第28話
夜のリース男爵家。
ランプの灯りが照らす地下礼拝堂には、アリアナの冷静な声が響いていた。
「――動くわ。すべては、王家を玉座から引きずり下ろすために」
集まったのは、古くからリース家と縁を持つ貴族や商人、そして王都に潜伏している情報屋たち。かつて公爵だったリース家に恩を感じ、今も忠誠を誓う者たちだった。
アリアナは一枚の羊皮紙を掲げる。
「この文書には、王族が民を見捨てた証拠が書かれている。疫病の流行を隠し、王子の呪いを国民に伏せ続けた。すべて“国の安寧”のために、ってね」
彼女の口元が、皮肉に歪む。
「この紙を、夜明けと同時に王都の広場、教会、食堂前、ありとあらゆる場所にばら撒いてちょうだい」
「承知しました」
情報屋たちは、黙って頷き、夜の闇へ消えていった。
ーーー
続いて、アリアナは弟・カイルに手紙を手渡した。
「王都に残る“同志たち”へ。この手紙を届けて。彼らは、かつて私たちの家に忠誠を誓った者たち」
「彼らはいまだ没落せず、存在してくれていたんだね……姉さん」
カイルは手紙を懐にしまい、ぐっと拳を握った。
「俺が、彼らを目覚めさせる。……この国を変えるために」
「ええ。頼りにしてるわ、名代の王様」
ーーー
そしてもうひとつ、アリアナが動かしたのは、“噂”だった。
「語り部たちにも伝えて。『巫女が現れた』って」
神蛇の巫女が目覚め、王家の腐敗を裁き、新たな時代が来る――そんな物語を、民の間に広めさせる。
作り話でも、信じたい者がいれば現実になる。それが民衆心理というもの。
「“黒い蛇の巫女”がこの国を救うって、噂になるころには……王都は、ざわついているはずよ」
夜風が、アリアナの桃色の髪をふわりと揺らす。
その瞳には、決意しかなかった。
(あとは……一気に動くタイミングを見極めるだけ)
彼女の左腕の下――神蛇の契印が、静かに脈打っていた。




