第1話
連載版をスタートいたしました。お楽しみいただけると、嬉しいです。
桃色の髪が、夏の風にふわりと揺れた。
魔法学院の中庭。きらびやかな制服に身を包んだ令嬢たちの中でも、アリアナ・リースの姿は一際目を引いていた。
空色の瞳に、繊細なまつげ。雪のように白い肌に、笑みを浮かべるだけで春の訪れを思わせる――そんな少女だった。
けれど彼女の生まれは、ごく小さな辺境の男爵家。
王都に来るまで、本や草花以外に夢中になれるものなどなかった。
「そんなに気を張らなくていい。ここでは、君も僕も、ただの学院生なんだから」
微笑みながら声をかけてきたのは、第一王子レオノール。
その姿はまさに絵画から抜け出したような完璧さだった。
銀の髪、蒼い瞳。華やかでありながら、どこか影を含んだ微笑み。
初めて声をかけられたとき、アリアナの心は音を立てて落ちた。
「わたし……田舎の男爵家出身なのに、本当にただの学院生になっていいんでしょうか」
気後れしていた彼女の言葉に、王子は肩をすくめて言った。
「君は可愛い女の子なんだから、自信を持ったらいいよ。君は魅力的だよ。」
――その言葉を、信じてしまった。
ほんの数週間で、アリアナは王子に深く心を許した。
王子はとても優しかった。放課後の小道を歩くときも、ふたりきりの図書室でも。
ときおり人目を盗んで、そっと手を重ねてきた。その指の熱が嬉しくて、アリアナは目を伏せて笑った。
「……もうすぐ夏休みだね。君の故郷にも、花は咲いてる?」
「ええ、山の上に咲く野ばらが、ちょうど見頃です。とっても小さくて、でも可愛らしいんですよ」
「君みたいだね」
囁く声に、頬が熱くなる。
そんな甘い日々が、いつまでも続くと思っていた。