第一話「卑劣なる歴史改変の落とし子」
―――、プロローグ:帝国の歴史、―――
1941年、十二月八日。
連合艦隊総司令官山本五十六は真珠湾を攻撃しなかった。
大日本帝国は連合艦隊を帰還させ太平洋戦争の戦端を開かず艦隊は広島呉軍港に帰還解散した。
大日本帝国は既に中国大陸で始めた日中戦争からも徐々に足を洗い多くの権益を放棄。譲れない若干分を除き中国への野心を捨てた。
その見返りに欧米中国からの歓心と融和意識を買う。
それを奇貨に対ソ連絶対国防圏を朝鮮半島に敷いた。
欧米、中国、ソ連、との民族意識・権益・領土問題に端を発し政治問題化した満州を共同開発特区として国際連携企業連合共同開発を提唱。
その保障に傀儡国家満州国を手放した。
この一連の電撃的政治運動と軍隊の再配置・撤退を受け国際世論は物議をかもす。
政策方針の大転換は国民と軍部から猛烈な批判を浴びるが、「何故か」「奇妙な事に」政治家が骨を見せやり果せた。
おかしい、正史と違いすぎる。
誰がこんなことをした?
とある正史を知る人物は呟く。
「何なんだこれは」
その後、大日本帝国はさらに奇妙な歴史を歩む。
日独伊三国協定を大日本帝国は一方的に破棄。
ドイツとイタリアを激怒させつつ日本は無視。
すでに大戦争を開始した欧州との戦争から距離を取る。
ヒトラーが吠える。
「小日本帝国の裏切り者を誅せよッ!」
彼の言葉は虚しい。
地球の裏側同士ではまともに戦闘部隊を送るのは不可能。
ヒトラー・ドイツはそもそも大戦争中であり日本帝国に復讐する軍事余力は無かった。
―――、大日本帝国はさらに奇妙な動きを示す、―――
米国追従姿勢を取りつつ、平和裏な形で、中国へ、米国共同植民地化計画を推進。
また結局、ドイツに宣戦布告した米国を援護する名目でドイツを叩きつつ戦争で荒廃した欧州に熱心に物資を売りつける。
日露戦争の戦費借款と第一次世界大戦終わりの不景気をこの物資売買で吹き飛ばす政治的剛腕を政治家が示した。
正史当時の軟弱政治家では不可能なこの動き、「誰かの意図」を予想する方が理解が早い状況が続く。
大日本帝国は富を得る。
その他第三世界と交流を深め大日本帝国は経済植民地を開発に成功。
多くの物資を格安で手に入れた。
第二次世界大戦は消滅し、第二次欧州大戦に戦争名は変更され歴史に名を刻む。
―――、帝国の動向、技術の秘密、―――
上手く世界大戦を損害軽微で済ませた大日本帝国は有り余る国力を背景に日本大要塞化計画を発表。
出自不明な超先進技術を駆使。
日本列島の大半を占める山岳地帯を森林豊かな工場と大規模地下要塞群に改変する大工事を推進。
本来二十一世紀科学をもってしても構築不可能な完結型地下循環都市および農園を多く作成。
この技術の出所を探りに世界中のスパイ組織が大日本帝国を訪れるも軒並み消息を絶ち報告は一切上がらなかった。
ただし、戦後温存された大日本帝国は、「天狗党」なる秘密政治結社に牛耳られている。
その報告だけは真実らしい。
―――、技術異常、と富の収奪―――
天狗党から超未来の科学技術がもたらされているという胡散臭い噂が各国の機密情報機関に長く流れ続けた。
世紀末ミレニアムカウントダウン。
それまでに大日本帝国は多くの開発を行い朝鮮半島だけを本格開発せず朝鮮半島も放棄。
要塞化した日本列島に大日本帝国は引きこもり世界経済のドンとして闇に暗躍を続ける。
世界の富その過半を集め世界中から嫉妬を買う。
しかし、ソ連と米国の冷戦下を超大金持ちとして富を蓄積しやり過ごしていく。
世界各国は安穏とした日本に激しい嫉妬を駆り立てられるも大規模に要塞化した日本列島を侵略してまで莫大な富を奪う野心を抱く大国は出現しなかった。
だが世界と日本の貧富の格差は拡大された。
国際世論に負け大日本帝国はフロンガス大容量高速吸収浄化装置と超大規模大気浄化装置と核融合発電設備と未来軍的精強さの治安軍の輸出開始。
輸出攻勢と共に世界中に安価なフロンガス冷媒クーラー装置とオゾンホール保護装置であるフロンガス回収装置をバラ撒き徐々に温暖化する地球を冷やすクーラーを設営。
核融合発電所の超発電力とエネルギー供給低コスト化に成功。
世界のエネルギー問題と大気汚染問題にケリをつけた。
その代り大日本帝国系列企業は世界経済の支配者となり、世界の富と資源を独占。
また派遣した治安軍の異常な強さで世界中の紛争を大日本帝国の勝利で解消。
ソ連と米国の世界を盤面にしたチェッカーゲームを制覇し、両超大国に睨まれる結果となった。
歴史が動く。
国連決議にのっとり大日本帝国は米ソ両超大国から連合軍を差し向けられた。
無数の核搭載大陸間弾道弾発射基地より日本列島は照準されつつ、二百万規模の軍勢を差し向けれら開戦間近となる。
大日本帝国バーサス世界中の軍事大国という図式がここに出来上がった。
戦争回避には大日本帝国が保有する超技術の開示と国連委託が要求される。
大日本帝国外交部は失笑、席をけった。
国連外交部は困惑する。
「彼らは一体何が望みなんだ」
「さてな、連中はマカーキーだからな、猿の考える事は判らん」
(古い日本人蔑称マカーキー)
―――、最後通牒を受け取った大日本帝国は沈黙。
ただ政府中枢は天皇陛下の採択を受け帝国陸海空軍に防衛戦準備と総力戦令を発令。
安穏とした大日本帝国臣民四億人に戦争の足音を強烈に意識させた。
―――、戦争の足音、―――
第三次世界大戦前夜つまり1999年12月末日。
アポカリプスは起きる。
世界各国から宣戦布告の宣言が政府に届き山積する。
そんな中、敵艦隊は太平洋と日本海に集結。大日本帝国は戦時体制を完了させ開戦のカウントダウンを年明け午前零時〇分丁度に発令。
天狗党首はこの日を待ちわび静かに嗤う。
彼は寿命を削り切る酒を用意させ乾杯の合図を狂おしく待つ。
そして、年が明ける。
世界は、帝国に膝を屈するのか――それとも。
実験作です。
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