第三十九話「蟲姫の最後」
―――、時が流れた、―――
決戦日より一か月後。
蟲姫ウームニイ・スビェートは東の守りとして敵本軍を受け止め切った。
蟲姫の城は今や落城寸前である。
双方の首都が陥落した。
今、敵魔物軍勢は生存用プラント設備奪取の為に城を攻め立てている。
帰路無き彼らには前と明日しかないのだ。
その為に勝とうが負けようが城を狙い襲い続けている。
不毛なる激戦に城は崩れ炎が各所で噴いている。
塔崩れ、熱で砲が蕩け燃える。
弾薬庫に火の手が回り大爆発する。
蟲姫は私室にて槍で腹を貫かれ壁に点描されていた。
敵勢に押し切られた証だった。
魔物兵は蟲姫に向け擲弾を放り投げた。
総司令官にして生産者にして設計者である蟲姫に戦闘能力はない。
多くの護衛を殺され私室まで乗り込まれてしまった。
長い時を生きた彼女に終わりが近づいて行く。
「狼夜……私はお前がこの地を守るために戦ってくれたこと……誇りに思う……」
―――、本当はもう少し別の運命が良かったな。
独白は胸内で終わりの売りで甘い幻想を浮かべ彼女は現実に戻る。
「東の守りは闘い抜いたぞっ!」
言葉を一人蟲姫は叫び通信を切る。
魔物の投げ込んだ擲弾が炸裂した。
其れは蟲姫だけでなく私室に隠していた爆薬も燃やし破壊し大爆発を起こした。
意図された連鎖誘爆が始まる。
城が吹き飛んでいく。
城から生産プラントを奪取する為に多くの敵主力が城に接近し内部制圧を急いでいた。
其れが総て巻き込まれる超爆発が起きた。
城も周辺集落も爆発で焼き払われて行く。
メガストラクチャーの政庁舎もまた崩れ爆発に呑まれ多くの崩落を起こしっ真央の軍勢を巻き添えに爆発した。
―――、サバ―カとコーシカを抱きしめ苦しめた集落が燃えて行く。
美しい辺境が焼き払われて行く。
人に帰るべき場所が消えていく。
多くの魔物と刺し違える炎がどこまでも伸びて文明を焼き払い偉大冷酷な東シベリアの荒野に大地が戻って行く。
―――、こうしてここにレナ大河帝国は魔物の勢力と相打ちに成りサハ人は生き延び、入植者魔物はローカルグループとして地球に土着して行く。
高潔なる蟲姫ウームニイ・スビェートは大ロシアの姫として仕事を成した。
其れは少数となったロシア人が生き延びる程度に魔物の数を漸減した後の自爆成果だった。
その恩恵は大ロシアに留まらず地球人が多く享受できた。
しかしそれは何も彼女の幸せを保障しなかった。
このページと共に民族よ姫に黙祷されたし。
帝国業績史
―――、ウームニイ姫の項より抜粋終わり、―――
―――、今は時を戻し決戦に描写を戻す、―――
「五十万召喚」
ガルムの背中で狼夜は呟く。
今、天空。
五十五万の強大な飛竜を支配下に空中戦闘を狼夜は繰り返す。
ただ敵首都を撃墜し内部の病葉楓を取り戻す為に血路を開いて行く。
敵軍勢は奇怪な形の虫染みた空中戦艦を無数に繰り出す。
その艦隊と狼夜の飛竜が殺し合いを続け空は燃える物と炎を吹く物と回避機動を描くもので満たされつつある。
首都の形状は円形城型。
バベル建築にほど近いかもしれない巨塔が数億兵力を吐き散らし天空を進む。
狼夜はガルムの案内で進む。
ガルムと心通わせ蟲姫が狼夜に託した金の蜜が二匹の意志と連携を融合させ精緻な回避機動と突進を可能にしていく。
