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第十六話「ラジオとチープポリティクス」




彼女は長い説明を始めるが、凛々しく澱みが無かった。


―――、私の兵器としての素質とお前の兵器としての素質を兼ね備えた次期出戸侯爵候補が欲しかったそうだ。


蓄積された戦場記録と採集したDNAを使って遊んだ者がいたようだな。


家臣団の暴走だ。


幾人か処分したが結局止めるのは遅かったようで東京研究所で成功ルートのDNA選択を終え設備は個体生産してしまった。


私もまた生産されてから幾百年以上過ぎている。


最近は性能低下に拍車がかかり体調も悪い。


統治も家臣団に任せっぱなしだった。


私自身、お前と言う愛人にうつつを抜かし本領に作った小さな館に引きこもり遊んでばかりだ。


その隙を突かれてしまった


―――、そう言うと侯爵は赤子を保育器から取り出し抱いた、―――


赤子は耳が長く俺のDNAを反映し、大きく角が額より生えていた。


俺はここでは直属兵の伍長でしかない。


沈黙しか許されず赤子にも触れられず加奈の説明を聞ける事だけが特別扱いの証拠だった。


エリート官僚で加奈の腹心師岡良平が言葉を引き継ぎ俺に説明した。


―――、俺は対外的には武功輝く直属兵。


だが侯爵家臣団には俺が侯爵の愛人だとはバレバレでかなり恨まれている。


出戸加奈は有能で優秀でこれからも長くエルフの性能を生かし統治者として君臨し危機に在っては総軍の象徴として突撃してもらわねばならない。


そんな英雄が道を踏み外す様に俺にのめり込み遊びだして統治をないがしろにしたのは侯爵領の家臣団には許し難い堕落。


そんな堕落を英雄にもたらした俺は殺しても殺したりない害虫だそうだ。


赤子に会わせたのは家臣の慈悲。


遊んでばかりで仕事をしない侯爵に反省を促し、侯爵の地位を引き継ぐ素質もつ赤子を見て危機感を持って欲しかったらしい。


おれは以後、俺のDNAと加奈のDNAを引き継いだ赤子に会えなくなった。


危険度の高い遠すぎる土地にある同盟小国に派遣される。


理由としては侯爵をたぶらかした罪で懲罰運用が軍法で適応されるからだそうだ。


侯爵との甘い生活も今日で終わり。


東京にある侯爵の本領に二度と足を踏み入れてはいけない。


そう言われた。


その代わり加奈侯爵の希望で手切れ金に最強の装備と男爵の地位と財産と領地を与える。


その代り朧家狼夜クローン三号は、二度と侯爵の前に顔を出すなと言われた。


俺はクローンの兵器だが、今の時代、似たような出自に人権を付与するのは普通になっている。


そして、俺を改造完成させた侯爵の執念もあり俺の成長率は侯爵の性能すら凌駕しかねない。


これは日本を平定した英雄加奈の価値を曇らす不都合な事実であると同時に政治問題である。


戦場しか知らず命令に従う事に成れっこな俺は操り人形としてはそれなりに操縦しやすい。


上手く操縦して新興武装組織の頭に収めれば武力を背景に加奈侯爵のライバル勢力構築、その基礎になるやもしれないそうだった。


少なくてもそれを考え過ぎと言えないほど現在の日本列島の政情は不安定。


野心ある日本の諸侯は多いのだそうだ。


そんなお偉方の話を急にされても俺にはついていけなかった。


空を飛ぶ城も、


豪奢な部屋も、


未来過ぎる保育室も、


初めて見る豪華な侯爵加奈の当主服も、


まだ名前も知らない赤子も、


俺を説得する師岡良平の憎悪が灯る瞳も現実感が無かった。


只、師岡良平が示す指の先。


法執行効果がある重要書類を複数見せられサインを求められる。


書類の現実に引き戻された俺は沈黙を続けるしかなかった。


そんな状況の中、師岡良平の言葉は続く。


最近企画された戦争に参加されて武功を掲げる前に出国して欲しいそうだ。


日本列島での魔物戦争は終結しつつある。


だが日本の諸侯は長年の魔物戦争で鍛えた武力を過剰に抱えたままで、いつ過剰戦力と戦意を暴走させるか判らない。


戦国時代が練り上げた武力は平和には過剰すぎて平和の危機を招いている。


と―――、言えた。


諸侯が暴走する前に過剰な戦力と戦意の消費先として、諸侯の総力を挙げた海外侵略戦争が計画されている。


狙いはロシア・中国領域を融合した新大帝国建国である。


その野心的侵略計画に俺に参加されてしまう前に、男爵として東京を離れる。


その代り、


侯爵家は一部財産を分与、


出戸侯爵家財産、


冬精霊兵器「病葉楓」を朧家狼夜の財産に組み込み、


