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第二十三話「年代記と我が世の春」




西暦1941年から現代までの時間、


広大な大ロシアに残された非主流派民族と少数民族はロシア領土の保全と維持を命じられ取り残された。


時代にそぐわない不毛な戦闘を続けている。


かつてのロシア領大半を占める民族は、長い時をかけ少数民族の弱小ぶりを捨て新人類・魔法民族を無数に生み出した。


新興小国家群は各地で勃興を繰り返す。


旧ロシア統治に固執するロシア政府より分離して行く時代にある。


そんな流れも知らず……


病葉楓を宿した奇形兵器、ガン・ブレードを背に狼夜はロシアの空中要塞を破壊。


捕虜を一人蟲姫で取った。


要塞化工場群を歩み地上に出た。


天空に広がる味方空中艦隊に拾われ狼夜は軍団長に叱責を受ける。


「貴様に命じたのは、空中要塞にパドゥプを嗾ける所までだ。誰が軍功を独り占めにしろと言った?」


 そう叱責されたが軍団長の戦姫、チャージェスチ・メロゥーディアは嬉し気に狼夜を見つめ指揮棒で頬を一度鋭くぶち鼻血を出させることで許してしまった。


捕虜にした蟲姫とガン・ブレードに宿ったパドゥプに人権を付与し国負担で人がましく保護してもらえる代わりに狼夜の軍功は取り上げられた。


サハ人王国。


レナ大河王国の貴族シュールチス伯爵家の怠け者と評判の戦姫チャージェスチ・メロゥーディア軍団長に全ての軍功は帰した。


その後すぐに次の戦場を紹介された。


一年間荒野を狼夜は彷徨う。


多くの旧ロシア統治機構と戦火を交えた。


無人砲台ばかりの都市を陥落させた。


荒野の農園を守る魔獣軍団と斬り結ぶ。


旧ロシアが生み出し、長い時をかけ傭兵団に零落した魔導機械化兵団と死闘を繰り広げた。


盗賊となった現地住民を討伐し、森林地帯の大きすぎる範囲に土着・狂信化した未開部族のバーバーヤガーに武威を示す。


虐殺か服従かを選ばせる。


レナ大河王国領内部の諸勢力を平定する戦争に従軍。


狼夜は主に魔物を殺して人対人の戦争から逃げ回った。


 基本的に狼夜はシュールスチ家領内の治安回復・侵攻軍迎撃・魔物退治に動員されるだけで済んだ。


 だが、厄介な諸侯軍や地形に出くわすと嫌が応もなく最前線の戦姫の求めで参集した。


狼夜は、戦場にて浮砲台の大きな設備に寄りかかり七分の休み時間を味わう。


太陽を見つめる。


 出撃まで……


人対人の戦場を見ない為に太陽ばかり見つめる偽善と臆病のまま時間通りに動き出す。


戦塵に塗れた重たい体を動かした。


浮砲台百基の砲身が照準指向する戦場へパドゥプを召喚した。


 一年かけ、戦場の魂をたっぷりと食べて増強されたパドゥプは今までにない巨体で走り抜ける。


三つ首より超低温衝撃波を延々と放ち敵軍勢を蹂躙して行く。


狼夜は彼女の蹂躙した戦場を戦姫の騎士団と共に進む。


残された都城に立てこもる敵兵団長とその家族に降伏を求める。


命令で殺した。


 蹂躙と言ってよい戦闘が城塞都市で起こり、多くの兵士が要塞構造と共に爆破された。


進軍するほどに燃えて行く城塞都市。


狼夜は先兵として召喚兵を生み出し突き進む。


多くの戦士と従魔を打ち砕き、主塔内部を進む。


通路は炎と無数の血濡れの死体が量産された果て。


城主は降伏交渉と偽り狼夜をさらなる内部に引き込んだ。


敵兵団長が繰り出した室内砲四門の奇襲砲撃を躱しざまに高機動で城主を打ち取る。


兵器として奈落の獣のような早すぎる剣さばき。


砲撃で燃え上がる城主の部屋内部で兵団長を四分割して倒した。


父親を失い悲嘆にくれる家族の泣き声を聞いた。


狼夜は背中が無言で俯きその場を去って行く。


そこからさらに三年かけて戦場の魂を、焼かれた村で見つけた。


魔道的に素養溢れた女の死体へ軍令通りに運ぶ。


女の死体は研究所に運び込まれ多くのサハ人研究員の手で美しい女のアンデット兵器改良したのち、再度狼夜のもとに引き渡された。


狼夜が召喚したパドゥプに兵器化した女の死体を与えた。


パドゥプは嬉し気に女の死体を魔方陣吸収。


自分の第二の体として支配吸収した。


この時より狼夜四号は悲し気に心へ引きこもる時が増えた。


「どうした?蟲姫がお前を訪ねて来たのだ。歓迎せよ」