飛竜の召喚・指揮に狼夜が力の奥を咲かれる中ガルムのウーズィは狼夜の意図を良くくみ取り素晴らしい動きで擲弾を躱していく。
敵首都を守る弾幕は面状制圧も良い所だが弾幕の薄い所に最大速度で突撃し被弾最小に天空を切り抜け走り続ける。
敵空中首都は飛竜迎撃と兵力降下を急ぐあまり指令中枢の狼夜が乗り込む暴挙を見逃した。
弾幕突破も想定外。
仕留められる破壊の弾幕連射があった筈。
ガルムのウーズィは敵国首都に確かに狼夜を届けたが弾幕突破で深手を負った。
敵空中首都の防空砲塔が片隅。
ウーズィは腹から弾幕で引き裂かれ内臓を零し血に沈んでいる。
「クーン」
狼夜は輸血液と回復魔法薬と縫合治療を施す。
兵士用携帯魔法倉庫の在庫を使い治療しながら、ウーズィの首輪をダガーで切り捨てた。
「ありがとう。ウーズィ。もう少し働けるか?」
「わん」
「……済まない病葉楓、お前にとってはコーシカか、こいつの匂いを探ってくれ」
ウーズィは勇敢に吠える。
自分の主のために立ち上がる。
狼夜が見せる覚醒剤を嫌がり痛みの中走り始める。
周辺は空中首都に乗り込んだ飛竜とそれを撃退したがる守備隊の激戦が続き異世界の魔物が作り上げた壮麗な首都が大破壊にさらされている。
狼夜が繰り出す飛竜を首都から排除する為に敵首都随伴空中戦闘艦隊が飛竜へ接近し接射強力な大砲で首都諸共飛竜を穿ち排除して行く。
狼夜が首都に呟く。
「十万召喚」
敵首都内部でいきなり一キロメートル級飛竜が十万から乱杭歯のように生えて這いずり出た。
制空戦闘に五十万使用
大空洞制圧に五万使用
首都攻撃に十万を使用
残りの狼夜のレギオン召喚容量は三十五万まで目減り。
そして無理な召喚を続けている結果狼夜はガルムの背中で血反吐を吐いた。
過呼吸を繰り返し、胃液と血ばかり吐く。
バカ女が馬鹿男から逃れるための過呼吸演技とはわけが違う悪夢めいた凄惨な現場が生まれた。
崩落する敵首都を疾走するガルムの背中が赤に濡れ染まり誰の助けもなく走る。
病院の庇護を戦場に要求するのはむなしい。
隣人の庇護を敵首都で願うのはむなしい。
政府の恩恵を底辺が享受するのは難しい。
地球世界の命運を担う者にまったく支援無き世界は腐った証がそこにある。
自然世界は腐らずただ人の社会が腐っている。
故に狼夜は孤軍で六十五万飛竜を操らざるを得ない。
意味なき正義の為に。
価値無き倫理の為に。
人の怠惰と腐敗の延命のために彼は戦っている。
その虚しさが死の影と成り彼の背後に迫っている。
敵迎撃部隊だった。
首都の内部構造に入る瞬間の待ち伏せ。
四方からロケット砲の斉射と狙撃砲の発砲。
敵の生体兵器群の接近発砲。
狼夜は小銃を操る。
過去の戦闘記憶と鍛錬記憶を取り戻し現代型にレナ大河帝国で最適化処置を受けた彼は魔道小銃で発砲。
弾倉交換を繰り返し三百六十度球状に敵接近弾幕を穿ち誘爆連鎖を起こさせた。
そのまま弾倉交換。
魔力弾を一発放った。
これで残り放てる数は四発。
目標内部構造への生体シャッタ―を爆砕し内部突入。
内部構造が不明なままガルムの魔法的な「嗅覚」もしくは第六感で病葉楓の位置を探る。
ガルムのウーズィは確かに柊の気配と匂いを感じ取っていた。
言語に出来ないのがもどかしくただ吠え猛る。
迎撃装置の弾幕が機能する前に炎を操り煮え溶かし走り抜ける。
空中を小銃手と猟犬が走り続ける、―――




