<Ⅲ>
少女は光を見る。
光は文字を映す。
――。
少女は言う。
「これが私の居場所なんだ」
少女は光に手を伸ばす。
ふと壺のことを思い出す。
自分が入っていた壺。
少女は腕を止める。
もしも、そこに戻ってしまったらどうしよう。
一瞬の不安。
そして。
不安が全身を埋め尽くす。
少女は恐れることを知ってしまった。
少女が感じた恐怖。
今までは希望に満ち溢れていた。
しかし、今は怖くて体を動かすことも出来ない。
この光に触れたとき、自分はいったいどうなるのだろうか。
目指してた場所に行けるかのしれない。
でも、もしかしたらまた壺の中に行くかもしれない。
希望。
恐怖。
2つが彼女の中でぶつかり合う。
彼女に足りないもの。
それは勇気。
それは自信。
それは知識。
しかし彼女にもすでに得ているものがある。
それは体。
それは命。
それは心。
命を持ったもの。
それは個々によって、有るもの、無いもの、がある。
しかし彼女は知らない。
知ることが出来なかった。
彼女が知っているのは自分の名だけ。
――。
彼女は目の前にある光の名を見る。
――。
自分の名前。
名前。
――。
――は、自分の名前。
――は何?
「――は、私」
「私は、――」
不思議。
自分の名前を言う。
それだけで、恐怖が弱まるのを感じた。
――。
――。
――。
私の名前の光。
触れてもいいような気がしてきた。
触れなければいけないような気がしてきた。
触れると、良いことがありそうな気がしてきた。
触れると、良いことがある。
私は、迷わなかった。
私は、光に触れた。
私は、光に包まれた。
私は、消えた。