第十七話「欧州と落日の侯爵家」
ネオ沖縄の機械都市より離陸して行く空中艦隊。
彼らは寄港・無補給での地球半周を成し遂げイタリア半島に上陸。
それまでに大型飛行魔獣に無数の襲撃を受け艦隊はボロボロに成ったが辛うじて脱落艦を出さずにヨーロッパの大地にたどり着く。
無数の日本人が観光客ではなく軍団と入植者としてイタリア首都「七つの丘の都市」の廃墟に降り立つ。
人類史で初の超大国ローマを建国したイタリア人は多くが先祖返りし、古代人姿で空中に浮かぶ艦隊を歓迎した。
兵団を受け入れ国王のヴィットーリオ・エマヌエーレ128世の王宮に日本貴族だけを案内。
国王はそこで欧州の切り取り自由を確約した。
その代りイタリア半島に巣くう魔物討伐を依頼された俺たちは早々と軍団を進出させる。
イタリアの八割を占めるアペニン山脈の地形に兵団は突き進む。
多くの魔物を駆逐するまで五年をかけた。
結果、神威帝国所属遠征軍は第二ガリア州へ進出。
現地有力勢力とも接触に成功。
スペイン独逸フランス旧領を統一した第七フランク王国に接触を開始。
第七フランク王国は国土肥大のせいで統治不能な戦国時代を迎えていた。
その地の平定に弱兵の軍団は苦戦した。
その間に俺はイタリアに残り、魔物討伐を進めた。
滅びたジェノバ都市遺跡を国王より与えられる軍功を掲げ出戸侯爵家より出向した日本人技師文官二千名を配下に引き連れ進む。
山岳植民開拓に現地イタリア人貧民を招く。
ジェノバ都市遺跡の魔道化都市再開発を始めた。
俺の仕事は低コストな異形の軍団召喚能力を生かし現地に根強く残る強力な魔獣の撃退で有る。
更なる責務として、男爵としての統治能力は期待されずもっぱら荒野と遺跡化したジェノバで兵役に就いた。
現地には小さなダンジョンがある外、多くは静かな森ばかり佇む。
森の木々は魔力の影響で千メートルのサイズまで育ち森内部は多くの巨大魔獣と魔虫を内包。
人類の進出を阻む。
かつてのリグーリア州の広大な面積が大きすぎる木々に埋もれ平野部の開発は遅々として進まない。
だが二十年かけて俺たちは魔獣討伐を進めた。
イタリア人入植者は魔物討伐成功で回復した治安の恩恵を受けた。
神威帝国より運ばれてきた魔道具を頼りに山を崩し巨木伐採を進め平野部を作っていく。
貧民入植者は食糧供給源の畑と牧場を作って行く。
ジェノバ五十万人都市復興までにさらに百年かけ俺は、伝説に挑んだ。
二十世紀末。
魔力流入で復活強化したジェプレングの魔獣によってイタリア共和国を滅ぼしたと言う伝説残す魔の森と魔獣の討伐を百年かけ成功。
現地の住民を保護。
制圧された土地をイタリア国王に献上、歓心を買い現地に馴染む努力を続け少し疲れた俺は百年生きても死なない。
肉体は若いままだった。
自分に流れる人造人種「エルフ」血統の助けを借りて若々しいまま戦った。
結果、魔物討伐と都市復興を評価されイタリア国王より子爵の爵位を授けられた。
新生イタリア王国は現在、神威帝国が現地に作った大学より提唱する機械化と魔道化が進み繁栄を極めた。
結果、神威帝国の属領としてのイタリアにイタリア民族は不満を持ち始め、国力に見合う独立国を志向し始めた。
その流れでしきりに国王より打診を放たれた。
俺に神威帝国の男爵であることを辞めイタリア所属騎士になる誘いを国王は続けた。
神威帝国はその頃、中国大陸と旧ロシア領の統治失敗で乱世を迎え混乱している。
クリスタル二センチ球のラジオが伝える日本列島情勢は本日も不穏。
俺は自分の娘が無事か気になる。
ラジオの向こうで笑う娘の声が、俺には遠すぎた。
その声を聞くたびに、俺は“父親”という言葉の意味を忘れそうになる。
神威帝国の電波放送を受信するクリスタル球二センチの放出する映像と音声に耳を傾ける。
神威帝国の侯爵家次期当主の出戸彩芽の情報に耳を澄ませる。
彼女は学園を首席で卒業後出戸加奈侯爵に娘として認められた。
父親不在の欠落の影口をラジオでやんわり叩かれている。
彼女は貴族としての階梯を順調に歩む。
出戸彩芽は神威帝国有数の美女であり兵器である二面性を兼ね備えた存在として認知され一般庶民とは違う世界で優雅な生活を送っているそうだ。
そんな娘の姿が想像がつかず俺は未だタンクトップとワーカーズボンを家臣から窘められている。
趣味となった読書にイタリア・バロックオペラの「セルセ」を読んでいたが頭痛がして切り上げる。
本の中の、派手な生き方の王様はさすがのペルシャ王セルセにだけ許された特権である。
俺みたいな百年働いてやっと貴族に叙勲される無能には無縁な恋物語に感じた。
屋敷を出て見上げる空には新生イタリア王国の誇る最新鋭艦の空中戦艦が第七フランク王国を助ける為に出征して行く。
神威帝国から派遣された百万陸軍はイタリア復興を成功させて後はパッとせず終わった。
旧スペイン領と旧ドイツ領と旧フランス領にまたがる大きな国土の小さな国力国家、第七フランク王国の支配に失敗していた。
第七フランク王国は狡猾で、援助物資と知識人と戦士をただ取りされて神威の兵団は現地吸収された。
神威帝国の百万陸軍は出自からくる無教養とフランクの手練手管に騙された。
兵団は、第七フランク王国を成長させる養分として穏健に土着してしまった。
この地に派遣されていた神威大帝国所属空中戦闘艦のクルーは技術と教養を兼ね備えていた。
彼らは反吸収派に成り上がれるポテンシャルがあった。
が、乗り込んだ船自体がもともと老朽艦でもある。
百年の間に船は活動限界を迎えヨーロッパ各地に不時着放棄された。
船を失いクルーは現地にて知識を生かし技術士としてフランクに庇護され神威大帝国への忠誠を忘れた。
神威帝国の非主流派の運命と未来を担うはずの派遣部隊は百年を経てヨーロッパ各地に分散・現地吸収された。
結果、神威大帝国によるヨーロッパ属領化計画は失敗に終わっている。
遠征は失敗した。
がヨーロッパを股にかけた神威大帝国の百万兵団と入植者たちは多くの魔物を駆除成功。
祖国より運び込んだ大型魔道具を使い現地に無数の人類圏を再構築成功。
多くの生産都市と大学都市を生み出した。
為にヨーロッパの住民と諸国から兵団の末裔は何とは無しの敬意と好意を獲得。
神威大帝国と新興ヨーロッパ諸国間の遠距離通信は活発化し現地の詳細情報を得やすくなった。
ヨーロッパの属領化は失敗。
しかし、ヨーロッパの新生諸国隆盛と同盟に神威大帝国は成功。
神威大帝国との長距離貿易のために大型空中貿易艦とその護衛の空中戦闘艦建造計画が欧州各国で立ち上がっている。
流石に無寄港無補給のユーラシア大陸横断飛行移動は無謀と判断された。
中東にある神聖ユダヤ王国とダマスクス魔道王国。
双方の空中都市から補給を受ける航路の作成に外交交渉は活発化。




