わず俺は息苦しくなる。


地表に向け走る装甲列車に乗り込んだ。


地表のスラム街となった第四十五区画に向かった。

 

其処には俺の住んでいたコンクリート打ちっぱなしの武装アパートがある。


眼下の商店街には懐かしい人が居るはずだった。


 こんな俺にもよくしてくれたスラムの人たちに会いたくて列車に揺られた。


 たどり着いた先は再開発工事中。


遺跡じみた武装アパートは解体爆破され平地が広がるばかり…………


商店街を回っても馴染みの工房に顔を出しても知り合いは一人もいなかった。


 一月のわりに温暖な気候を味わい、一人公園で佇む。


 どこの誰も俺を知らない。


 只一人同僚の中で良くしてくれたエルフ男のホッジスは俺の葬儀に参加したそうだ。


俺の死を受け入れ退役、今は九州で農家をしている。


誰も俺と話してくれない。


誰も俺がクローンとなった衝撃を共有してくれない。


そもそもオリジナルが死んだ以上、俺は俺でなくクローン二号として生きるしかない。


俺は俺でなく、クローンとして新たに生きねばならない。


人権は半分失効している。


無人権クローンよりマシだが、仕事で成果を出せないと機密保持のために処分が待ち受ける。


 こんな時、頼れるのは軍務達成の報酬と俺を計画に運用してくれる軍部と研究員だけ。


まるきり古いアニメのダークヒーローになった気分だ。


俺は溜息をつきスラムで買った唐揚げを齧りぼんやりとしていた。


そこで打突音が響く、振り向けば汚い茶髪の子供が殴られていた。


どうせスリ失敗で孤児が殴られているのだろう。


二、三小突けばチンピラに財布を返し孤児も蹴られて解放されるだろう。


そう思って俺は唐揚げを齧る。


だが執拗にチンピラは薄汚れた餓鬼を殴り続けた。


しまいには安物粗悪な拳銃を取り出し子供の足を撃ち抜き放置して去って行く。


 リンチにしては念入り。


財布を盗んだのではなく犯罪組織の金にでも手を付けたのかもしれない。


どちらの味方をするもの面倒で俺はその場を去ろうとした。


「あ~~っ楓ちゃん死にかけてるっ!お兄さんがやったのっ!?」


 背後から話しかけられ振りむく。


足を撃ち抜かれた子供と同じ顔の薄汚れたエルフの女の子。


怒りに震え俺を見上げる。


「許さないっ!」


そう言って両腕から火球を生み出し俺に放った。


左右の腕から放たれた二発のファイアーボール。


それは時速三百キロで進み俺に弾着。


俺は刹那で握り潰し魔法爆発を防いだ。


 握り潰さなかったら公園が大爆発でクレーターある公園跡地となっていただろう。


なんだこの異常な攻撃力?


十歳かそこいらの女の子に出来る芸当ではない。


彼女は攻撃が防がれた事に驚き次に強化魔法を使う。


足を撃ち抜かれて苦しむ同じ顔で同じ髪色で同じ性別のエルフを拾い上げる。


高速動作を見せ走って逃げた。


もしかしたら俺と同じクローン兵かも知れない。

それに俺が死ぬ前の作戦で見た冬精霊も茶髪だった。

この関連性はなんだ?何故都市に冬精霊と同じ顔が二つもある?

そう思い俺は話を聞きたくて追いかけた。


偵察兵の要領で偵察魔法を起動し女の子の視界に入らず追跡を続けた。


彼女は、拠点と思しきスラムの汚らしい廃屋に入り込む。


地下へと続く階段を降りて行く。


俺は彼女の事を追い駆け静粛行動で音を殺し鍵をかけられた扉を砕き内部に侵入。


中には四名の同じ顔のエルフ女の子がいた。


観察してみた。


皆同じ髪色に同じ顔に同じ体つき、姿は疫病にでもやられたのかぼろぼろの包帯塗れ。


 火傷に打撲に凍傷にウイルス合併敗血症に銃創に爆創に傷の具合は戦闘痕と分かる物ばかり。


「識別番号」「培養記録」「同期率」「製造日」「適性評価


その表記はどれもクローン関連単語と言って良かった。


俺は鑑定魔法を切る。


彼女は追いつかれたことに気づいて驚き背後に同じ顔の女の子を庇う。


「お兄さんッ!何でここに!?」

「お互いクローン兵っぽいから話を聞きたくてな、お前はなんなんだ?」

「それにこたえてあーしに何のメリットがあるのよっ!」


「俺は回復魔法を使える、治療魔法もだ。質問に答えてくれればここの住民を治療しても良い」


「仲間に危害を加えないって証拠はっ」


静かに告げた。


「無いよ。気に食わなかったら俺の話を蹴ってくれていい。だが俺は自宅に戻って当局に通報するかもしれない」


狼夜は静かに説得の言葉を放つと彼女は俯き諦めたように俯いた。




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