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第17話

アリアナは、父の書斎に呼ばれた。


古びた棚に並ぶ文献の数々。壁にかかる蛇の紋章。

それらすべてが、彼女の過去に繋がっていたことを、今では理解できる。


父・エリアスは背を向けたまま、静かに語り始めた。


「……君がレオノールと関係を持った日。あれで、すべての条件が整った」


「……条件?」


エリアスはゆっくりと振り返る。

その瞳には、父親ではなく“神蛇の祭司”としての冷ややかな理性が宿っていた。


「アリアナ、君が“記憶を失っていたこと”――それこそが、我々の計画を成就させる唯一の鍵だった」


「……どういう、こと……?」


エリアスは、彼女の左腕の契印を見つめながら言った。


「神蛇の巫女の力を“完全に覚醒”させるには、三つの条件がある。


 一つ。王家の魔力を取り込む“器”であること。

 一つ。王家の血の者の“情”を得て、深く結ばれること。

 一つ。呪いの核を、自らの体に取り込むこと」


アリアナは息をのむ。


「私は……全部、それを……」


「そう。アリアナは完璧だった。だが、アリアナが“巫女としての自覚”を持っていたら、決して王子を愛することはなかっただろう。

あの男を拒み、任務を拒否し、巫女として覚醒する前に心が壊れていたかもしれない」


「だから……私の記憶を、消したの?」


エリアスは頷く。


「従順で、素直で、美しく、どこか儚げな――君本来の気の強さを覆い隠すため、神蛇の儀式で記憶を封じた。

少女が“恋に恋する”ような幻想の中で、王子に惹かれるように」


アリアナは、思わず胸を押さえる。


「……でも、私は……本当に、レオ様を……」


「愛していた。そうだ、それもまた必要な“契約”だった」


父の声が重く響く。


「巫女が王家の血を愛し、その精を体に受け入れ、

さらに王家の肉体を介して“神蛇の呪い”をその身に取り込むことで――


 王家の“王たる力”は、完全に巫女へと移行する」


アリアナは、左腕の契印を見下ろした。


(レオ様に何度も抱かれた。そのとき――精が、体の奥に……)


(その後、あの人の呪いを引き受けた……すべて、揃っていた)


「君の契印が“あの形”で完成したのは、偶然ではない。

君は今、この国の王家を滅ぼせる力を宿している。……いや、“すでに王の力を奪った存在”と言っていい」


アリアナの脳裏に、レオノールが苦悶の中で叫んだ最後の姿がよみがえる。


「気持ち悪い……もう会いたくない……」


「そして……愛した人を、利用してしまったのね。わたし……」


エリアスは一歩、娘に近づく。


「だが、その愛も利用も、意味があった。

君はこの国を変える力を手にした。……あとは、君がどうするかだ」


アリアナは唇を噛む。


王子を愛した少女は、今や国を揺るがす“神蛇の巫女”。


その運命を受け入れるには、もう少しだけ時間がかかるかもしれない。


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