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第十四話「リボンと休日」




それから時は十年流れた。


英雄加奈の配下兵「単独兵団」の異名を与えられ俺は侯爵の側面もつ加奈の護衛として楓と共に傍に侍っている。


その結果、少し政界情勢に触れられた。


現在のユーラシア大陸は、世界で生まれた小国家群を連結する遠距離魔道通信成功による外交の季節だった。


また近隣国が連携して軍を出し合い魔物を倒している。


迷宮を打ち破り迷宮内部の超技術と貴重なデータと魔法資材を無数に回収する発展期にある事に気づく。


日本列島の日本人は長い地下での都市生活をやめて地上に出て行く。


多くの兵士や戦士が軍団を構築して魔物を駆逐。


億万の入植者が荒野を開拓する新時代だった。


俺はそれを助ける為僅かな休日を切り上げ荒野を進み戦いを続けた。


魔力の影響で育ちまくった高さ五百メートル級魔妖樹の大森林地帯での闘争三か月後。


ドライアド化した難民を保護して館に帰還。


俺は受け取った給料でリボンと金細工とワインを買った。


リボンを病葉楓に見せ彼女の長すぎる髪を結いあげてプレゼント。

休日の自室で見つめ合う。


「可愛い?」


「ああ、可愛くなった。君は給料をもらっているのか?」

「貰っていない」

「そうか」


 この日、金細工とワインを加奈に捧げ歓心を買い病葉楓の待遇改善を訴えた。


ランプの幻想的な薄明かりの中、侯爵は苦笑して病葉楓に人権を支給し正式に俺の無給奴隷従兵に付けると言い出した。


俺は沈黙する。


小学校に通わせてあげられないか?


そう言おうとしてできなかった。


加奈侯爵の顔が貴顕の威厳と上位者としての顔を見せ厳しく俺を見つめ反論を封じていた。


うつむく。


俺は部屋まで聞こえる自動ピアノの前奏曲を意識しながら普段の夜を過ごした。


次の日から俺は自分の給料を半分割いて病葉楓に与えた。


彼女はキョトンとした。


口座手帳と引き出し用暗号ナンバーメモを受け取り使い方がわからないのか口座手帳に落書きを始めようとした。


「辞めろ馬鹿」

「どう使うの?」


「現金引き出し端末か銀行にもっていけばここに記載された金額のお金を引き出せる。その金でアイスクリームでも買え」


「何でくれるの?」


「労働には報酬があったほうが良い、無ければ擦り切れるばかりだ」


「アーシのこと心配なんだ」


 そう言ってくすくす笑い口座手帳を受け取った。


 翌日には彼女は簡単に手続きを済ませ現金ではなくより便利なネットと口座を繋げるお財布機能を個人携帯端末にインストールしてしまった。


機械音痴で古臭い俺はその決断の速さと手早い手続き動作と慣れた機械操作に舌を巻いた。


 次の戦場までの休日が始まる。


俺は久しぶりに人の都市を一人で歩こうとしたところ侯爵に言われたのか楓がついてきた。


俺の渡した給料をさっそく使ったのか、かわいらしいアニメキャラをプリントした全体的に赤い子供服を着こなし茶色いキャスケット帽を被る。


「メカニック・ロールと呼んで」

「何故」

「貴方はロックで私はロール。二人合わせてロックンロールちゃん」

「何の冗談だ?」

「古い携帯ゲームを今やってるんだけども、楽しくてあーし嵌っちゃった。給料アリガトウゴザイマス」


 太古の平和な日本国の誇るTVゲームの復刻版を買ったらしい。

 俺は詳しくないので首を振りとりあえず言った。


「ロール、ちゃん?ついて来るなら、拳銃くらい持て、この都市に流入したコボルト型人類は友好的だが酷く粗暴で残虐でもある。護身武装を見える位置に装備して威嚇しろ」


「メカニックに必要な物は武装ではなく開発予算とレンチなのだ。まあ本当はあーしの氷魔法にかかればチンピラなんて万単位で氷漬けだしいらない」


 俺は立ち止まり彼女のキャスケット帽を奪い、指を突き付け言った。


「戦場でのお前は戦略級の凍結殲滅用ソーサラーだった。そんな力を同じ人類の都市で使うな」


「拳銃を買ったらお菓子が買えない」


 俺は舌打ちして魔法式自動拳銃を彼女の小さな背中に装備させた。

「バズーカ砲だ」


 彼女は大きすぎる拳銃を背負い喜ぶがバズーカは商標登録された米軍の歩兵携帯用ロケット砲の名前だ。


……言うならロケット砲が正解……


突っ込みを入れるのも馬鹿らしくて俺は、はしゃぐ彼女を置き去りに先へと進む。


 良い天気でお出かけにはちょうど良い。


侯爵が好み住まう小さな館を去る。


侯爵の本拠第七東京城塞都市圏を進む。


名前は東京と残るが他はすべて入れ替わっている。


長い年月をかけて地名も大幅に変わった大都市を進む。


最寄りの商店街に向かう装甲列車に乗り込む。


多砲塔型装甲列車は進んで行く。


侯爵の大きすぎる城と兵装化戦闘ビル群ばかりの軍事要塞地表部から地下都市部分へと進み天井部分の駅で俺は降りる。


そのまま階段を進みエレベータに乗り込むと浮遊式八枚レシプロ推進の魔道型飛行バスに乗り込む。


侯爵直属兵の特権で料金を無料で済ませる。


すると座席に座り地下の空から大都市を眺める。


広大な地下空間には幅も厚みもある塔型都市と商店群と学校と生産プラントがある。


浮遊する公園や公会堂や巨大レジャー施設や図書館も見かけた。


 この地下空間に住める者は特権階級のみ。


動力源の秘密を探りに多くのスパイが侵入を目指し地表部の巨大軍事設備群に駐留するガードに捕捉され死んだ。


だが時代は進んだ。


多くの塔型都市から住民は入れ替わった。


特権階級であった純潔日本人は多くが人口を維持できなくなり没落。


その代わり新人類である魔法民族や魔物化人類の穏健派や精霊化人類の新興貴族階級が新たな地下東京住民として超技術の建造物を引き継ぐ。


代替わりした彼らが繁栄を謳歌した。


飛行バスは進み俺の好きな第五神聖帝国時代の名残持つ古い商店街へ着陸。


客を吐き出し飛び去った。


俺は、はしゃぐ楓の背中を見ながら、少しだけ笑った。


こんな休日が、もう少しだけ続けばいいと思った。




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