第十八話「娘と空中城」
俺は風の吹く草原に出て一本の木に寄り添う。
ここまでついてきてくれて不満を一切言わない病葉楓と一緒にイタリアの騎士になる返事の手紙を読み返し封をしてイタリア首都に送った。
その半年後、出戸加奈侯爵は寿命を迎え若々しい美女姿のまま死んだ。
その後を引き継いだ出戸彩芽侯爵は戦場と城を行ったり来たりする世間知らずの令嬢兼ソルジャに過ぎず。
家臣団の操り人形として生きたとラジオは伝える。
神威大帝国は限界を迎えつつある。
支配下に置いた中国大陸・旧ロシア領含め戦国時代に突入。
現状に出戸彩芽は適応できていない。
出戸加奈が長年鍛え広げた領土をどんどん新興覇権領主に削り取られた。
出戸侯爵家は急速に没落していく話をラジオは定期的に放送する。
俺のDNAを引継ぎ、血のつながらない娘出戸彩芽はライバル諸侯が繰り出した次世代兵器群に敗北。
深手の傷を負い戦線離脱。
この時、道に迷い友軍を離れ一人の身分違いな農民エルフ男性に助けられ恋仲となり三年後妊娠出産。
侯爵と農民の間に出来た不義の子供な為に神威帝国国籍を剥奪された。
赤子は神威大帝国を追放。
俺を頼りに長い旅を飛行機械で続け赤ん坊はイタリアジェノバにたどり着く。
顔も会わせない娘より多額の財産と一通の謝罪の手紙を持たせられた赤子は俺をキョトンと見上げる。
男の子だった。
俺は苦笑しつつ赤子を孤児院に財産付きで送ろうとした。
すると新生イタリア王国騎士としての寛容と信仰心を説く神父様の説諭三日で俺は改心。
保護し、親代わりに過ごす。
赤子は名前すらなかったのでバンデーレと神父様に名付けてもらう。
何でも由緒あるイタリア歴史に登場する偉大な黒騎士から名を借りたそうだ。
俺は彼を射撃能力ある剣士として鍛えた。
俺の家臣団は次期子爵家当主として熱心にバンデーレを教育して俺には教えなかった子爵領統治方法を授けた。
二十年後、俺は、俺に懐きすぎる孫のバンデーレに子爵領を譲り渡した。
貴族当主を引退・イタリア騎士の地位も返上。
病葉楓を連れ百何十年ぶりに神威大帝国に帰国した。
何故なら神威大帝国はついに諸侯の統制に失敗して内戦のただなかにある。
首都東京は蹂躙される戦場を味わい権威を失墜する敗北を喫する。
東京を抑える事で図抜けた侯爵として君臨していた出戸侯爵家は東京失陥と言う決定的敗北のもと瓦解した。
侯爵家当主、出戸彩芽は降伏を良しとしなかった。
なおも残存戦力をかき集め徹底抗戦。
侯爵家中枢の城型空中要塞を枕に鎮定軍を相手に防戦中。
俺は娘の彩芽を助けに内戦で崩壊して行く神威帝国に向かう。
新生イタリア王国船籍の飛行機械に積まれた輸出品の魔道具と共に長い時をかけ神威大帝国へ密入国成功。
東京にある空港は戦争で煤けているが機能は残る。
無事に新生イタリア王国船籍ロンバルディア号より降り立つ。
地元マフィアの保有する旧型戦闘用高速飛行機械を購入して乗り込んだ。
操縦を病葉楓に任せ俺は重装備で貨物室に待機した。
この百数十年で病葉楓はレトロゲームの空戦シミュレーションに嵌っていた。
結果、新生イタリア王国空軍の戦闘機パイロットテストに合格する腕前に至っていた。
暇人に趣味を与えると変な才能が目覚めるらしい。
彼女の凶暴合理的な戦闘機動に振り回されつつ弾幕を回避していく。
陥落しつつある空中の「城」を目指し戦線を突破して行く。
空中を飛び交う兵器群は激しい空中戦闘を繰り広げ被弾しては炎を吹いて墜落。
ここでも出戸侯爵は不利であるらしい……
侯爵家空軍は多くの迎撃機を繰り出した。
しかし、兵器として飼い慣らした敵高位ドラゴンに焼き尽くされて行く。
