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第十一話「戌亥が見た物と脱出」

   

司令装置と連結された培養シリンダー。


そいつがダンジョンをここから操っているらしい。


シリンダー型培養槽の内部見えるものがある。


治療液に浮かぶ少女の残骸。


頭部と下半身と上半身はある。


が、頭部は脳に達する四つの深い切れ込みが入り中身が見えている。


下半身は貫通創が多く、開腹処置を受け内部を修復中。


上半身は両腕が炭化し肩口から先僅かしか残らない。


 華奢で美しい顔ばかり無事。


だが、眼球が一つ欠け、培養槽内部で動くマシンアームが新たな機械式眼球をはめ込んでいる最中だった。


 培養槽にはネームプレートがあり情報解析された結果、敵性言語で、

『ダンジョンマスター葉山楓』と書かれている。


 こいつの撃破が任務だ。

 俺はロケットランチャーを構えた。

 小隊の残り人員も戸惑いつつ最大火力の武装を構え周辺警戒。

培養槽に大火力の粘着式爆薬を大量設置。


小隊は装甲防壁まで退避。


敵司令部装置であるこの空間設備を爆破した。

爆破と同時に小隊は大隊の支援を受け念入りに掃射。

残存設備群を破壊して行く。

シリンダー内部の女の子の肉体もまた爆散して行く。


ふとその時俺は、その少女の顔つきはどこかで見覚えがあったと瞬間的に気付く。


出征前スラム街となった第二仙台都市地上区画第四十五で出会ったエルフ娘とよく似ていた。


それは俺が死んだ時、記憶した戦場で見た冬精霊の顔ともそっくりであった。


そんな記憶とリンクした俺の意識は意味不明に深く動揺する。


何かに気づきかけている。


その事実に気づいた時思わず手を遮蔽物より先に伸ばした時、爆発は激しくなった。


俺は仲間たちに押さえつけられ遮蔽物奥に引きずられた。


爆発と炎と衝撃波をやり過ごし、俺にのしかかった出戸加奈中尉に尋ねられた。


「どうした?お前までストレス許容限界を迎えてしまったのか?」

「そうじゃない、さっきのダンジョンマスターが見覚えがあっただけだ」

「なに?」

「……何でもない退いてくれ」

 

 そうつぶやいた瞬間蔵王連峰にあるダンジョンはダンジョンマスターを失ったことを根拠に崩落を開始した。


周辺で明かりが、通常発光をやめ赤いレッドアラートを鳴らした。


多くの魔方陣が起動。


ダンジョンマスターを殺した俺たちを逃がしたくないのか、無数の高位モンスターが集結して小隊を襲った。


 俺たちは必死に大隊本部に連絡を入れ支援を求めた。


が、大隊は「先に撤退する。お前らも早く転送装置まで逃げろ」


そう言って通信を切り、以後応答しなくなった。


撤退しようにもここまで来た通路は多くが崩落してとても進めなくなっている。


大隊を跳び越え作戦本部に救援の通信を求めたが黙殺された。


「糞っ!見捨てやがった……」


第一分隊長である小野寺ヒロ少尉が悔しげにつぶやく。

第二分隊長の羽場切錬少尉が悲しげに俯き沈黙。

小隊長の出戸加奈中尉が唇をかみしめ数秒後に叫ぶ。


「ロウヤっ!お前の召喚している浮遊騎士団を集結させ私たちを援護させろ。

あの大型浮遊鎧に捕まれば高高度からでも飛行可能だ。ダンジョンの壁を爆破して、空から脱出するぞ……」


 その言葉を受け俺と小隊は頷き活力を取り戻す。


 なんて最高の女だ。不屈の魂を持つ精兵だ。

みんなそんな風に彼女をもてはやす。俺も喜び勇んで彼女の命令を実行した。


 出現する魔物は多いが司令塔を失っている。


指揮がばらばらで組織戦闘能力を喪失していたため小隊でも生き残れそうだった。


 俺は召喚兵に指示を下す。

一緒にテレポートした大隊の援護を辞めさせ召喚兵を小隊に集結。

 出戸小隊長の指示する方向の血路を開かせ始めた。

 それから俺は今までになく戦場の魂をかき集め千体のムカデ型陸戦兵を召喚。


 無理しすぎて俺は魔力払底。


体の素材が魔力の代わりに消費され血を吐く。

だが召喚は成功だった。


馬鹿野郎、彼女に言われながら応急処置を受けた。


千五百の召喚兵力に助けられ小隊は突き進み、ダンジョンの終末壁へ急いだ。


崩落する天井石を避けながら敵と戦い続けた。


崩落壁を乗り越え瓦礫を魔道砲で爆破し進む。


途中で道が炎で阻まれた。


ただの炎であれば魔法障壁で強引に突破できた。


が超高温プラズマ火球となった魔法炎が広く長く魔道設備から漏れ出していた。


 今の装備では突破不可能。


 足元の床を砕けば道を作れるやもしれない。


だが、ダンジョンの特殊構造を破壊できる貴重な魔法爆薬を過剰に消費してしまう。


 そうなればダンジョンの四方にある終末壁を砕いて空から脱出するのは不可能だ。


 迂回路を小野寺ヒロ少尉が提案しようとした。


刹那、背後で大爆発が起きて俺達小隊は全員が超高温プラズマ炎の中に押し出された。


 爆風で吹き飛ぶ。


小隊員は多くが不意を突かれ魔道障壁を発生させる前に焼き溶けて死んで行く。


 俺は運が良い事に魔道障壁展開が間に合った。

それ以上に出戸加奈を死なせたくなくなっていた。

 それは加奈に短時間であるが多く守られて惚れてしまったせいだろう。


 俺って奴は―――、なんて単純な奴だ。


苦笑しながら魔道障壁のバッテリーを交換し続けた。


延命し、出戸加奈を抱き上げ想像召喚を行う。


小隊の全員に叫ぶ。


「掴まるんだっ!」


 俺の足元から生まれる小型射出装置の取っ手を残存兵が掴んだ。


瞬間残存兵を加速発射した。


そのまま俺は短時間で再生産された魔力を魔法増幅発動体に預け全員を魔道障壁で庇う。


多くの道をふさぐ瓦礫をロケット砲で爆砕して道を開く。


超高温プラズマ炎を突っ切った。


 このことで俺は魔力を使い果たし床に崩れ倒れた。


 装備が重い、武装が煩わしい、体が熱い。


 でも残存兵に出戸加奈がいる。

 小野寺も羽場切も死んでしまったが他に六名が生き残っている。

 

 俺の仕事はまだ終わっていない。


危険な道に阻まれ俺達を援護できなくなった浮遊騎士鎧を再召喚する必要がある。


俺は一度送還し再召喚した。


この負担で俺は半リットル近い血反吐を吐いた。

 

だが、生きている。


十二体の浮遊騎士鎧に七名を運ばせ高速移動を繰り返した。


終末壁にたどり着いた。


まだ仕事は終わっていない。


俺は立ち上がり終末壁に向け浮遊騎士五体に魔道式ランスチャージを命じた。


自爆特攻上等な浮遊騎士鎧五体は猛烈な魔道エネルギーを背中から吹き上げ最大加速で壁に激突。


そのまま砲撃槍を延々と連射。


徐々に頑強過ぎるダンジョン壁がひび割れていき、ある瞬間を越えた途端崩落。


壁の向こうの世界に天空が見えた。


……良いぞっ……


脱出までもう少しだっ!



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