第十話「戌亥オリジン」
説明を喰らう。
―――、我々は進出に成功した、―――
現在敵中枢ダンジョンマスター、葉山楓を追い詰めるも、先発部隊は苦戦している。
そこで最新鋭の戦術転送装置をこの階層に運び込み展開が完了している。
まず戦術核爆発の援護射撃を実行したのち、貴様らは選抜突撃大隊に採用され先頭突出して機械天使兵「戌亥オリジン」を支援せよ。
ダンジョンマスターを仕留めるまで突撃を辞めるな。
出撃時間まで残り七分、、、兵装は射撃系重装備を選択しろ、、、以上解散、――
出戸加奈は大隊長尾賀少佐へ「了解」と言い
小隊で残存する兵員も敬礼を返した。
此処まで来る間、俺の所属した小隊はそこまで損害出さずにこれた。
装備損壊はあったが、人員は幸運にも怪我脱落だけで済んでいた。
だが、皆の疲労が濃い、次の戦闘が激戦であれば必ずや死傷者を出すだろう。
これは山勘ではなく戦術AIの長考した結論だった。
俺は再度、死者を出さない作戦をAIに計算させた。
だが七分では結論を出してくれなかった。
耳からイヤホンを外す。
聞き続けた「亜麻色の乙女」を切る。
原曲の改変創作者はドラッグ使用を咎められた罪深き作者。
その人が生み出した音楽を諦め古代の日本に思いをはせることを俺は辞めた。
此処まで来る戦闘で俺の額の角は折られた。
皆に言っていないが角が折れて内心で人っぽく成った顔を密かに喜んでいた。
角アンテナが折れ魔法適性が若干落ちた。
が、その代わりの魔道具装備を受け取り戦ってきた。
しかし、ここに来て小隊は壊滅の運命をもたらされた。
その命令に服従するしかない現実が音楽で癒され気分の良い心に冷や水を浴びせた。
七分はあっという間に過ぎ去った。
狼夜はハルバートを陣地に置き去り二十連発弾倉式ロケット砲を担いだ。
胸ベルトには亜空間式ロケット弾弾倉を三つ装備。
背中には個人魔力充填式重機関銃を装備。
輪弾倉砲は外し、近接兵装はミスリルチタン混合傾斜合金製のダガー型超振動ブレードのみとなった。
小隊残存二十五名はそれぞれが指定された転送装置魔法陣へと乗り込んだ。
魔法発動合図を待つ。
その間小型戦術核爆弾が運び込まれ先行して七発が転移。
転移と同時にダンジョンマスターの最後の防壁である小城門前にて攻撃が進む。
射出装置から放たれた手榴弾サイズの核弾頭は射出装置により砲撃発射。
百九十九階層ゲートキーパーである近代化デーモンナイト百三十五名の陣地に展開する魔道具兵器が発生させた魔道障壁とぶつかり爆発。
放射能汚染を優先した三発と核爆発威力を優先した四発が圧倒的破壊の奔流となって生命の生存を許さなかった。
デーモンナイト百三十五体は装備を焼き溶かされなおも立ち戦隊旗を掲げ装甲門前の陣地を固守。
そこに械天使兵「戌亥オリジン」は放射能汚染の中、突出、門を蹴り上げた。
二枚の装甲門は叩き砕かれた。
激しく内部に飛び込み城の壁にぶつかり大爆発を起こし戌亥オリジンは雷撃槍を放電しながら成形。
城通路に投げ込んだ。
先の核爆発以上の高温と衝撃波が弾着地点に発生し内部をどろどろの燃え煮えたぎる溶岩物質に変換してしまう。
更に戌亥オリジンは突き進む。
城より先の生産工場にたどり着き破壊の限りを尽くす。
俺たちはそんな戦場に大隊戦力として投入された。
先行する戌亥オリジンの撤退路を確保するために大隊は各地で通路確保の攻防戦を繰り広げる。
敵は戌亥オリジンに気を取られた。
追加侵入した大隊まで多くの迎撃戦力を裂かなかった。
俺は上官加奈の命令で彼女のそばに立ち現時点最強の召喚を行う。
浮遊する騎士鎧の上半身。
そいつは馬上槍のランスを半分にぶった切ったようなエネルギー大砲を右腕に構え左腕にタワーシールド型魔道具を起動させエネルギーシールドを展開。
球状の防御フィールドが生まれ全身を防御した。
そいつらを五百体展開して大隊戦闘を援護させた。
俺はこいつらを複雑に指揮する為に上官加奈に届く戦闘情報を読み込んで召喚兵へ細かな命令を放ち続けた。
騎士型の砲撃兵を細かく動かし続けた。
俺自身は敵集団へロケット砲を加奈の言う方角へ放った。
戦闘開始、二日と二時間四十五分経過地点の事だった。
先行する機械天使兵「戌亥オリジン」の背後二百メートル。
その付近まで大隊は近づく。
通路の折れ曲がった先でオリジンの悲鳴を聞いた。
少年の悲鳴だ。
喉が変質し成長期を迎えた声は、大人と子供の境目みたいな悲鳴だった。
「何で生きてるんだっ!どうしてっ!どうして君がここに居るっ何故だっ!」
余裕のない叫び声は戦士の中の戦士とは思えなかった。
そう記憶した。
冷酷かつ圧倒的戦果を叩き出してきた戌亥オリジンの声とは思えず仲間たちは顔を見合わせる。
だが大隊長は顔をしかめ俺たちに全力突撃を命じ大隊が全力支援すると保証した。
意味の分からない状況だった。
が、兵士である以上命令に否はない。
小隊二十五名は通路の先へ進んだ。
折れ曲がる通路の果て……
崩落した無人機械の自動迎撃システムが操る戦闘アームが無数に破壊され転がる。
無力化された生産設備群の大広間に俺達は出た。
戌亥オリジンは頭を抱え震え、意味不明な事をぶつぶつ呟き戦闘放棄。
彼へ、敵増援の無人戦闘システムが砲爆撃を加えている。
戌亥を守る装備から自動展開された防御障壁で敵弾を弾いているがバッテリーが尽きるのは時間の問題だろう。
これだから人型生体兵器は俺を含め駄目なんだ。
ストレスの許容値を越えてしまえばどれほど武装と肉体が健全でも戦闘不能になる。
だからこそ、第五神聖帝国は人のクローン兵を何百年と否定してきた。
人型の兵器に心あれば、優しさと人権を与え心強く成るまで待たねばならない。
その手間を省いて量産しても、戦闘がもたらす非人道性に負け未熟で弱い純粋な心を砕かれクローン兵は戦場に無能な兵器として敗れ残骸を曝す。
その証明が「戌亥オリジン」かも知れない。
大隊長からの通信が入り命令受領。
小隊は一個分隊を分割派遣。
戌亥オリジンを救出して後送した。
小隊本隊は大隊をさらに離れ進出と戦闘を続ける。
残存する自動兵器システムを粉砕。
戦闘が小康状態になった時俺たちは、戌亥オリジンが見上げた物体を観察した。
脈動する魔力炉、無数のケーブルが絡みつく中枢
敵ダンジョンの司令部装置だ。