 狼夜と柊の厭戦気分に気付かない脳改変を受け所属意識を旧ロシア連邦からレナ大河王国へと改変された蟲姫ウームニイ・スビェート。


彼女は小首をかしげロウヤを見上げる。


「、、、焼き菓子がある。食べて行くか?」

「もちろんだ。蟲姫はお前たちが好きだ」


無邪気な笑顔を受ける。


ウームニイ・スビェートを見つめられ狼夜は耐えられず扉奥に振り向く。


「柊来客だ」声を発し狼夜は奥へ蟲姫を案内した。


あえて住むオンボロアパートの扉を開く。


未だに低身長過ぎる姫を室内に招く。


テーブルに備え付けた木材に塗り込んだニス美しい椅子に姫を座らせた。


そこからはロシアンティーとオリジナルのナッツ入りジンジャークッキーで歓迎した。


―――、其処からさらに十年戦いは続いた、―――


 戦域には従軍義務を与えられた。


脳改変を受けた蟲姫ウームニイ・スビェートも動員された。


彼女の周りにはシュールスチ家の誇る大型蟲兵生産プラントが空を漂う。


狼夜が現地制圧した土地へ蟲兵を放ち続け占領地の確定と土地改良を行う。


多くの魔物化した現地住民を恐怖の名のもとに支配して行く。


シュールスチ家は兵団主力を諸侯との内戦に投入した。


主力の多くはシュールスチ家の領土を保全する。


その為に分散配置されていた。


が、狼夜と蟲姫を得たとこで戦略を変更。


多くの分散していたシュールスチ家の軍を別の諸侯征服事業に振り分けた。


無防備となったシュールスチ家領内の多くを占める環境であるモミと松とカラ松とトナカイと大量の妖魔の世界に進軍。


狼夜四号と配下の蟲姫を投入して貧民を集めた。


多くの増えすぎたサハ人が兵器と開拓装置を携えた。


土地の主である妖魔を狼夜に打ち取られた。


この成果をてこに近代化を目指し領内開拓を進めた。


内戦化していた諸侯。


彼らは日の出の勢いで進撃してくるシュールスチ家軍隊に苦慮している。


諸侯のある者は領地を捨て逃げ、ある者は滅ぼされ、ある者は服従した。


ある日シュールスチ家の都城にて狼夜は戦姫チャージェスチ・メロゥーディアの命令で彼女と閨を共にした。


ベッドで薄着のままの彼女に彩色とデザイン優れる深紅の編み上げブーツを履かせていた。


「なあ、いつまで俺はこの地で戦わなきゃいけない?」


「柊を人型に戻しお前はさっそく泣き言を言うのだな?」


「長い記憶が継承され過ぎて俺の精神は既に老人だ。柊もまた最近は殺しを嫌がりむずがる」


戦場の柊を思い出す。


彼女は刃を振るうたびに、目を伏せるようになった。


それは、兵器が人に戻ろうとする兆しだった。


言われたシュールスチ家の戦姫は窓辺に出た。


狼夜の焼いた戦域を、指で示す。


 茫漠たる砂漠と森林が都城の尖塔より眼下に広がりそこに一千万と十の民を収容した都市が在ったようには見えない。


 皆死んだ。


狼夜が殺し柊が蹂躙し、蟲姫が植物と昆虫を植え付けた無人の世界だった。


「虐殺者が今更何を恐れるっ、、、貴様は永久に私のモノだ。お前は私を満足させたのだ。責任を取って私の愛玩具兼兵器として侍ろ。閨で私を満足させたのだ。娘も息子もいらないと決意させるほど魂を燃やし蕩かせたのだ。永遠に生きてもらうぞ?愚かしくも、冥界に旅立ちたいのか?殺した者が復讐望み地獄で待ちかまえる冥界へと旅立つと言うならば、止めないぞ?どうした?自殺はまだか?」


 狼夜と柊は上位者の無理難題に俯く。


シュールスチ家による十四年の征服事業の結果……


レナ大河王国はシュールスチ伯爵家に逆らえない国となる。


多くの諸侯は敗軍を根拠に、王ではなくシュールスチ家に忠誠を誓う。


諸侯に忠誠を誓わせたシュールスチ伯爵家当主クルイークは、レナ大河王国の国王を「皇帝」の地位につけ傀儡化。


皇帝を美女と麻薬に塗れた後宮に押し込んだ。


皇帝の更なる無能化を強要。


国の実権を宰相として握る。


新たな領土獲得戦争を計画して上奏。


宰相は書類に嗤う。


皇帝が意識朦朧とさせたまま捺印した許可の帝印魔道書類を美文で手にした。


クルイークは我が世の春を迎えた。


だがその春は、血と魂の上に咲いた。


誰も祝福しない、勝者だけの季節だった。





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