空中要塞は激しく対空砲塔を動かし砲身も焼けるほど連続で対空砲弾を放ち続けている。
が、大きすぎるドラゴンに効果は薄く嫌がらせにしかなっていない。
長い防戦で空中要塞は魔道障壁の発生エネルギー源を喪失。
バリアの無いまま城壁を盾に戦い続けている。
頼みの綱の超大型魔道砲は照準機構が旧世代化していた。
次世代型ドラゴンの高機動に照準が追い付かず普通に初弾を外し東京郊外に弾着。
猛爆発で巨大すぎるクレータを作った。
後、巨大な砲は次弾再装填に時間を取られる無能を曝している。
空中要塞は複数の空中戦艦に接近され猛砲撃受けている。
48基ある対空砲塔の一部を破壊された。
城壁を崩しつつあり空中型強襲揚陸艦が壊れた対空砲塔の死角から接近を試みている。
敵軍勢は兵力を空中投射・空中要塞内部を攻略する兵員を送り込んでいる。
これは……デッド・エンドかもしれない。
空中要塞内部各地で激しい白兵戦と近接戦が発生し戦闘煙が各所に発生中。
どうやら侯爵軍所属の空中戦艦は敗北で払底しているか別戦線に投入された。
この戦闘は空中要塞と迎撃機だけで戦わねばならない様だった。
大昔に購入した球体クリスタル型ラジオは緊急放送を放送。
出戸侯爵軍への降伏勧告放送ばかり繰り返している。
狼夜は運搬されつつチャンネルを変えて有志による戦況中継に耳を傾け時間をじりじりと潰した。
―――、俺は楓の操縦で空中要塞にたどり着く、―――
楓と共に降下して空中要塞に降り立つ。
軍団を666個の魔法陣より放出。
神話の猟犬ガルムの巨獣を模した猟犬を大きさ六メートルで生成しては二千体放つ。
侯爵軍の空中要塞各所の白兵戦を介入させた。
俺も走って司令塔中枢にいるであろう出戸彩芽を探した。
かつて加奈と過ごしたこの城の廊下。
今は砲煙に包まれ、記憶の中の静けさはどこにもなかった。
―――、朧家狼夜は突き進む、―――
爆炎と崩落と砲弾と被弾墜落して行く飛行戦闘機械の不時着とまだ健在な対空砲塔の猛烈な射撃音。
天空舞うドラゴンが高速接近成功。
ブレスを口に蓄え空中要塞を一撃で焼き払いにかかる。
タッチの差で超大型魔道砲が再装填完了。
長大な砲身が旋回。
砲身先端を持ち上げる柱がどんどん伸びて仰角修正。
ドラゴンの腹に照準成功。
超大型魔道砲は敵砲爆撃にさらされ傷つきつつも発砲に成功。
大型超高威力魔道弾が輝き突き進み、弾着。
兵器化次世代高位ドラゴンは鱗も骨も貫かれ内部まで入り込んだ魔道砲弾の大爆発で爆散。
燃え上がる大きな肉片を空中要塞中にばらまいた。
超威力の魔法弾爆発で大きすぎる衝撃波を空中要塞は受けた。
俺は爆風と大音量の爆発音と衝撃波の中、先へ先へ進む。
出戸侯爵軍と敵対した上陸兵を横から襲う。
魔道具化ガン・ブレードで両断と魔道砲撃で高速撃破。
一歩たりとも足を緩めず高機動進出を続けた。
侯爵家の小銃兵が中隊規模で立てこもる中庭前の兵舎。
それと打ち合う敵機械化兵団の繰り広げる死闘と爆炎にさらされ突っ切る。
空中要塞の中枢である主塔へと入り込む。
内部で迎撃準備中の侯爵家軍の警備兵に咎められ発砲されつつ司令部を目指す。
懐かしい豪奢な部屋と通路と階段を突っ切り病葉楓に囁かれる。
「ここじゃない、侯爵様は重症のまま戦闘用六号出撃塔から出撃しようとしている。案内する」
そう言って超常の知覚系を持つ冬精霊兵器病葉楓は空中を進む。
頑強な魔道障壁を展開。
高速浮遊して狼夜より先行し侯爵軍兵の四肢と兵器を凍りつけにして殺さず戦闘不能化。
侯爵兵が放つ小銃弾と魔法弾と歩兵牽引砲弾をはじき始めた。
狼夜は病葉楓の案内に従い侯爵兵に反撃せず回避と移動に専念、高速跳躍を繰り返し多くの建造物を跳び越え病葉楓を追いかけ続けた。




