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第六話「死に戻りなんて都合の良いものは無い」






狼夜は連戦に次ぐ連戦で傷だらけ。


防御用の魔法障壁を使い果たし回復魔法薬も使い果たしていた。

 

金属ヘルメットより頑強で軽い戦闘服に取り付けられた魔道化フードの映す友軍位置。


それと俺への撤退命令を心待ちにした。


迫ってくる者がある。


オーガの氷像が繰り出す大剣を見上げる。


装甲ブーツのバーニアバッテリーも使い果たし体力のない俺は顔をしかめハルバートを構えライフル機構を起動して穿とうとした。


だが奴の構える大剣の方が早い。

俺のハルバートが弾かれ俺は肩口から深く大きく広く切り裂かれた。


畜生、戦闘服の装甲が紙扱いかよ……。


 俺は血反吐を吐いて蹴りをもらい吹っ飛び樹氷に叩きつけられる。


 ハルバートは弾き跳んでもうない、輪弾倉砲は撃ち尽くし、擲弾もない。


 敵は鋭く跳躍して大剣を振り上げ俺に迫る。


 腰の超振動するダガーを抜いた。


肉薄する敵オーガの氷像と斬り結ぶ。


氷の大剣を俺の高周波ブレードは切り裂きそのままオーガの氷像の首を裂いた。


左手に込めた火炎魔法で焼き溶かした。


 これ以上戦えない。


 出血が激しい。


治療魔法薬はまだ残りがあり俺は傷口に振りかけ出血を止め包帯を巻く。


荒い息を吐いてハルバートを拾いに雪の中進む。


冬精霊のもたらした豪雪と低温で雪は柔らかなスノーパウダーで深い。


これに沈まないために軍部から支給された防寒雪装備の水晶球二センチを失えば俺は深すぎる雪に沈んで生き埋めとなる。


 この装備を頼り俺はふらふらと進みハルバートを拾った。


 損傷なし、相変わらず俺より頑強で頼もしい限りだが、もう、俺が限界だ。


 それでも走って突撃した。

それが命令だと信じて走り冬精霊の姿を確かに吹雪の中見た。


「……子供だ……」


その子は亜麻色の髪を長く生やし、白の袖なしワンピース服を着ていた。


豪雪の中スカートはためかせクマの魔物を召喚する。


こちらに迫る大熊型の魔物十メートル級がこちらを目指し道の先の人間兵士も大型陸戦兵器も見境なしに襲い壊し殺していく。


異常な強さだった。


俺は疲労と大出血で体に力が入らない。


ただ見つめる。


ハルバートに縋り震えて傷を庇ってへたり込んだ。


 顔をしかめて此方を目指す大熊型の単眼魔物を見つめる。

 敵が迫る顔が迫る牙がぎらつく大口が広がる。

すさまじい速度で巨体が俺を轢き潰しにかかった。


 ハルバートを右手に左手で傷口を庇い自分の「死」を見つめた。


「死にたくない」


その一念で吹雪の中、限界を超え体を動かす。


無理に動かされた体が激しく出血して行く。


俺は奴の口に両腕でハルバートをぶち込みライフル機構を無理やり起動。


俺の全力の魔力を強引に流し込み奴をビーム状の魔法弾で穿った。


それでも熊型の魔物は止まらずベアクローを振り上げる。


この強さ、冬精霊の側近らしい。


ゲームで言えば中ボスと言ったところかもしれない。


魔法で伸ばされた大爪で俺は切断され死ぬだろう。


これがデッドエンドだ。


……そう思っていた……


瞬間的に援護射撃が飛ぶ。


 大口径高速貫通魔法弾が無数に飛来。


俺と大熊に弾着。


俺はぶっ飛んで上半身と下半身がちぎれた。


魔法式大口径重機関砲弾の高威力によりメリメリと裂ける感覚を味わう。


 吹き飛びながら見た。


 大熊の魔物は、ばらばらの肉片に成る程の集中射撃を喰らい吹き飛んだ。


 千切れたまま射撃地点をみる。


そこに大型すぎる魔道重機関砲を三つも四つも子機に浮遊させた人物がいる。


槍を持つ異質な一人の魔道兵を見た。


