第14話
一方その頃――
王と側近は、王宮の奥にある小部屋で密談を交わしていた。
「無事に終わりましたな、契印の儀。
左腕の呪いは、完全にアリアナ嬢のものとなったようで」
王は椅子にもたれながら、窓の外に浮かぶ月を見つめていた。
「ふむ。これでレオノールの精神は安定する。……少なくとも、しばらくはな」
「それで……本当に婚約者に据えるおつもりで?」
側近の問いに、王は鼻で笑った。
「まさか。あの娘は“使えた”というだけだ。
辺境のリース男爵家出身――神蛇信仰の血を引く、異端の末裔」
「神蛇……あの禁忌の」
「そうだ。表向きは滅びたが、血は消えぬ。
“器”として耐えられるのは、あのような女しかいなかった」
「ですが、“王子の婚約者”とまでおっしゃったはずでは……」
「甘言だ。信じさせればよい。
……実際、王子の他の愛人たち――五人いたが、全員が呪いを拒否した。
だがアリアナだけは、迷わず肩代わりを申し出た」
王の目は冷たかった。
「一番、騙しやすくて、従順で、都合がよかったということだ」
「では……婚約の“表の発表”は?」
「それすらしない」
側近が目を見開く。
「エルメイア公爵家の娘――セレナ嬢との婚約は、我が家にとって絶対に必要だ。
王位継承において、あの家の力は欠かせぬ。
あの娘の機嫌を損ねることは、致命的となる」
「……つまり、アリアナ嬢は」
「何者にもならない。
表に出ることもなく、“呪いの器”として王家の影に縛られるだけの存在だ」
「……ご明察にございます」
「彼女には、静かに“報酬”だけ与えておけばいい。
貴族の体裁、少しの資金、そして“王子の愛があったと思わせる記憶”――
それで、女は満足する」