メリット薄い地球の裏側ヨーロッパ戦線に投入されるらしい。


ヨーロッパは言葉の違う異国、ピアノ名曲の巨匠を生み出した土地としか知らない俺は口をポカンと開いてあっけにとられた。


無視して師岡良平は話しを続けた。


諸国にはかつての西欧列強の力はない。


古代の蛮族じみた小国が林立するばかり。


そこに日本の継承国家「第五神聖帝国」の後継「神威大帝国」に所属する空中艦隊を派遣し「再文明化」を促すのだそうだ。


その傲慢なる野心を叶える無数の先兵の一人として男爵身分で派遣されるのが俺だと彼は言う。


遠征距離は長すぎる上に戦いが長引くと予想されヨーロッパを属領にする計画が上手く行くかどうか不明。


だが、日本に過剰に集まった戦力の消費地は多い方が良いのが現状だそうだ。


俺は話しの中身の意味を考える前に頼みごとをした。

所詮、一兵卒の俺にそんな大きすぎる話は理解不能。

だからやつの話をぶった切る。


俺には軍団精製能力はあるが運用は常に司令部の指示に従うのみ。

俺自身に戦略理解能力と戦略構築能力が在る訳ではない。

それよりも、、、


「師岡様頼みごとがあります。俺の子にプレゼントさせてください」


 師岡良平の返事を聞かず俺は加奈に近づき加奈にクリスタル球二センチのラジオを手渡した。


「この子に大きくなったら俺からのプレゼントだと言ってくれ、頼む」

「安物ラジオか、、、まあいいだろう」


そう言って悲し気な加奈侯爵は承諾した。


加奈はラジオを受け取り、ほんの一瞬だけ目を伏せた。


その瞳には、後悔とも諦めともつかない光が揺れていた。


侯爵家の子供が喜ぶものとしては落第だろうが他に手持ちがない。


こんな事に成るなんて知っていたらもう少し気の利いたプレゼントを買ったのだが悔しいが出来る事が他にはなかった。


 その後俺は書類にサインを行う。


病葉楓を連れて連絡船に乗り込むとネオ沖縄にある空中艦隊根拠地へと運ばれた。


連絡艦は素早く進み短時間で沖縄の海が見え始めた。


最新の侯爵家研究所が作った最強個人兵装を収めたケース片手に男爵待遇でホテルに泊まる。


初代朧家狼夜の夢を飛び越え俺は男爵に成った。


高階層にある部屋から空中艦隊が停泊する空中桟橋を見つめた。


遠征用空中戦艦が大型老朽艦ばかり五十隻もいる。


その中で現地にて駐留する予定の陸上兵力百万を運ぶ飛行型強襲揚陸艦が無数に港を満たしている。


港からあぶれた弾薬その他物資運搬艦の多くは上空待機中。


地上では集結した兵士や軍団に物を売る沖縄住民も多く見かけた。


景観一部では治安悪化を理由に過疎化しさびれて遺跡じみた都市構造がある。


 ヨーロッパ現地では滅亡寸前の国が多い。


結果、地球の裏側にある島国の属領に成る空手形に応じる国は多いらしい。


 人が新しく魔法の素質に目覚めたまでは良いが、新人類の兵器化軍人化はまだ手探りな国が多い。


むしろ突出した個人が突然変異で発生しては魔物を駆逐し諸侯領や王権が成立。


その個人が寿命で死んでは武力が失われ魔物勢力に負け国家崩壊とそこから永い時を掛け王クラスの突然変異発生を経た国家勃興をヨーロッパは繰り返しているらしい。


神威帝国所属遠征用陸上兵力百万は多くが貧困階層出身。


練度低い訓練未了兵ばかりで武装も貧弱だった。


少なくても男爵権限で与えられる軍事情報ではそうとしか描かれていない。


 日本列島に無数にいる弱小勢力の三男坊やら四男坊やらがお仕着せの旧型魔道兵装と旧型騎乗用戦闘合成生命で身を飾る。


実家から弱兵と僅かな軍資金を押し付けられ結集した百万兵団は神威帝国の主流と時流から外れた天下御免の落伍武装集団だった。


日本列島に林立する諸侯領。


彼らをまとめる神威帝国執政府の目的。


政府はこの遠征で日本列島の不穏分子や愚か者を遠くに送り出して帰還不能にする効果以上をこの軍団に期待していない。


そうとしか計画書は俺には理解できない書類を読み終わると夜だった。


俺はベートーベンの「エリーゼの為に」を選曲して耳にピアノ音楽を流し込む。


せめて、音だけでも優しい世界に浸りたかった。


 いわゆる棄民政策に俺は選ばれたみたいだ。


 無念だったが楓と言う庇護すべき友人兼強力な兵器がある。


主であった加奈より贔屓の引き倒しで最新の個人兵装を奢ってもらえたのだ。


無駄死にはしないだろう。


そんな風に狼夜男爵は思い直しホテルの割高で不味い飯を喰い楓と一緒に狭いベッドで寝た。

 


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