 その武装、姿、シルエット、装甲ヘルムに隠れた目線下からの顔。


 戦天使の機械バージョンと言った風情だった。


 俺は自由落下していく。


多くの自弁装備を雪に零した。


軍の支給した防寒雪装備の魔道具「楓の涙」もまた失い雪に着地し埋もれた。


雪で息が出来ずもがき気絶。


 ―――、戦場はその機械天使一人でどんどん攻略されて行く。


 個人にして二個連隊級戦力。

『ヘルズボーンソルジャ』がたった一人で戦局を覆す。


 凄まじい破壊力と速度で戦場を蹂躙。


冬精霊を確かに捕捉。


六時間の地形も変わる激戦で蔵王連峰に大きなクレーターを作る。


破壊に成功。


戦天使は冬精霊を封印して持ち帰って行く。


そんな中一人の魔道兵が死体を回収に訪れた。


上半身と下半身が泣き別れとなった自警801大隊に所属するパワードスーツ小隊隊員魔法兵朧家狼夜一等兵の「死体」を回収した。


 回収された死体は第二仙台市中枢軍事研究設備に運び込まれた。


研究に消費され死体の残骸は溶かして肥料に変えられた。


こうして朧家狼夜は本当にこの世から消えた。


 回収された冬精霊は東京へ運ばれ研究設備に封印・以降秘密裏に研究された。


 派遣された軍も引いて行く。


広大な蔵王連峰は冬精霊の喪失をもってただの雪山に戻る。


多くの魔物吐き出すダンジョンとして佇む。


 それから時は流れる。


 俺は培養槽で目覚めた。

 俺は朧家狼夜。

 だが、妙に自信がない。なぜだろう?


―――、ともかく、―――


 友軍が拾ってくれたみたいだ。


 状況も場所も判らないが手厚く機械に治療されて行く。


上半身と下半身が泣き別れになる大怪我だったのに治療が進み俺は三日で培養槽を出た。


これほど強力な治療ポットを使用してしまうなんて後で治療費を請求されても払いきれない。


焦りと共に治療ポットから解放され俺は個室に案内された。


 見事な調度品の部屋、三等臣民の扱いでは無かった。


 俺の私服に俺の自弁した装備も磨かれた姿で俺より先に部屋にある。


 この特別扱いの根拠は何だろう?


 案内された部屋で二時間ほど待たされ扉が開いた。


 ロボットだ。


 完全な機械備品。

 そいつが食事をもって来てくれて俺は有り難くいただいた。


 ホッケの焼き魚定食でお浸しと醤油が付きご飯はササニシキ。

汁物はふの澄まし汁で副食にジャガイモとベーコンの煮っころがしがある。

デザートは芋羊羹二つにお茶だった。


 無茶苦茶美味いっ!


ていうかこれだけで俺の月給の三分の一が飛びそうな高価な味がした。


安い事と栄養価以外取り柄がない合成栄養食ばっかり食べてきた俺には泣くほどうまかった。


 その食品トレーに今日の日付と年号がメニュー表として乗っている。


 神聖歴2389、一月二十日。朧家狼夜二号用昼食と書かれていた。


 ……二号?


俺は気づく。


テーブルには記憶転写クローン培養記録と言う題名の冊子が置かれている。


此処はベートーベン月光が遠い。


音楽の無さが不安を運んだ。






第六話投下~現実的に考えるとクローニングの作成は部外者にとって真偽不明なレベルの「同じもの」を作れますが、当人にとっては明確な別人であると思います。


記憶転写技術洗脳技術の有無で思い込む深度は深まりますが別人である断層代えがたく横たわる。


そう思います。


何が言いたいか?


記憶継承はあり得ても同じ人物をクローンで生み出すのは不可能と言う当然を強調したい。


数年前、精神科医のお医者さんが勘違いしている場面に出くわし非科学的なのはどちらか、そこで迷ったので今、自分のスタンスを明確にしたいと言うだけです。皆さまはクローンの可能性をどう見ますか?

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